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[R1-04] The nomenclature and gem identification of unusual red “musgravite”
Keywords:Musgravite, EDXRF, Raman spectrum, Infrared spectrum
宝石の中古市場にルビーとして流通していた赤色石を鑑別した結果、きわめて希産な赤色の“マスグラバイト”であることが分かった。“マスグラバイト”はIMAに登録されている鉱物名としてはMagnesiotaaffeite-6N’ 3S(Mg2BeAl6O12:三方晶系)であるが、宝石としては伝統的に“マスグラバイト”と呼ばれている。類縁の希少宝石“ターフェアイト”よりもさらに希産で、コレクターの垂涎の的となっている。宝石として“ターフェアイト”と呼ばれているMagnesiotaaffeite-2N’ 2S、(Mg3BeAl8O16:六方晶系)と“マスグラバイト”は共にターフェアイト・グループの鉱物で、ほぼ重複する特性値と類似する化学組成を有するため、その鑑別は宝石学の課題のひとつとなっている。 “ターフェアイト”は1945年にファセットカットされた宝石の鑑別中に見つかった。宝石から新種の鉱物種が発見された初めての例であった。1981年には赤色の“ターフェアイト”とされていた石が調べられた結果、“ターフェアイト”とは異なる新種の鉱物Taprobaniteとして記載された。しかし、その後、オリジナルの“ターフェアイト”の化学組成の記載に誤りがあったことがわかり、Taprobaniteはオリジナルの“ターフェアイト”と同種の鉱物とみなされた。それにより、IMAのCNMMNは “ターフェアイト”に名称の優先権があるとしてTaprobaniteは削除された。1967年に発見された“マスグラバイト”は当初“ターフェアイト”のポリタイプと考えられていたが、1981年に独立種とされた。しかしながら、2002年に“マスグラバイト”と“ターフェアイト”はPolysomeであり、前者はMagnesiotaaffeite-6N’ 3S後者はMagnesiotaaffeite-2N’ 2Sとされることになった。 鉱物の同定には伝統的にX線粉末回折分析などの手法が利用されているが、宝石鑑別では非破壊という大きな制約がある。特に希少宝石の場合、分析のために粉末を削り取るということが許されない。本研究では、標準的な宝石学的検査に加えて紫外-可視反射スペクトル、蛍光X線元素分析、ラマンスペクトル、赤外反射スペクトルおよびフォトルミネッセンス・スペクトルによる同定を行った。 図1に示すように検査石は重さ1.593ct(1ct=0.2g)、サイズ6.33×5.80×5.03mmでファセットカットが施されていた。ファセットエッジは一部破損および摩耗しており、長い期間鑑別されずに見た目だけでルビーと思われていたようである。しかし、屈折率はルビーの1.76-1.77と異なり、1.715-1.721で複屈折量は0.006であった。さらにシャドーエッジの動きと干渉像から一軸性負号であることが確認できた。通常光では紫赤色、異常光では黄赤色の明瞭な多色性が見られた。また、比重は3.60であった。紫外線下ではルビーと同様の鮮やかな赤色の蛍光を示した。宝石顕微鏡による包有物の観察において特筆すべきものは見られず、主軸の対称性を示唆する痕跡も認められなかった。蛍光X線元素分析の結果、二価金属酸化物のモル分数の合計ΣXO Mol%(X = Mg, Ca, Mn, Fe, Zn) = 40.25%となった。マスグラバイトは2価と3価の金属酸化物の比率は2:3でターフェアイトは3:4であり、この二価金属酸化物のモル分数の合計値はマスグラバイトであることを示唆している。ラマンスペクトルでは、409、441および489 cm-1付近の3つのピークは明瞭に分離しており、574 cm-1付近にピークが見られるが、767 cm-1付近のピークが見られない。これらの特徴はターフェアイトではなく、マスグラバイトと考えられる。また、赤外反射スペクトルやフォトルミネッセンス・スペクトルもマスグラバイトの特徴に一致した。 マスグラバイトは希少性の高い宝石である上、鮮やかな赤色を呈するカット石は筆者らの知る限りこれまで報告された例がない。“ターフェアイト”が初めて発見されたのも宝石の鑑別においてであり、今後も日常の鑑別において新たな珍しい宝石鉱物が見いだされるかもしれない。