11:30 〜 11:45
[R2-10] X線異常散乱法によるコサラ鉱中のAg, Cuの存在形態の解明
キーワード:コサラ鉱、X線異常散乱、硫塩鉱物
研究の背景
Pb - Bi系の硫塩鉱物cosalite(Pb2Bi2S5)には,微量のAg+とCu+が含まれている[1,2].先行研究ではPb欠損サイト近傍に,AgおよびCuが分布可能な二種類の非等価なinterstitialサイトが存在することが報告され,組成式Pb2+ ↔ 2(Ag+, Cu+)で表される構造変化がこれらの微量元素の存在によって生じていることが示唆されている[1,2].これらのサイト間における元素選択的配列に関して構造的な議論は進んでいるが,直接的な証拠はこれまで得られていない.本研究ではAgの空間分布を単結晶X線異常散乱(AXS)法を用いて特定し,実験的にAgとCuのinterstitialサイトにおける分布の議論を進展させる.
実験方法
Cosaliteの単結晶試料は,東京大学総合研究博物館の提供を受けて,栃木県足尾産の試料を用いた.予め,研究室の単結晶X線回折装置,Synergy-S(Mo Kα)を用いて,良質な単結晶試料を選んだ後,SPring-8 BL02B1においてAg K吸収端(25514 eV)-120および -5 eVのエネルギーを用いて単結晶X線異常散乱測定を行った.測定した回折点の強度抽出はCrysAlis Pro (Rigaku Oxford Diffraction)を用いた.構造解析は,SHELXL(GUI: WinGX)を用いて行った.化学組成分析は電子線マイクロアナライザー(EPMA)により行った.
結果および考察
EPMAの分析により,本試料の化学組成はPb1.85(Ag0.09Cu0.05Mn0.07)Σ0.21Bi2.01S4.91と求めた.Biはほぼcosaliteの理想組成通りの値であるのに対し,Pbはその値が理想組成と比べ小さく,Pbに代わり微量の金属元素が構造中に含まれていると考えられる.Mo Kα-X線源を用いた予備的な単結晶構造解析の結果,図1(a)に示すPbサイト近傍で組成式Pb2+ ↔ 2(Ag+, Cu+)で表される構造変化を示す残差が確認された.このPbサイト近傍の構造について,図1(b)に,Ag K吸収端 -120および -5 eVのエネルギーで取得したデータをもとに求めたコントラストマップを示す.このコントラストマップは,非等価な二つのinterstitialサイトのうち,一つにAgが濃集することを直接的に示し,Cuはもう一方の置換サイトに濃集することを示している.二つのサイトにはそれぞれ3つのSが配位しており,中心元素からの平均距離はAgの濃集が確認されたサイトが2.39 Å,Cuの濃集するサイトは2.33 Åである.これまでこの構造的な特徴から,二つのinterstitialサイトにおけるAgの分布の偏りが予想されていたが[1,2],今回の実験および解析で初めてその直接的な証拠を得ることに成功した.
参考文献
[1] Topa, D. and Makovicky, E., Can. Mineral. 48, 1081-1107 (2010).
[2] Kovač, S., et al., Can. Mineral. 57, 647-662 (2019).
Pb - Bi系の硫塩鉱物cosalite(Pb2Bi2S5)には,微量のAg+とCu+が含まれている[1,2].先行研究ではPb欠損サイト近傍に,AgおよびCuが分布可能な二種類の非等価なinterstitialサイトが存在することが報告され,組成式Pb2+ ↔ 2(Ag+, Cu+)で表される構造変化がこれらの微量元素の存在によって生じていることが示唆されている[1,2].これらのサイト間における元素選択的配列に関して構造的な議論は進んでいるが,直接的な証拠はこれまで得られていない.本研究ではAgの空間分布を単結晶X線異常散乱(AXS)法を用いて特定し,実験的にAgとCuのinterstitialサイトにおける分布の議論を進展させる.
実験方法
Cosaliteの単結晶試料は,東京大学総合研究博物館の提供を受けて,栃木県足尾産の試料を用いた.予め,研究室の単結晶X線回折装置,Synergy-S(Mo Kα)を用いて,良質な単結晶試料を選んだ後,SPring-8 BL02B1においてAg K吸収端(25514 eV)-120および -5 eVのエネルギーを用いて単結晶X線異常散乱測定を行った.測定した回折点の強度抽出はCrysAlis Pro (Rigaku Oxford Diffraction)を用いた.構造解析は,SHELXL(GUI: WinGX)を用いて行った.化学組成分析は電子線マイクロアナライザー(EPMA)により行った.
結果および考察
EPMAの分析により,本試料の化学組成はPb1.85(Ag0.09Cu0.05Mn0.07)Σ0.21Bi2.01S4.91と求めた.Biはほぼcosaliteの理想組成通りの値であるのに対し,Pbはその値が理想組成と比べ小さく,Pbに代わり微量の金属元素が構造中に含まれていると考えられる.Mo Kα-X線源を用いた予備的な単結晶構造解析の結果,図1(a)に示すPbサイト近傍で組成式Pb2+ ↔ 2(Ag+, Cu+)で表される構造変化を示す残差が確認された.このPbサイト近傍の構造について,図1(b)に,Ag K吸収端 -120および -5 eVのエネルギーで取得したデータをもとに求めたコントラストマップを示す.このコントラストマップは,非等価な二つのinterstitialサイトのうち,一つにAgが濃集することを直接的に示し,Cuはもう一方の置換サイトに濃集することを示している.二つのサイトにはそれぞれ3つのSが配位しており,中心元素からの平均距離はAgの濃集が確認されたサイトが2.39 Å,Cuの濃集するサイトは2.33 Åである.これまでこの構造的な特徴から,二つのinterstitialサイトにおけるAgの分布の偏りが予想されていたが[1,2],今回の実験および解析で初めてその直接的な証拠を得ることに成功した.
参考文献
[1] Topa, D. and Makovicky, E., Can. Mineral. 48, 1081-1107 (2010).
[2] Kovač, S., et al., Can. Mineral. 57, 647-662 (2019).