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[R2-04] ホウ酸塩鉱物を構成する基本構成単位の構造多様性と安定性
キーワード:ホウ酸塩鉱物、ホウ砂、構造多様性、基本構成単位、量子化学計算
【はじめに】Grew et al. (2017)は,ホウ素鉱物の多様性は地質学的な時間と共に増加し,高温変成作用を伴う超大陸集合時に加速されることを提唱した.本研究では,ホウ酸塩鉱物の構造の多様性と安定性を明らかにするために,ホウ砂(Borax) Na2B4O5(OH)4·8H2Oの熱分解過程で出現する脱水相および無水相,さらにホウ酸塩鉱物を構成する基本構成単位(Fundamental Building Units, FBU)の全エネルギーを量子化学計算によって求め,FBUの構造安定性とホウ酸塩鉱物の頻出頻度の関係を調べた.
【実験方法】出発物質には,ホウ砂(富士フイルム和光純薬)を用いた.はじめに.粉末化したホウ砂を白金るつぼに入れ,その後電気炉にセットし,30℃から750℃までの温度範囲の各温度で1時間加熱した.電気炉から取り出した試料は,デシケーターに入れXRD測定まで保管した.XRD測定は,KEK-PFのBL8Bで実施した.各試料はリンデンマンガラスキャピラリーに入れ,X線照射時間5分で測定した.量子化学計算は,Gaussian16Wプログラムを用いてホウ酸塩鉱物のFBUの全エネルギーを求めた.ホウ酸塩鉱物の結晶データ(CIF)は,American Mineralogist Crystal Structure Databaseに登録されているものを用いた.
【結果と考察】ホウ砂の熱分解は,30℃で脱水相のチンカルコナイトNa2B4O5(OH)4·3H2Oが現れ160℃で分解した.その後,600℃で無水相のγ-Na2B4O7が結晶化し,650℃でα-Na2B4O7に変化した.ホウ砂のFBUは,2つの3員環からなり,それぞれがBO3三角形と2つのBO4四面体から構成されている.これらの3員環は2つのBO4四面体を共有するので,FBUは<△2□>=<△2□>で表される(=は両方の環に共通な2つの多面体を示す).脱水相のチンカルコナイトは,ホウ砂と同じFBUを持つ.一方,無水相のγ-Na2B4O7のFBUは,1つのBO3三角形と2つのBO4四面体からなる3員環と2つのBO3三角形と1つのBO4四面体からなる3員環がBO4四面体を共有した2重環である<△2□>-<2△□>からなる.α-Na2B4O7は,γ-Na2B4O7と同じ<△2□>-<2△□>と,2つのBO3三角形と1つのBO4四面体からなる3員環である<2△□>の2種類のFBUからなる.したがって,ホウ砂の熱分解で出現する脱水相,無水相には,ホウ砂のFBUの一部に共通する<△2□>がそれぞれの構造内に残っていることが特徴である.代表的なホウ酸塩鉱物のFBUの全エネルギーを比較した.最も広く産出するホウ酸塩鉱物には,ホウ砂,コレマナイトCaB3O4(OH)3·H2O,ウレキサイトNaCaB5O6(OH)6·5H2O,カーナイトNa2B4O6(OH)2·3H2Oが知られている.コレマナイトのFBUは,1つのBO3三角形と2つのBO4四面体からなる3員環を含む<△2□>である.ウレキサイトとカーナイトのFBUは,<△2□>-<2□>である.ホウ砂,コレマナイト,ユーレキサイト,カーナイトのFBUには<△2□>が共通しており,それぞれの全エネルギーは,ホウ酸塩鉱物の中では比較的低い値を示した.したがって,FBUの構造安定性は,ホウ酸塩鉱物の産出頻度とほぼ一致していた.また,Burns et al. (1995)は,ホウ酸塩鉱物における様々なFBU形状を調べ,3員環の出現頻度には,<△2□> >> <2△□> > <3□> > <3△>の順位があることを示した.また,<△2□>がホウ酸塩のFBUとして最も好まれた構造であると結論づけた.Burns et al. (1995)の結果は,本研究の量子化学計算結果ともよく一致する.また,α-Na2B4O7とγ-Na2B4O7のFBUの全エネルギーは,ホウ砂と比較すると明らかに高い値となっていた.このことは,無水のNa2B4O7相が5種類の多形を持ち,大きななエネルギーを必要とせずに容易にFBU形状を変化させる事実を裏付けているかもしれない.本研究の結果は,高温で脱水するとBO3三角形とBO4四面体の接続様式が容易に再構築できるようになることから,Grew et al. (2017)が提案した,高温変成作用を伴う超大陸集合時に,ホウ素鉱物の多様性が加速されることは,ホウ酸塩鉱物のFBUの構造変化の特徴ともよく一致している.
【実験方法】出発物質には,ホウ砂(富士フイルム和光純薬)を用いた.はじめに.粉末化したホウ砂を白金るつぼに入れ,その後電気炉にセットし,30℃から750℃までの温度範囲の各温度で1時間加熱した.電気炉から取り出した試料は,デシケーターに入れXRD測定まで保管した.XRD測定は,KEK-PFのBL8Bで実施した.各試料はリンデンマンガラスキャピラリーに入れ,X線照射時間5分で測定した.量子化学計算は,Gaussian16Wプログラムを用いてホウ酸塩鉱物のFBUの全エネルギーを求めた.ホウ酸塩鉱物の結晶データ(CIF)は,American Mineralogist Crystal Structure Databaseに登録されているものを用いた.
【結果と考察】ホウ砂の熱分解は,30℃で脱水相のチンカルコナイトNa2B4O5(OH)4·3H2Oが現れ160℃で分解した.その後,600℃で無水相のγ-Na2B4O7が結晶化し,650℃でα-Na2B4O7に変化した.ホウ砂のFBUは,2つの3員環からなり,それぞれがBO3三角形と2つのBO4四面体から構成されている.これらの3員環は2つのBO4四面体を共有するので,FBUは<△2□>=<△2□>で表される(=は両方の環に共通な2つの多面体を示す).脱水相のチンカルコナイトは,ホウ砂と同じFBUを持つ.一方,無水相のγ-Na2B4O7のFBUは,1つのBO3三角形と2つのBO4四面体からなる3員環と2つのBO3三角形と1つのBO4四面体からなる3員環がBO4四面体を共有した2重環である<△2□>-<2△□>からなる.α-Na2B4O7は,γ-Na2B4O7と同じ<△2□>-<2△□>と,2つのBO3三角形と1つのBO4四面体からなる3員環である<2△□>の2種類のFBUからなる.したがって,ホウ砂の熱分解で出現する脱水相,無水相には,ホウ砂のFBUの一部に共通する<△2□>がそれぞれの構造内に残っていることが特徴である.代表的なホウ酸塩鉱物のFBUの全エネルギーを比較した.最も広く産出するホウ酸塩鉱物には,ホウ砂,コレマナイトCaB3O4(OH)3·H2O,ウレキサイトNaCaB5O6(OH)6·5H2O,カーナイトNa2B4O6(OH)2·3H2Oが知られている.コレマナイトのFBUは,1つのBO3三角形と2つのBO4四面体からなる3員環を含む<△2□>である.ウレキサイトとカーナイトのFBUは,<△2□>-<2□>である.ホウ砂,コレマナイト,ユーレキサイト,カーナイトのFBUには<△2□>が共通しており,それぞれの全エネルギーは,ホウ酸塩鉱物の中では比較的低い値を示した.したがって,FBUの構造安定性は,ホウ酸塩鉱物の産出頻度とほぼ一致していた.また,Burns et al. (1995)は,ホウ酸塩鉱物における様々なFBU形状を調べ,3員環の出現頻度には,<△2□> >> <2△□> > <3□> > <3△>の順位があることを示した.また,<△2□>がホウ酸塩のFBUとして最も好まれた構造であると結論づけた.Burns et al. (1995)の結果は,本研究の量子化学計算結果ともよく一致する.また,α-Na2B4O7とγ-Na2B4O7のFBUの全エネルギーは,ホウ砂と比較すると明らかに高い値となっていた.このことは,無水のNa2B4O7相が5種類の多形を持ち,大きななエネルギーを必要とせずに容易にFBU形状を変化させる事実を裏付けているかもしれない.本研究の結果は,高温で脱水するとBO3三角形とBO4四面体の接続様式が容易に再構築できるようになることから,Grew et al. (2017)が提案した,高温変成作用を伴う超大陸集合時に,ホウ素鉱物の多様性が加速されることは,ホウ酸塩鉱物のFBUの構造変化の特徴ともよく一致している.