第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題

[O4] エンド・オブ・ライフケア

2022年6月11日(土) 13:50 〜 15:00 第4会場 (国際会議場 21会議室)

座長:長岡 孝典(独立行政法人国立病院機構 呉医療センター)

14:26 〜 14:38

[O4-04] エンド・オブ・ライフ・ケアを熟知したICU看護師における死にゆく患者と家族への看護実践の基盤となるもの

○片岡 早希子1、江川 幸二2 (1. 熊本大学病院、2. 神戸市看護大学)

キーワード:エンド・オブ・ライフ・ケア、ELNEC-Jクリティカルケア指導者

【目的】エンド・オブ・ライフ・ケア(以下EOLCとする)を熟知したICU看護師における死にゆく患者と家族への看護実践の基盤となるものを明らかにする。
【方法】研究デザイン:質的帰納的研究。参加者:ELNEC-Jクリティカルケア指導者名簿に公開される4施設4名のELNEC指導者。期間:2021年7月〜12月。方法:インタビューガイドに基づいた半構造化インタビューを行い、その逐語録から意味のあるまとまりごとにデータをコード化し、コードの相違点や類似点を比較しカテゴリー化を行った。本研究は所属大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】35サブカテゴリー、10カテゴリーが抽出された。カテゴリーを【 】で示す。研究参加者は、【思いを満たし安心できるようにする】姿勢を土台に、患者が鎮静剤の影響で意思表示できない場合、治療・看護を選択する権利を守るため、患者が意思表出できるよう、医師に鎮静剤減量について働きかけるなど【意思決定を擁護する】姿勢を持っていた。また、患者と家族が残された時間に意識を向けることができるよう、身体的、心理・社会的苦痛が生じないようにすることに加え、スピリチュアルな苦痛が存在することを認識し、患者と家族の本音に迫ろうとする【全人的な苦痛に寄り添う】姿勢を持つことが明らかとなった。さらに、患者のその人らしさを意図的に引き出し、家族を「父親」「母親」という一般的な属性ではなく名前で呼ぶなど、個別性を持つ一人の人として向き合う【その人らしさを尊重する】姿勢を持っていた。そして穏やかな看取りとなるよう導き【悲嘆を和らげようと(する)】していた。これらの背景には、リフレクションによって【自分自身の実践や感情を見つめコントロールする】とともに、【ICUにおける死への看護に使命感を持つ】、【常により良い援助を探求する】姿勢があった。また、自分なりの死生観を持ち、救命を諦めきれない家族の思いや最期まで治療を続ける医師の立場に理解を示す【自分と他者の価値観を尊重する】姿勢と、EOLCの教育やEOLCに携わる多職種をケアする【EOLCのロールモデルとしての役割を果たそうとする】姿勢が明らかとなった。
【考察】患者の治療・看護を選ぶ権利や尊厳を持って死にゆく権利などが脅かされ易いICUでは、患者と家族の尊厳を守る擁護者としての認識を持ち、常に最善の援助を探求し続けることが重要である。また、生命維持の視点から「いのち」に焦点を当て直し、患者が今をどう生きるかを問い続ける姿勢が、患者と家族の擁護者としての役割遂行の基盤となり、ケアリングと患者と家族の死への不安を引き受ける覚悟が、苦悩する患者と家族の核心に迫ることに繋がると考えられる。そして、EOLCでは医療者の価値観や死生観などが自身の態度や姿勢に反映されるため、地道な自問自答と省察を繰り返すことが重要であり、特に、患者に望みを確認することが困難なICUでは、これまでの経験や優れた実践に学び、次の実践に生かすリフレクションが大切である。質の高いEOLCのためには、職務を越えて互いの価値観を認め合う風土の形成が重要であり、研究参加者の熟練看護師ならではの対人関係スキルが、EOLCに携わる多職種間のコミュニケーションを促進していた。
【結論】ケアリングと死への不安を引き受ける覚悟を持ち、患者が今をどう生きるかを問い続けること、看護師自身の実践や感情のリフレクションを繰り返し、より良い援助を探求し続けることが、患者と家族の擁護者としての役割遂行の基盤となる。研究参加者による職務を越えたコミュニケーションが、EOLCに携わる多職種が互いを認め合う風土の形成を促進し、チーム医療としての質の高いEOLC提供の一助になる。