[認定P-1] ARONJ (stageⅡ) の高齢者に対して外科的療法を行った1例
【緒言・目的】骨吸収抑制薬による顎骨壊死(以下,ARONJ)は2003年にMarxの報告から日本でも周知されてきた。現在は2016年に発表されたポジションペーパーを診断と治療の指針としている。治療は保存療法が第一選択とされてきたが,近年は外科的療法を積極的に施行して良好な経過を得た報告が増加してきている。今回,ビスホスホネート製剤内服中の高齢者に見られたARONJ (stageⅡ) に対して早期に外科的療法を施行してQOLの向上を認めた1例を経験したので報告する。 【症例および経過】 80 歳,女性。乳癌,骨粗鬆症の既往あり。2022 年 3 月に下顎右側臼歯部の腫脹と疼痛を主訴に近在の歯科医院を受診し,下顎右側第一大臼歯を抜歯した。処置後の経過が不良であったため,当科に紹介となった。初診時には骨露出と排膿を認めており,疼痛で食事摂取量も減少傾向であった。乳癌の治療歴と骨粗鬆症を有していたため医科への対診を行った。患者はリセドロン酸ナトリウムを5年間内服していた。高齢者のため低栄養な状態に陥らないように、まず感染のコントロールを行った。その中でADLが良好であったことから早期にARONJ (stageⅡ) の診断下に全身麻酔下で腐骨除去術(周囲骨の削除あり)を計画した。創部は完全閉創とした。術後の抗菌薬はオーグメンチンを処方した。入院中に感染を認めず,食事の摂取状況も良好であったため退院となった。術後の画像検査でも術前に見られた骨膜反応の消失と新生骨が確認できた。現在も自覚症状の改善を認めており経過良好である。 なお,本報告の発表について患者本人から同意を得ている。 【考察】 ARONJ (stageⅡ) に関しては外科的療法の方が治癒良好の報告が多くみられるようになってきた。2022年の日本口腔外科学会でこれまでの実績を鑑みた新たな方針が示され、2023年の新たなポジションペーパーとして提示される。今回の症例でも高齢者であったが早期に外科的療法を計画したことでQOLの向上に繋がったと考えている。今後は外科的療法を選択することも増加すると考えられるため,保存療法から移行する場合の適切な時期に関しても検討が必要になると考えられた。 COI開示:なし 倫理審査対象外