第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題

[O4] エンド・オブ・ライフケア

2022年6月11日(土) 13:50 〜 15:00 第4会場 (国際会議場 21会議室)

座長:長岡 孝典(独立行政法人国立病院機構 呉医療センター)

14:49 〜 15:00

[O4-06] 親と死別体験した子どもの正常な悲嘆反応を促すための終末期ケア

○永岡 千穂実1、杉本 あゆみ1、西村 祐枝1 (1. 岡山市立市民病院)

キーワード:親との死別、自死、子ども、悲嘆反応、危機介入

【はじめに】小児で経験する突然の予期しない死への体験は、精神障害を発症するなど、成人期以降のメンタルヘルスに関連する。今回、自死の発見者であり、親と死別体験した子どもへのケアを振り返ったので報告する。
【目的】親と死別体験した子どもの正常な悲嘆反応を促すための終末期ケアのあり方を検討する。
【倫理的配慮】個人が特定できないよう配慮し、A病院の倫理審査にて承認を得た。
【事例紹介】精神障害の既往のない青年期のB氏、4人家族で関係は良好であった。自死状態のB氏を学童期の子どもCが発見、救急搬送されERで救命処置後にICUに入室となった。第3病日にB氏は脳死状態であった。キーパーソンの父親は、B氏の治療が無益であることを理解していたが、残された子どもらのことを思い、奇跡的な回復を望んでいた。また、役割意識が強く、一人で代理意思決定を担っていた。子どもらは、患者が回復して帰宅することを待ち望んでいる状況であった。発見者である子どもCはB氏のことを話題にせず、学業に専念していた。
【看護の実際】看護問題として、患者の死期が近いにも関わらず、キーパーソンと子どもらが予期的悲嘆反応を示さず、複雑性悲嘆へ移行する可能性があった。まずは、①キーパーソンの心理的危機を回避し、子どもらにB氏の死が近いという事実を伝えることを目標とし、子どもらの関わり方に苦悩していたキーパーソンの思いを傾聴した。医療者は、他の家族に頼らず一人で代理意思決定するキーパーソンの行動を否定せず、CNSらとの時間を意図的作ることで、思いを吐露し、情緒的反応を表出しやすい環境を整えた。キーパーソンは子どもらに事実を伝えたいと語り始めたことから、②キーパーソンと子どもらが正常な悲嘆反応を認め、患者の死を受け止めることができることを目標とし、子どもと対面できるよう調整した。面会制限による短時間面会であったため、各々が家族の時間を過ごせるよう工夫を行い、同時に医療者の支援方法も細やかに決定して介入した。特に、子どもたちの初回面会は衝撃を与えないような工夫を行い、その後の面会も家族の思い出が残せるよう配慮した。子どもらは徐々にB氏の傍で語らうことができ、子どもCは自身の思いを語れ、流涙できた。キーパーソンは、延命治療を中止することを決断でき、子どもとの最後の面会時には家族写真を撮ることができた。ICUダイアリーを渡すと、「子どもたちが大きくなった時にこれで話します」と語った。子どもらもB氏との別れを感じていた。
【考察】自死で重要他者を亡くした場合、自死を防げなかった罪責感や無力感、怒りや恨みの感情が強い傾向となり、悲嘆が複雑化する危険性が高いと言われている。今回、キーパーソンに対して危機モデルのバランス保持要因を意識した危機介入を行ったことで、キーパーソンが医療者を信頼することに繋がり、心理・社会的サポートを受け入れることでエンパワーメントされた。大人の悲しみに寄り添い、それでもなお親としての役割を果たすことができるよう支えていくことが、子どもを支えることにつながることから、子どもを支えるためにも親への支援を行ったことは効果的であった。また、自殺による死は社会的に話すことができない喪失であり、グリーフワークを停滞させることから、正常な悲嘆反応を辿れるように医療者が意図的に介入したことも有益であった。特に、親を亡くすという体験によって愛着形成障害が生じ、発達に大きな影響を与える。よって、子どもが両親や他の大人に対する基本的信頼感を育めるよう介入することも必要であると考えられた。