[T12-P-1] 伊豆大島南東部龍王崎域におけるマグマ活動
【zoomによるフラッシュトーク有り】9/11(日)9:00-9:05
キーワード:伊豆大島、寄生火山、斜長石コントロール、結晶分化作用
伊豆大島は,伊豆-小笠原-マリアナ弧の最北端に位置する活動的な火山島である. 3つの旧火山体(岡田・筆島・行者窟)を基盤とし,下位から泉津層群,古期大島層群(Older Oshima Group;以下OOG),新期大島層群(Younger Oshima Group;以下YOG)に区分されている[1].
本研究では,伊豆大島南東部龍王崎域の火山噴出物の分布・特性から,同地域の火山活動様式について考察した.龍王崎域に分布する海食崖には,下位から龍王崎溶岩,龍王崎火山礫凝灰岩層(以下RLT層),波浮火山礫凝灰岩層(以下HLT層)が露出する.それぞれの火山礫凝灰岩層(Lapilli Tuff層;以下LT層)には,周期数cmから数m規模のさまざまなクロスラミナを伴うサージ堆積物が認められ,岩相の違いから下部,中部,上部に細分した.
本地域の最下部には,龍王崎溶岩が露出する.溶岩表面は,暗赤色又は黒色を呈し,アアクリンカーが観られる.
RLT層(最大層厚は約20 m)は,龍王崎溶岩の上位に堆積するLT層で,基質は細粒な灰色火山灰から構成される.また,RLT層が龍王崎から離れるに従い薄層化することに加えて,2010年度に東海大学海洋地質研究室が行った海底精密地形探査より,龍王崎沖の海底にて計5つの火口がみとめられているため,この爆発が龍王崎沖での活動であったと推定した. 本層に含まれる岩片を,記載岩石学的特徴及び全岩化学分析の結果より,(1)Mg値46~53,Al2O3が16~22wt.%のグループ,(2) Mg値が43~45,Al2O3が14~16wt.%のグループ,(3) Mg値が40~44,Al2O3が18~20wt.%のグループに分類した.(1),(2)グループは,それぞれ基盤である筆島溶岩とOOG相当である龍王崎溶岩と類似の組成or岩石化学的特徴を示し,それらを起源とする可能性が示唆されるが,(3)グループに類似する溶岩は本調査地域で確認されておらず,岩片の起源については不明である.
HLT層(最大層厚25 m)は,RLT層の上位に堆積する.9世紀[1]のスリバチ火口近傍から玄武岩スパター[2]及び波浮溶岩[3]([2]のN3部層に相当)を噴出する陸上での活動から始まり,この波浮溶岩流が現在の波浮港付近で海水と接触し,マグマ水蒸気爆発を起こし,HLT層は堆積したと考えられている. 本層に含まれる岩片は記載岩石学的特徴及び全岩化学分析の結果より,上記の(1),(2),(3)グループに加えて,OOG溶岩(カキハラ溶岩[5],下原溶岩[4]),および波浮溶岩起源岩片等、下位に分布する全ての溶岩の岩石が観られた.
以上のことから,伊豆大島南東部龍王崎周辺では,火砕サージや巨大な噴石を伴ったマグマ水蒸気爆発が複数回起こった可能性が示唆される.
RLT層とHLT層で観察された岩片のうち,グループ(3)については,本調査地域における陸上溶岩流としては観察されていない.本研究では,龍王崎溶岩と同じマグマだまり内で生じた分化,または筆島溶岩の分化が進んだ溶岩を起源とするものであると推定した.一方で,伊豆大島では,[6]によって,カルデラ活動期前後に噴出したいくつかの溶岩についてplagioclase controlled magma(以下Pl-magma) とdifferentiated magma(以下D-magma) という二つのタイプへの分類および,2つのマグマが山頂もしくは山腹噴火起源なのかについての研究がなされている.これもふまえて,本研究では伊豆大島南東部というローカルな範囲でもPl-magmaとD-magmaという二つのマグマタイプへの分類が適用できるかどうかの検討を行った.検討を行う際の値として,[6]のNo.R26303のデータを用いた.その結果,伊豆大島南東部の溶岩の内,旧火山体の筆島溶岩を除いて,カキハラ溶岩と龍王崎溶岩,グループ(3)はPl-magma,下原溶岩と波浮溶岩はD-magmaに分類できることが示唆された.
引用文献
[1] Nakamura (1964) Bull. Earthq. Res. Inst., Univ. Tokyo, 42, 649-728.[2] 一色 (1984) 地域地質研究報告 (5万分の1図幅), 地質調査所, 133 p.[3] 西尾・大坪 (2018MS) 東海大学海洋学部海洋地球科学科2018年度卒業論文.[4] 田沢 (1980) 火山, 25, 137-170.[5] 田沢 (1981) 火山, 26, 249-261.[6] Nakano and Yamamoto (1991) Bull Volcanology, 53, 112-120
本研究では,伊豆大島南東部龍王崎域の火山噴出物の分布・特性から,同地域の火山活動様式について考察した.龍王崎域に分布する海食崖には,下位から龍王崎溶岩,龍王崎火山礫凝灰岩層(以下RLT層),波浮火山礫凝灰岩層(以下HLT層)が露出する.それぞれの火山礫凝灰岩層(Lapilli Tuff層;以下LT層)には,周期数cmから数m規模のさまざまなクロスラミナを伴うサージ堆積物が認められ,岩相の違いから下部,中部,上部に細分した.
本地域の最下部には,龍王崎溶岩が露出する.溶岩表面は,暗赤色又は黒色を呈し,アアクリンカーが観られる.
RLT層(最大層厚は約20 m)は,龍王崎溶岩の上位に堆積するLT層で,基質は細粒な灰色火山灰から構成される.また,RLT層が龍王崎から離れるに従い薄層化することに加えて,2010年度に東海大学海洋地質研究室が行った海底精密地形探査より,龍王崎沖の海底にて計5つの火口がみとめられているため,この爆発が龍王崎沖での活動であったと推定した. 本層に含まれる岩片を,記載岩石学的特徴及び全岩化学分析の結果より,(1)Mg値46~53,Al2O3が16~22wt.%のグループ,(2) Mg値が43~45,Al2O3が14~16wt.%のグループ,(3) Mg値が40~44,Al2O3が18~20wt.%のグループに分類した.(1),(2)グループは,それぞれ基盤である筆島溶岩とOOG相当である龍王崎溶岩と類似の組成or岩石化学的特徴を示し,それらを起源とする可能性が示唆されるが,(3)グループに類似する溶岩は本調査地域で確認されておらず,岩片の起源については不明である.
HLT層(最大層厚25 m)は,RLT層の上位に堆積する.9世紀[1]のスリバチ火口近傍から玄武岩スパター[2]及び波浮溶岩[3]([2]のN3部層に相当)を噴出する陸上での活動から始まり,この波浮溶岩流が現在の波浮港付近で海水と接触し,マグマ水蒸気爆発を起こし,HLT層は堆積したと考えられている. 本層に含まれる岩片は記載岩石学的特徴及び全岩化学分析の結果より,上記の(1),(2),(3)グループに加えて,OOG溶岩(カキハラ溶岩[5],下原溶岩[4]),および波浮溶岩起源岩片等、下位に分布する全ての溶岩の岩石が観られた.
以上のことから,伊豆大島南東部龍王崎周辺では,火砕サージや巨大な噴石を伴ったマグマ水蒸気爆発が複数回起こった可能性が示唆される.
RLT層とHLT層で観察された岩片のうち,グループ(3)については,本調査地域における陸上溶岩流としては観察されていない.本研究では,龍王崎溶岩と同じマグマだまり内で生じた分化,または筆島溶岩の分化が進んだ溶岩を起源とするものであると推定した.一方で,伊豆大島では,[6]によって,カルデラ活動期前後に噴出したいくつかの溶岩についてplagioclase controlled magma(以下Pl-magma) とdifferentiated magma(以下D-magma) という二つのタイプへの分類および,2つのマグマが山頂もしくは山腹噴火起源なのかについての研究がなされている.これもふまえて,本研究では伊豆大島南東部というローカルな範囲でもPl-magmaとD-magmaという二つのマグマタイプへの分類が適用できるかどうかの検討を行った.検討を行う際の値として,[6]のNo.R26303のデータを用いた.その結果,伊豆大島南東部の溶岩の内,旧火山体の筆島溶岩を除いて,カキハラ溶岩と龍王崎溶岩,グループ(3)はPl-magma,下原溶岩と波浮溶岩はD-magmaに分類できることが示唆された.
引用文献
[1] Nakamura (1964) Bull. Earthq. Res. Inst., Univ. Tokyo, 42, 649-728.[2] 一色 (1984) 地域地質研究報告 (5万分の1図幅), 地質調査所, 133 p.[3] 西尾・大坪 (2018MS) 東海大学海洋学部海洋地球科学科2018年度卒業論文.[4] 田沢 (1980) 火山, 25, 137-170.[5] 田沢 (1981) 火山, 26, 249-261.[6] Nakano and Yamamoto (1991) Bull Volcanology, 53, 112-120