11:00 AM - 11:15 AM
[R2-08] Crystal structure of vaterite proposed by ABF/ADF-STEM
Keywords:vaterite, ABF-STEM, crystal structure, calcium carbonate, stacking fault
無水の炭酸カルシウム(CaCO3)結晶にはcalcite,aragonite,vateriteの3種類の多形が存在する。その中でもvateriteは他の多形と比べて溶解度が高く、地球表層環境で産出することは稀である。またvateriteは単結晶X線構造解析に適した良質な単結晶を合成することが難しく、その結晶構造は完全には解明されていない。これまでに様々なモデルが提案されてきたが、Caイオンが六方の副格子を形成することや、炭酸イオンの三角形平面がその6回回転軸と平行に配向することは広く受け入れられている。現在は主に炭酸イオンの位置や配列,積層構造が議論されているため、Caイオンだけでなく炭酸イオンの位置も原子レベルで把握する必要がある。そこで本研究では、球面収差補正装置付属の走査透過電子顕微鏡を用いた環状明視野法(annular bright-field-scanning transmission electron microscopy,ABF-STEM)によって炭酸イオンを可視化し、vateriteの結晶構造およびその積層構造を明らかにすることを目指した。環状暗視野法(annular dark-field-STEM,ADF-STEM)では原子番号の大きな原子、すなわちCaイオンのみが観察されるが、ABF-STEMでは炭酸イオンのような軽い原子も同時に可視化することができる。
一部のバイオミネラルはvateriteで構成されることが知られており、本研究では金魚(Carassius auratus)の耳石の一つである星状石を試料として用いた。まず金魚の星状石を粉末X線回折により測定すると、これまで報告されたvateriteと同様なパターンが得られ、主要なピークはKamhi (1963)で平均構造から提案された六方晶系P63/mmc(a = 4.13 Å, c = 8.49 Å)の副格子モデルで説明できた。しかし、一部の弱いピークはこのモデルでは再現できず、炭酸イオンの規則的な配列によってさらに大きな単位胞になっていることが考えられた。集束イオンビーム試料加工装置により薄膜試料を作製して透過電子顕微鏡で観察すると、上記モデルの<210>入射で得られた電子回折パターンではc*軸方向にストリークが見られた。また高分解能観察により積層不整が高密度で導入されていることが確認された。この入射方位でADF/ABF-STEMによる観察を行うと(図)、そのコントラストはMugnaioli et al. (2012)で提案された2層構造の単斜晶系C2/c(a = 12.17 Å, b = 7.12 Å, c = 9.47 Å, β = 118.37°)のモデルで説明できた。すなわち、Caイオンの原子面の間に存在する炭酸イオンはその三角形平面が入射電子線に対して平行または±60°傾いているものが層内で交互に配列しており、その配列が層ごとにずれて積層不整が生じていた。この積層不整は、Caイオン原子面における±60°または180°の回転によって生じると考えられる。さらに図のABF像では層間での炭酸イオンの位置のずれを矢印で示しているが、右ずれと左ずれの連続や、ずれない層の連続は観察されなかった。これは±60°,180°の回転のすべてが常に許されているわけではなく、+60°と−60°の連続や、180°の連続は制限されていることが示唆される。電子回折パターンにおいて、h ≠ 3nのスポットが本来の逆格子の位置からc*軸方向にずれることがわかっているが、これも上記のような回転の制約が反映された結果と考えられる。
[参考文献]
Kamhi (1963) Acta Crystallogr. 16, 770−772.
Mugnaioli et al. (2012) Angew. Chem. Int. Ed. 51, 7041–7045.
一部のバイオミネラルはvateriteで構成されることが知られており、本研究では金魚(Carassius auratus)の耳石の一つである星状石を試料として用いた。まず金魚の星状石を粉末X線回折により測定すると、これまで報告されたvateriteと同様なパターンが得られ、主要なピークはKamhi (1963)で平均構造から提案された六方晶系P63/mmc(a = 4.13 Å, c = 8.49 Å)の副格子モデルで説明できた。しかし、一部の弱いピークはこのモデルでは再現できず、炭酸イオンの規則的な配列によってさらに大きな単位胞になっていることが考えられた。集束イオンビーム試料加工装置により薄膜試料を作製して透過電子顕微鏡で観察すると、上記モデルの<210>入射で得られた電子回折パターンではc*軸方向にストリークが見られた。また高分解能観察により積層不整が高密度で導入されていることが確認された。この入射方位でADF/ABF-STEMによる観察を行うと(図)、そのコントラストはMugnaioli et al. (2012)で提案された2層構造の単斜晶系C2/c(a = 12.17 Å, b = 7.12 Å, c = 9.47 Å, β = 118.37°)のモデルで説明できた。すなわち、Caイオンの原子面の間に存在する炭酸イオンはその三角形平面が入射電子線に対して平行または±60°傾いているものが層内で交互に配列しており、その配列が層ごとにずれて積層不整が生じていた。この積層不整は、Caイオン原子面における±60°または180°の回転によって生じると考えられる。さらに図のABF像では層間での炭酸イオンの位置のずれを矢印で示しているが、右ずれと左ずれの連続や、ずれない層の連続は観察されなかった。これは±60°,180°の回転のすべてが常に許されているわけではなく、+60°と−60°の連続や、180°の連続は制限されていることが示唆される。電子回折パターンにおいて、h ≠ 3nのスポットが本来の逆格子の位置からc*軸方向にずれることがわかっているが、これも上記のような回転の制約が反映された結果と考えられる。
[参考文献]
Kamhi (1963) Acta Crystallogr. 16, 770−772.
Mugnaioli et al. (2012) Angew. Chem. Int. Ed. 51, 7041–7045.