第18回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

パネルディスカッション

[PD6] 小児のクリティカルケア看護の教育を考える

2022年6月11日(土) 14:10 〜 15:20 第9会場 (総合展示場 F展示場)

座長:中田 諭(聖路加国際大学)
   辻尾 有利子(京都府立医科大学附属病院)
   青木 悠(聖路加国際病院 救命救急センター)
   四宮 理絵(香川大学医学部附属病院 救命救急ICU)
   藏ヶ﨑 恵美(福岡市立こども病院 PICU)

14:10 〜 14:35

[PD6-01] 「ナレッジ・シェアしながら学ぶ」教育へのシフト

○青木 悠1 (1. 聖路加国際病院 救命救急センター)

キーワード:ナレッジ・マネジメント、心理的安全性、リーダーシップ

誰もが予測しなかった世界的なパンデミックを経験して、これまで以上にVUCAな社会に生きる子どもとその家族に関連する健康問題はますます複雑化・多様化している。小児救急の現場では、よくある子どもの病気だけでなく、被虐待児、再入院を繰り返す医療的ケア児、自殺企図を重ねる小児、クリティカルケアを必要とする小児まで、緊急度・重症度を効率よく判断しながら、幅広いニーズへの対応が求められている。しかし、基礎教育や卒後教育でこのような臨床スキルを系統的に学ぶ機会は限られており、私の所属する施設では、新人看護師に限らず、子どもへの苦手意識やリアリティショックを感じる救急・集中治療領域の看護師は少なくない。
小児救急の特徴として、重症患者は少なく軽症患者が大多数を占めることが挙げられる。そのため、小児のクリティカルケア領域において、気道緊急や蘇生場面など、「差し迫った決断」を経験する機会が成人に比べて圧倒的に少ない。したがって、いざ危機的状況にある小児に遭遇すると、心理的負担による認知機能の低下やコミュニケーションエラー等により、チームパフォーマンスは低下する傾向にある。その結果、成功体験も限られ、小児患者への苦手意識がさらに増幅するという悪循環に陥る。
上記より、小児クリティカルケアの主要な教育課題は、まず効率よく知識・スキルを共有できる教育体制の仕組み作りである。そして、「差し迫った」状況でも高いパフォーマンスを発揮できるチーム作りである。こうした課題を解決し、危機的状況にある子どもとその家族に持続可能な価値あるケアを提供することが求められている。
このような課題に対する方略として、個人や組織の知識学習を促していくためにナレッジ・マネジメント理論(SECIモデル)を意識しながら知識体系の整備を目指した。限られた資源しかない救急の現場では、経験豊かな看護師のアートな思考ともいえる暗黙知によって優れた臨床判断や実践が展開されている。しかし、その暗黙知が個人に蓄積されたままでは組織の知識学習は拡大されないため、暗黙知を共有しながら主に若手看護師が成長する機会の創出を目指した。同時に、若い感性を巻き込むことが鍵となるため、組織の知識学習のプロセスに若手看護師の参加が不可欠である。なぜなら、若い感性は柔軟で学んだことをすぐに生かすラーニング・アジリティの傾向が高く、DX時代ではリバースメンタリング効果も期待できるためである 。
「差し迫った決断」を伴う経験を増やすことはできなくても、日常臨床の場面から、心理的安全性の高い職場環境やリーダーシップを意識しながらチームを育成することで、チームのパフォーマンスを高められる。特に「差し迫った」状況が繰り返されるクリティカルケア領域では、チームコミュニケーションや心理的安全性は医療安全の観点からも軽視できず、リーダーではなくても誰もがリーダーシップを持って現場にコミットするマインドは高いチームパフォーマンスには肝要となるため、これからの看護教育で育むべきエッセンシャルな素養である。
淀みない小児救急医療を実現するために、教育的アプローチを共有することで、現状の課題だけでなく、今後の展開についてもディスカッションしていきたい。