日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

[8poster01-13] T1.[トピック]変成岩とテクトニクス

2022年9月11日(日) 11:00 〜 13:00 ポスター会場 (ポスター会場)

[T1-P-10] (エントリー)マントルー地殻境界におけるマグネシウムとシリカの相対的移動度

*岡本 敦1、吉田 一貴1、大柳 良介2 (1. 東北大学、2. 国士舘大学)


キーワード:マントルー地殻境界、沈み込み帯、交代作用、マグネシウムとシリカ、溶液組成

海洋リソスフェア、または沈み込み帯において最も大きな物質的な境界の1つは地殻とマントルの境界である。地殻はシリカに富み、マントルはマグネシウムに富むために、水流体が存在する場合には大きな物質移動を伴った反応、すなわち交代作用が起こる。特に、地殻に石英が存在する場合、その溶解度は非常に高いために、沈み込み帯のプレート境界ではシリカがマントル側に移動して滑石などができるシリカ交代作用が起こると考えられている(Manning, 1995)。また、マントル-地殻境界を模擬したかんらん石-石英、かんらん石-斜長石の物質境界を用いた水熱実験(200-300 degreeC, 飽和蒸気圧)においては、石英や斜長石側が一方的に溶解して、かんらん石側にそれぞれ滑石/蛇紋石/蛇紋石+ブルース石+マグネタイト、Al蛇紋石/蛇紋石/蛇紋石+ブルース石+マグネタイトという反応帯を作ることを報告している(Oyanagi et al., 2020)。一方で、三波川変成帯などで観察される蛇紋岩体と泥質片岩の境界においては、蛇紋岩体側にトレモライト岩が形成し、泥質片岩側に緑泥石岩が形成することがしばしば報告されている(Okamoto et al., 2021)。このことは、マグネシウムがマントルから地殻へと移動していることを示唆している。本講演では、沈み込み帯におけるマグネシウムとシリカの移動度について、その要因と重要性について検討した結果を報告する。近年、開発が進んでいる、溶液の熱力学モデルを用いて、南海トラフの沈み込み帯の温度構造に沿って、泥質片岩及びかんらん岩と平衡な溶液組成を計算した。その結果、450˚C, 1GPa程度の条件において、泥質片岩中の水溶液ではシリカの濃度がマグネシウムに比べて4桁以上も高くなる、一方、蛇紋岩化したかんらん岩に平衡な流体は、Mg濃度の方がシリカよりも2桁ほど大きい。また、興味深いことに、マントル中のMg濃度は泥質片岩中のシリカ濃度と同等、または大きくなることが明らかになった。このことは、沈み込み帯深部の条件において、シリカとマグネシウムの相互の元素移動が起こることを示唆している。このような条件は、沈み込み帯流体のpHやそれによるMg(OH)2,aqなどの錯体の濃度が高いことに依存すると考えられる。また、シリカが流入してながら蛇紋岩化してマントルウェッジが膨張する、または、マグネシウムが抜けながら体積収縮しながら交代作用をする、という2つのケースについて離散要素法のシミュレーションをおこなった。その結果、流体圧の上昇の仕方、また亀裂の形成の仕方が大きく異なることが明らかとなった。この沈み込み帯溶液組成の違いを異なる沈み込み帯で比較するとともに、天然の産状との対応を詳細に検討する予定である。 Manning, C.E., (1995) Int Geol. Review, 337, 1074-1093; Oyangi et al., (2020) Geochim. Cosmochim. Act., 270, 21-42; Okamoto, A. et al., (2021) Comm Earth Env, 2:151