日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T4.[トピック]地球史

[8poster21-24] T4.[トピック]地球史

2022年9月11日(日) 09:00 〜 13:00 ポスター会場 (ポスター会場)


フラッシュトーク有り 9:00-10:00頃/ポスターコアタイム 11:00-13:00

[T4-P-3] (エントリー)上総層群黄和田層上部の微化石分析に基づく北西太平洋の前期更新世海洋変動

★「日本地質学会優秀ポスター賞」9/11受賞 ★

*桑野 太輔1、土屋 祐貴2、亀尾 浩司1、林 広樹3、宇都宮 正志4、久保田 好美5、万徳 佳菜子6、大浦 佑馬7、岡田 誠8 (1. 千葉大学、2. 名古屋大学、3. 島根大学、4. 産業技術総合研究所、5. 国立科学博物館、6. 国立環境研究所、7. 応用地質、8. 茨城大学)


キーワード:古海洋、更新世、石灰質ナノ化石、浮遊性有孔虫、上総層群

前期–中期更新世には,Mid–Pleistocene Transition (MPT) と呼ばれる気候の移行期が存在し,この間に氷期・間氷期の周期が約4万年から約10万年へと変化したことが知られている(e.g., Clark et al., 2006).これまで,北西太平洋海域においても,多くの古海洋学的な研究が進められてきたが(e.g., Matsuzaki et al., 2015),高い時間分解能での古海洋環境の復元は下部-中部更新統境界付近などの限られた層準でのみ行われている(e.g., Kubota et al., 2021).本研究では,MPTの開始付近(MIS 36–40)をターゲットとし,房総半島中央部に分布する上総層群黄和田層から産出する微化石群集の検討,および有孔虫化石の同位体分析をもとに古海洋環境の復元を行った.
得られた微化石群集と酸素同位体比の変動は,概ね氷期・間氷期のスケールでの変化が卓越しており,房総半島沖の海洋環境は,黒潮水域から黒潮フロントに近い混合水域の影響を受けていたと考えられる.また,微化石群集によって復元された表層海水温は,現在の房総半島沖と比較しても約2℃ほど高く,現在よりも温暖な海洋環境であったことが示唆される.しかし, MIS 38の後期(約125万年前)では,いずれのプロキシにおいても寒冷化が記録されており,このことから黒潮フロントの一時的な南下が発生したことが推定される.MIS 38では,中国内陸のレス堆積物が粗粒化し,東アジア冬季モンスーンの強化が推定されていることから(Sun et al., 2010),黒潮フロントの南下は東アジア冬季モンスーンとリンクしていた可能性が高いと考えられる.さらに,こうした大規模な黒潮フロントの南下は,MIS 38以降の氷期に発生することから,MPTに伴う寒冷化はMIS 38以降に開始したことが示唆される.

[引用文献] Clark et al., 2006, Quat. Sci. Rev. 25, 3150–3184. Kubota et al., 2021, Prog. Earth Planet. Sci. 8, 29. Matsuzaki et al., 2015, Mar. Micropaleontol. 118, 17–33. Sun et al., 2010, Earth Planet. Sci. Lett. 297, 525–535.