一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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優秀ポスターコンペティション

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優秀ポスター賞コンペティション
歯科衛生士部門

2023年6月16日(金) 17:00 〜 18:00 ポスター会場 (1階 G3)

[優秀P衛生-4] 頚髄損傷による上肢機能障害に対する作業療法士と歯科衛生士の連携により口腔衛生管理能力が向上した一症例

○波多野 真智子1、橋詰 桃代1、野本 亜希子2、大野 友久2 (1. 浜松市リハビリテーション病院 リハビリテーション部、2. 浜松市リハビリテーション病院 歯科)

【緒言・目的】
 疾患による上肢機能障害により,口腔のセルフケア能力が低下し一部介助が必要であった患者に対し,作業療法士(以下,OT)と歯科衛生士(以下,DH)が連携し評価・アプローチを行った。これによりセルフケアに必要な上肢機能・動作を獲得し,口腔衛生管理能力向上に至った1例を経験したので報告する。         
 
【症例および経過】 
 64歳女性。転倒による中心性頚髄損傷にてC3-7椎弓形成術を施行。既往に頚部脊柱管狭窄症があり受傷前から脊髄症状は悪化傾向であった。術後,自宅退院に向けたリハビリテーション目的にて当院入院。所見は意識清明,神経学的残存高位C6レベルで両手指の運動麻痺と左側C7-8領域に痺れを呈し,簡易上肢機能検査(STEF)では両側ともに60点台で把持・巧緻操作に低下を認めた。口腔衛生管理では,上下顎部分床義歯の着脱困難や歯ブラシを細かく動かせずPlaque Control Record(以下,PCR)73%と清掃不十分であり, 一部介助が必要な状態であった。これらの問題の原因となる上肢機能をOTに評価依頼し,運動麻痺に由来する手指変形により把持・つまみ操作の不安定性や,巧緻性低下が影響していることが解った。そこで,整容動作の一部として義歯の着脱・歯磨き動作獲得のための筋力トレーニングや手指変形を制動し,麻痺筋の機能を補完できる装具を装着したリハビリテーションをOTにより実施した。上肢機能の経過に合わせDHによる義歯着脱・清掃の練習や口腔清掃時の道具の選択,ブラッシング指導を実施した。                       
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
  
【考察】  
 リハビリテーション開始から約2週間後には,上下部分床義歯の着脱が自己にて可能となった。その後も手指への装具を装着したリハビリテーションの継続と清掃指導により歯間ブラシが使用可能となり,PCR38%と初回評価時と比べ磨き残しが改善された。退院前には,手指の装具は細かい動作訓練時のみの装着となり,脊髄障害自立度評価法(SCIM)の整容項目は,入院時1点(部分介助を要する)から退院時3点(補助器具を用いずに自立して整容動作を行う)に改善した。
本症例ではDHのみでは困難な上肢機能の評価をOTが担当し,それぞれの専門的視点でのアプローチを連携して行ったことにより,自立度の改善に繋がったと考える。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)