[T7-P-1] (エントリー)愛媛県東温市滑川渓谷の中部中新統石鎚層群高野層
【zoomによるフラッシュトーク有り】9/11(日)9:25-9:30
キーワード:中新世、愛媛、高野層、石鎚層群、外帯珪長質火成岩、瀬戸内火山岩
中期中新世の西南日本では,活発な火成活動により瀬戸内火山岩類や外帯珪長質火成岩類が形成された.この火成活動はその直前に起こっていた日本海や四国海盆の拡大と関連して生じたと考えられている (例えば, Shimoda et al., 1998).四国北西部の石鎚山周辺からその西方に分布する石鎚層群 (堀越, 1957) もまた,この時期の火成活動の産物である.
石鎚層群は下部~中部中新統の久万層群を傾斜不整合に覆い,下位から高野層・黒森峠層・皿ヶ峰層・天狗岳層で構成される (例えば, 吉田ほか, 1993).しかしながら,これまでの石鎚層群の研究は石鎚コールドロンを中心に, 同層群最上部の天狗岳層を主に扱っていて (例えば, Yoshida, 1984),それより下位の層については研究があまり進んでいないのが現状である.同層群を形成した石鎚火成活動全体を理解するためには,下位層に関する詳細な層序学的・岩石学的研究が必須である.そこで本研究では,石鎚火成活動の初期の様子を明らかにすることを目指し,愛媛県東温市の滑川渓谷において,同層群の最下部を構成する高野層の調査をおこなった.
調査地域の高野層は層厚が 300 m ほどで,滑川渓谷では最下部と最上部を除き,全層厚にわたってほぼ連続して露出する.この地域の同層は,全体が一連の cooling unit を構成する流紋岩質火砕流堆積物からなる.また,同層は結晶片岩の細片を異質岩片として含む中程度ないし強く溶結した火山礫凝灰岩からなる下部 (層厚約 80 m) と,高温石英・黒雲母を多く含む溶結の弱い結晶質凝灰岩からなる上部 (200 m) の大きく二つの岩相に分けられ (堀越, 1957),下部から上部へは層厚 25 m程度の漸移部を挟んで漸移する.一方で,下部に上部の岩相が,あるいは上部に下部の岩相が挟まることはない.溶結の程度の急激な変化や異質岩片の量などに基づけば,少なくとも下部は 5 つ, 上部は 3 つの flow unit に区分することができる. 下部から上部まで全体的にザクロ石が含まれ,下部はそれ以外に石英・黒雲母・斜長石を,上部は石英 (特に高温石英)・黒雲母・斜長石・サニディンを多く含んでいる.
高野層の上位には,黒森峠層が露出する.この地域の黒森峠層は,層厚 170 m 以上で,最下部に側方へ連続しない礫岩を挟むほかは,安山岩質な火砕流堆積物 (block and ash flow 堆積物を含む) からなる.斜長石・角閃石・直方輝石が多く含まれる.
流紋岩質でザクロ石を含むという高野層の特徴は,瀬戸内火山岩類の流紋岩と類似する (例えば, Shimoda and Tatsumi, 1999).全岩化学組成についても,瀬戸内火山岩類や外帯珪長質火成岩類のものとよく似ている.ただし,瀬戸内火山岩類よりも Y や Nb に富むという点では外帯珪長質火成岩類に近い (新正ほか, 2007).また,高野層の最上部では全岩化学組成が流紋岩質からデイサイト質へとわずかに苦鉄質に変化するようである.このことは,上位の黒森峠層を形成した安山岩質マグマの活動が高野層堆積末期にはすでに始まりつつあったことを示しているのかもしれない.
滑川渓谷に露出する高野層最上部の結晶質凝灰岩について,LA-ICP-MS を用いたジルコンU–Pb年代測定をおこない,約 14.6 Ma の加重平均年代を得た.また,調査地域南方の久万高原町で割石川に露出する久万層群明神層最上部の凝灰岩からは約 15.2 Ma の年代を得ている.これらの年代からは,明神層と高野層とが構造的には傾斜不整合でありながら,両者の間の時間間隙は短かったことを示している.
引用文献
堀越 (1957) 愛媛大紀要, 2, 127–137; Shimoda and Tatsumi (1999) Island Arc, 8, 383–392; Shimoda et al. (1998) EPSL, 160, 479–492; 新正ほか (2007) 地雑, 113, 310–325; Yoshida (1984) JGR, 89, 8502–8510; 吉田ほか (1993) 地質学論集, 42, 297–349.
石鎚層群は下部~中部中新統の久万層群を傾斜不整合に覆い,下位から高野層・黒森峠層・皿ヶ峰層・天狗岳層で構成される (例えば, 吉田ほか, 1993).しかしながら,これまでの石鎚層群の研究は石鎚コールドロンを中心に, 同層群最上部の天狗岳層を主に扱っていて (例えば, Yoshida, 1984),それより下位の層については研究があまり進んでいないのが現状である.同層群を形成した石鎚火成活動全体を理解するためには,下位層に関する詳細な層序学的・岩石学的研究が必須である.そこで本研究では,石鎚火成活動の初期の様子を明らかにすることを目指し,愛媛県東温市の滑川渓谷において,同層群の最下部を構成する高野層の調査をおこなった.
調査地域の高野層は層厚が 300 m ほどで,滑川渓谷では最下部と最上部を除き,全層厚にわたってほぼ連続して露出する.この地域の同層は,全体が一連の cooling unit を構成する流紋岩質火砕流堆積物からなる.また,同層は結晶片岩の細片を異質岩片として含む中程度ないし強く溶結した火山礫凝灰岩からなる下部 (層厚約 80 m) と,高温石英・黒雲母を多く含む溶結の弱い結晶質凝灰岩からなる上部 (200 m) の大きく二つの岩相に分けられ (堀越, 1957),下部から上部へは層厚 25 m程度の漸移部を挟んで漸移する.一方で,下部に上部の岩相が,あるいは上部に下部の岩相が挟まることはない.溶結の程度の急激な変化や異質岩片の量などに基づけば,少なくとも下部は 5 つ, 上部は 3 つの flow unit に区分することができる. 下部から上部まで全体的にザクロ石が含まれ,下部はそれ以外に石英・黒雲母・斜長石を,上部は石英 (特に高温石英)・黒雲母・斜長石・サニディンを多く含んでいる.
高野層の上位には,黒森峠層が露出する.この地域の黒森峠層は,層厚 170 m 以上で,最下部に側方へ連続しない礫岩を挟むほかは,安山岩質な火砕流堆積物 (block and ash flow 堆積物を含む) からなる.斜長石・角閃石・直方輝石が多く含まれる.
流紋岩質でザクロ石を含むという高野層の特徴は,瀬戸内火山岩類の流紋岩と類似する (例えば, Shimoda and Tatsumi, 1999).全岩化学組成についても,瀬戸内火山岩類や外帯珪長質火成岩類のものとよく似ている.ただし,瀬戸内火山岩類よりも Y や Nb に富むという点では外帯珪長質火成岩類に近い (新正ほか, 2007).また,高野層の最上部では全岩化学組成が流紋岩質からデイサイト質へとわずかに苦鉄質に変化するようである.このことは,上位の黒森峠層を形成した安山岩質マグマの活動が高野層堆積末期にはすでに始まりつつあったことを示しているのかもしれない.
滑川渓谷に露出する高野層最上部の結晶質凝灰岩について,LA-ICP-MS を用いたジルコンU–Pb年代測定をおこない,約 14.6 Ma の加重平均年代を得た.また,調査地域南方の久万高原町で割石川に露出する久万層群明神層最上部の凝灰岩からは約 15.2 Ma の年代を得ている.これらの年代からは,明神層と高野層とが構造的には傾斜不整合でありながら,両者の間の時間間隙は短かったことを示している.
引用文献
堀越 (1957) 愛媛大紀要, 2, 127–137; Shimoda and Tatsumi (1999) Island Arc, 8, 383–392; Shimoda et al. (1998) EPSL, 160, 479–492; 新正ほか (2007) 地雑, 113, 310–325; Yoshida (1984) JGR, 89, 8502–8510; 吉田ほか (1993) 地質学論集, 42, 297–349.