[SY13-3] 口腔機能評価を契機にALSの診断に至った患者の臨床的特徴
【略歴】
2002年3月 東京外国語大学外国語学部フランス語学科 卒業
2017年3月 愛知学院大学歯学部歯学科 卒業
2022年3月 日本歯科大学大学院生命歯学研究科 臨床口腔機能学 博士課程修了
2022年4月 日本歯科大学付属病院 口腔リハビリテーション科 助教
日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック 勤務
現在に至る
2002年3月 東京外国語大学外国語学部フランス語学科 卒業
2017年3月 愛知学院大学歯学部歯学科 卒業
2022年3月 日本歯科大学大学院生命歯学研究科 臨床口腔機能学 博士課程修了
2022年4月 日本歯科大学付属病院 口腔リハビリテーション科 助教
日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック 勤務
現在に至る
【抄録(Abstract)】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)では,球麻痺または偽性球麻痺による構音障害や嚥下障害をきたすことがあり,歯科受診が診断の契機となりうる。しかし実際にどのような臨床的特徴を示すのかという報告はほとんどない。そこでわれわれは,歯科受診における口腔機能評価を通じて神経筋疾患が疑われ,ALSの診断に至った患者の臨床的特徴について調査した。対象は2020年4月~2022年10月の当クリニックの初診患者で,口腔機能評価から神経筋疾患が疑われ,脳神経専門病院にてALSの確定診断を受けた7名(平均年齢81.0歳,75〜86歳)とした。調査項目は①主訴(複数回答)②症状の自覚から初診までの期間③口腔内所見④サルコペニアの有無⑤栄養状態(体重減少の有無,MNA-SF)⑥口腔機能(オーラルディアドコキネシス(ODK),舌圧,咀嚼能力,咬合力)とした。
主訴は構音障害(85.7%),嚥下障害(71.4%),唾液処理困難(57.1%),咀嚼障害(28.6%)であった。症状の自覚から初診までの期間は平均15.7か月であった。口腔内所見として,線維束性攣縮は71.4%, 舌萎縮は71.4%,開鼻声は85.7%に認めた。サルコペニアを有する者は28.6%で,多くは体格や身体機能を維持していたが,体重減少は71.4%に認め、MNA-SFにおいて42.8%が低栄養または低栄養リスクに該当した。ODKの平均値は/pa/3.56/,ta/3.17,/ka/2.80,舌圧の平均値は13.47kPa,10kPa未満を示すものは3名で,舌機能の著しい低下を認めた。咀嚼能力の平均値は157.7mg/dL,咬合力の平均は595.5Nで,7名中4名は欠損歯のない者であったが,歯数と機能との乖離を示す者もいた。ALSの発症からの生存期間は中央値で20~48か月と報告されており,高齢発症,球麻痺発症や栄養状態不良が重要な予後不良因子とされる。より早期の確定診断と加療につなげるため,老年歯科に携わる我々は地域のゲートキーパーとしての役割が求められる。口腔機能評価において,既往や身体所見や口腔内の状態と乖離する著しい機能低下を認めた場合は,疾患の可能性も考慮して速やかに専門病院の受診を促すとともに,食事指導も含めて咀嚼障害や嚥下障害に対応する必要がある。
今回は摂食嚥下リハビリテーションを行う現場の歯科医師としての立場から,口腔機能評価を含めた日常の臨床を通じて神経変性疾患が疑われ,ALSの診断に至った患者さんの臨床的特徴について提示させていただく。老年歯科に携わる多くの皆様と情報共有をさせていただくことによって,未診断の患者さんの早期発見や早期加療の一助となれば幸いである。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)では,球麻痺または偽性球麻痺による構音障害や嚥下障害をきたすことがあり,歯科受診が診断の契機となりうる。しかし実際にどのような臨床的特徴を示すのかという報告はほとんどない。そこでわれわれは,歯科受診における口腔機能評価を通じて神経筋疾患が疑われ,ALSの診断に至った患者の臨床的特徴について調査した。対象は2020年4月~2022年10月の当クリニックの初診患者で,口腔機能評価から神経筋疾患が疑われ,脳神経専門病院にてALSの確定診断を受けた7名(平均年齢81.0歳,75〜86歳)とした。調査項目は①主訴(複数回答)②症状の自覚から初診までの期間③口腔内所見④サルコペニアの有無⑤栄養状態(体重減少の有無,MNA-SF)⑥口腔機能(オーラルディアドコキネシス(ODK),舌圧,咀嚼能力,咬合力)とした。
主訴は構音障害(85.7%),嚥下障害(71.4%),唾液処理困難(57.1%),咀嚼障害(28.6%)であった。症状の自覚から初診までの期間は平均15.7か月であった。口腔内所見として,線維束性攣縮は71.4%, 舌萎縮は71.4%,開鼻声は85.7%に認めた。サルコペニアを有する者は28.6%で,多くは体格や身体機能を維持していたが,体重減少は71.4%に認め、MNA-SFにおいて42.8%が低栄養または低栄養リスクに該当した。ODKの平均値は/pa/3.56/,ta/3.17,/ka/2.80,舌圧の平均値は13.47kPa,10kPa未満を示すものは3名で,舌機能の著しい低下を認めた。咀嚼能力の平均値は157.7mg/dL,咬合力の平均は595.5Nで,7名中4名は欠損歯のない者であったが,歯数と機能との乖離を示す者もいた。ALSの発症からの生存期間は中央値で20~48か月と報告されており,高齢発症,球麻痺発症や栄養状態不良が重要な予後不良因子とされる。より早期の確定診断と加療につなげるため,老年歯科に携わる我々は地域のゲートキーパーとしての役割が求められる。口腔機能評価において,既往や身体所見や口腔内の状態と乖離する著しい機能低下を認めた場合は,疾患の可能性も考慮して速やかに専門病院の受診を促すとともに,食事指導も含めて咀嚼障害や嚥下障害に対応する必要がある。
今回は摂食嚥下リハビリテーションを行う現場の歯科医師としての立場から,口腔機能評価を含めた日常の臨床を通じて神経変性疾患が疑われ,ALSの診断に至った患者さんの臨床的特徴について提示させていただく。老年歯科に携わる多くの皆様と情報共有をさせていただくことによって,未診断の患者さんの早期発見や早期加療の一助となれば幸いである。