一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R2:結晶構造・結晶化学・物性・結晶成長・応用鉱物

2023年9月15日(金) 09:00 〜 12:00 820 (杉本キャンパス)

座長:小松 一生、山根 崚(東北大学)、永嶌 真理子

09:15 〜 09:30

[R2-02] 層状ケイ酸塩鉱物のリプロケーションによる変形メカニズム:分子動力学計算による検討

*佐久間 博1、末原 茂1、田村 堅志1 (1. 物質・材料研究機構)

キーワード:リプロケーション、白雲母、分子動力学、せん断

層状ケイ酸塩鉱物は層状であるため、結晶の方向に依存して、圧縮やせん断に対して異方的に変形する。これらの変形において、転位が重要と考えられているが、層状ケイ酸塩鉱物の底面に垂直方向の歪による変形メカニズムについて議論が続いている。また底面と平行方向の変形については、せん断速度の温度依存性について特異な性質を示しその原因が解明されていない。
 そこで層状結晶について提案された新しいタイプの転位とされるリプロケーション(Ripplocations)(Kushima et al., 2015)に着目する。黒雲母の層と垂直方向の歪に対する変形については、リプロケーションの役割がTEM観察から考察されている(Aslin et al., 2019)。本研究では層と平行方向のせん断歪に対する変形について、白雲母を研究対象とし、歪速度・温度を変化させた場合に白雲母の底面と平行方向のせん断応力がリプロケーションの有無でどう変化するかを明らかとする。
 研究方法としては分子動力学(MD)計算を採用し、変形時のリプロケーションの挙動を観察する。力場はSakuma and Kawamura (2011)のモデルに加えて四面体Alのパラメータを調整したモデルを使用した。まずリプロケーションの構造モデルを作製した。なるべく小さな周期構造を持つ構造モデルを作ることを目指したが、リプロケーションによる曲げの曲率半径が小さすぎると不安定な構造となり構造モデルが壊れる。本研究ではいくつか検討した中で、b軸方向に0.95倍の長さに圧縮した際に生成するリプロケーション構造モデル(図1a)を計算に使用した。図の作製にはVESTA(Momma and Izumi, 2011)を用いた。
 このモデルを常温常圧に持って行くと、リプロケーションの山型構造が構造緩和される(図1b)。結晶表面では大きな山型の構造が安定でも、結晶内部では層間距離の小さい構造が安定だった。上下の層でカリウムイオンの安定化する六員環の位置が合わない部分では、カリウムイオンの位置に乱れが発生した。この構造モデルで圧力 6 GPa, 温度 300-873 Kにおける格子定数をMD計算から導出し、変形前の初期構造に使用した。圧力を6 GPaとしたのは、摩擦試験時の真実接触点における圧力に近い状態を再現するためである。
 せん断変形の計算は、セルにせん断歪を与えることで実現し、その際に発生する応力からせん断応力を求めた。この計算結果・リプロケーションの特徴について報告する。

参考文献
Aslin et al., Nat. Comm., 2019, 10, 686.
Kushima et al., Nano Letters, 2015, 15, 1302-1308.
Momma and Izumi, J. Appl. Crystallogr., 2011, 44, 1272-1276.
Sakuma and Kawamura, Geochim. Cosmochim. Acta, 2011, 75, 63-81.
R2-02