一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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一般演題(口演発表)

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一般口演3
連携医療・地域医療/加齢変化・基礎研究

2023年6月17日(土) 15:05 〜 16:05 第3会場 (3階 G304)

座長:
西 恭宏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科口腔顎顔面補綴学分野)
柏崎 晴彦(九州大学大学院歯学研究院高齢者歯科学・全身管理歯科学分野)

[O3-5] 上位中枢による嚥下反射調節機構の解析~健常成人における嚥下衝動の定量評価~

○濵田 雅弘1、田中 信和2、野原 幹司1、藤井 菜美2、魚田 知里2、阪井 丘芳1 (1. 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室、2. 大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部)

【目的】
加齢による嚥下機能低下の症状のひとつとして,嚥下反射惹起遅延が挙げられる。これは嚥下反射の調節を行う上位中枢である大脳皮質が退行変化していることが一因とされている。大脳皮質による反射調節機構としては,咳反射と咳衝動の関係が報告されている。咳衝動とは上位中枢が関与する「咳をしたい感覚」であり,咳を誘発する刺激が強くなることで,咳衝動も強くなり,咳反射が惹起されやすくなる。さらに,高齢者では咳衝動が低下していることも明らかになっている。嚥下は大脳皮質から延髄への反射調節が行われていることや随意と不随意のどちらでも生じる運動であることから,咳と類似の反射調節機構が存在すると考えられる。よって,嚥下においても咳衝動と同様に「飲み込みたい感覚」,いわば嚥下衝動と定義できる感覚が嚥下反射を調節している可能性がある。本研究の目的は高齢者を対象とする研究を行うにあたり,pilot studyとして健常成人を対象とし,嚥下衝動が存在するか,また,存在するのであれば定量的に評価できるかを明らかにすることである。
【方法】
健常成人12名(男性6名,女性6名,年齢32.7±9.1)を対象とした。被験者に鼻咽喉ファイバースコープ,カテーテルチューブを鼻腔から中咽頭まで挿入した。その後,咽頭刺激として,カテーテルチューブから規定量の着色水を口蓋垂と喉頭蓋の間の高さから注入した。その時の嚥下衝動について,マグニチュード推定法と修正Borgスケールを用いて衝動スコアとして記録した。この方法を注入量の変更を行いながら繰り返した。得られた結果をもとに,各咽頭刺激量における衝動スコアの平均値と咽頭刺激量との相関関係を検討した。
【結果と考察】
健常成人における衝動スコアの平均値と咽頭刺激量はそれらの対数値において,正の相関関係(r=0.88, p<0.01)が認められ,概ね直線関係を示した。これは,「感覚量は刺激強度のべき乗に比例する」という心理物理学的法則であるStevensのべき法則が嚥下衝動においても成立することを示している。よって,今回の結果,嚥下衝動が存在し,咳衝動を含む他の感覚と同様に定量評価することが可能であると示唆された。
(COI開示:なし)
(大阪大学大学院歯学研究科・歯学部及び歯学部附属病院倫理審査委員会、承認番号:R4-E15)