[T7-P-2] (エントリー)島根県隠岐島後に産する変花崗岩類の岩石学的・地球化学的特徴
【zoomによるフラッシュトーク有り】9/11(日)9:30-9:45
キーワード:隠岐帯、隠岐島後、変花崗岩、古原生代、北東アジア
隠岐変成岩類の地質学的位置づけは中国大陸-韓半島-日本列島を含めた北東アジアの地質基盤構造の理解やペルム紀-三畳紀以前の当地のテクトニクスを議論するうえで重要である.最近,その位置づけに関して2つの説がある.1つ目は,隠岐変成岩類中の古原生代の変花崗岩(約1.97-1.81Ga)が火山弧型の化学組成を有するために韓半島のYeongnam massifに対比される説である(Cho et al., 2021).2つ目は,隠岐変成岩類が古原生代(約1.85Ga)のグラニュライト相に達する変成作用を被っていることからGyeonggi massif北部に対比される説である(Kawabata et al., 2021).これらの説に関しては,いくつか解決すべき問題点もある.前者では,まず変花崗岩の検討試料数が少ないことがあげられる.さらに地球化学的判別図により火山弧型花崗岩としているが,マグマの起源物質を堆積岩と推定しているためにテクトニクス背景を限定できるかは要注意である.また後者では,Gyeonggi massif北部に対比しているが,ここに普遍的とされる衝突帯型花崗岩(Lee et al., 2014)の存在がまだ隠岐島後に確認できていない.このような背景から,本研究では隠岐島後の変花崗岩に注目し,地質調査,岩石記載,および全岩化学分析を行った.
隠岐島後の北東部には新生代火山岩類の基盤岩として円環状に隠岐変成岩類が露出する.岩相はミグマタイト質片麻岩が多くを占め,角閃岩や変花崗岩を伴う(例えば,山内ほか,2009).これまで隠岐片麻岩類の変花崗岩に注目した調査報告は少ないが,本調査によって大小さまざまな規模で普遍的に産することが確認された.変花崗岩には2つの産状が認められ,ひとつは片麻岩の片理を切る不調和タイプ,もう1つは塊状のブロックタイプである.大多数は不調和タイプの産状を示し,ブロックタイプは今のところ1露頭である.薄片観察では両タイプの鉱物組合せに大きな違いはなく,主に石英,斜長石,アルカリ長石,黒雲母を含み,少量のザクロ石を伴うことがある.
全岩化学分析の結果から,コンドライトで規格化したREEパターン図の検討を行った.不調和タイプでは,高REE量かつEuの負異常を持つものと,低REE量かつEuの正異常を持つものが認められた.高REE量のものは相対的に「高HFS量」である傾向があり,低REE量のものは「低HFS量」である傾向がある.また,不調和タイプはPearce et al.(1984)のY+Nb vs Rbの判別図で,火山弧型,衝突帯型,プレート内型の幅広い特徴を示す.高HFSタイプは火山弧型~プレート内型の傾向があり,低HFSタイプは火山弧型~衝突帯型の傾向がある.一方,ブロックタイプの地球化学的特徴に関しては現在検討中である.
今回は不調和タイプの変花崗岩の検討を中心に紹介する.上述のように高HFSタイプと低HFSタイプのREEパターンには違いがあり,そのEu異常とREE含有量の傾向から長石類の分別効果が疑われる.そこで平衡結晶作用のモデル計算を試みた.その結果,主に斜長石とアルカリ長石が結晶化した際に,高HFS量のメルトと低HFS量の集積岩とに分離したことが示唆された.したがって,地球化学的判別図の使用や成因の検討には,メルト相に区分される試料を扱うことが好ましい.メルト相の試料(高HFSタイプ)をPearce et al. (1984)の判別図で確認すると,長石の分別が進行するにつれて火山弧型からプレート内型に組成が変化していることが示唆された.このことから,不調和タイプの変花崗岩は,火山弧型の特徴をもつ親マグマから生成されたと解釈できる.ただし,マグマの起源物質が火山弧型であると解釈されるものの,その活動場を火山弧に断定できるとは限らず,今後の更なる検討を要する.
引用文献:Cho et al. (2021) Lithos, 396, 106217; Kawabata et al. (2021) Journal of Metamorphic Geology, 40(2), 257-286; Lee et al. (2014) Precambrian Research, 248, 17-38; 山内ほか(2009) 地質調査総合センター, 14-19; Pearce et al. (1984) Journal of petrology, 25(4), 956-983.
隠岐島後の北東部には新生代火山岩類の基盤岩として円環状に隠岐変成岩類が露出する.岩相はミグマタイト質片麻岩が多くを占め,角閃岩や変花崗岩を伴う(例えば,山内ほか,2009).これまで隠岐片麻岩類の変花崗岩に注目した調査報告は少ないが,本調査によって大小さまざまな規模で普遍的に産することが確認された.変花崗岩には2つの産状が認められ,ひとつは片麻岩の片理を切る不調和タイプ,もう1つは塊状のブロックタイプである.大多数は不調和タイプの産状を示し,ブロックタイプは今のところ1露頭である.薄片観察では両タイプの鉱物組合せに大きな違いはなく,主に石英,斜長石,アルカリ長石,黒雲母を含み,少量のザクロ石を伴うことがある.
全岩化学分析の結果から,コンドライトで規格化したREEパターン図の検討を行った.不調和タイプでは,高REE量かつEuの負異常を持つものと,低REE量かつEuの正異常を持つものが認められた.高REE量のものは相対的に「高HFS量」である傾向があり,低REE量のものは「低HFS量」である傾向がある.また,不調和タイプはPearce et al.(1984)のY+Nb vs Rbの判別図で,火山弧型,衝突帯型,プレート内型の幅広い特徴を示す.高HFSタイプは火山弧型~プレート内型の傾向があり,低HFSタイプは火山弧型~衝突帯型の傾向がある.一方,ブロックタイプの地球化学的特徴に関しては現在検討中である.
今回は不調和タイプの変花崗岩の検討を中心に紹介する.上述のように高HFSタイプと低HFSタイプのREEパターンには違いがあり,そのEu異常とREE含有量の傾向から長石類の分別効果が疑われる.そこで平衡結晶作用のモデル計算を試みた.その結果,主に斜長石とアルカリ長石が結晶化した際に,高HFS量のメルトと低HFS量の集積岩とに分離したことが示唆された.したがって,地球化学的判別図の使用や成因の検討には,メルト相に区分される試料を扱うことが好ましい.メルト相の試料(高HFSタイプ)をPearce et al. (1984)の判別図で確認すると,長石の分別が進行するにつれて火山弧型からプレート内型に組成が変化していることが示唆された.このことから,不調和タイプの変花崗岩は,火山弧型の特徴をもつ親マグマから生成されたと解釈できる.ただし,マグマの起源物質が火山弧型であると解釈されるものの,その活動場を火山弧に断定できるとは限らず,今後の更なる検討を要する.
引用文献:Cho et al. (2021) Lithos, 396, 106217; Kawabata et al. (2021) Journal of Metamorphic Geology, 40(2), 257-286; Lee et al. (2014) Precambrian Research, 248, 17-38; 山内ほか(2009) 地質調査総合センター, 14-19; Pearce et al. (1984) Journal of petrology, 25(4), 956-983.