9:15 AM - 9:30 AM
[R4-02] Hematite-Goethite Problem on Mars: Transformation of Ferrihydrite to Crystalline Fe Oxides in Salt Solutions
Keywords:Mars, Hematite, Goethite
火星にはかつて液体の水が存在したことが火星探査から明らかになっており、NASA火星探査車オポチュニティーやキュリオシティによる詳細な観測から、水の作用によって生成した鉄酸化物が火星表層には大量に存在することが認められている。水中に溶存したFe(III)の加水分解で形成される鉄酸化物としてフェリハイドライトがあり、それを前駆体とした結晶性生成物がヘマタイトとゲーサイトである。ヘマタイトとゲーサイトは、両者の持つ熱力学的安定性が類似しているため、共に形成されることが多く、競争的な関係にあることが知られている(Cornell and Schwertmann, 2003, John Wiley & Sons)。フェリハイドライトがヘマタイトとゲーサイトのどちらに転移するかは水質条件によって主に制御されており、pHが中性もしくは強酸性のときにヘマタイトが優勢となり、それ以外の酸性もしくはアルカリ性ではゲーサイトが優勢である(Schwertmann and Murad, 1983, Clays and Clay Minerals)。Fukushi et al., (2022, GCA)では、ゲールクレーターでの最後の湿潤イベントにおける水のpHを3-5と推定している。このpH条件ではゲーサイトが優勢であるはずだが、ゲールクレーターの堆積物からゲーサイトはほとんど見つかっていない。フェリハイドライトの変質挙動に影響を与える水質因子として塩濃度(イオン強度)があげられる (Torrent and Guzman, 1982, Clay Minerals)。しかし、pHとイオン強度を共に制御した条件におけるフェリハイドライトの変質挙動はこれまで研究されていない。そこで本研究では、火星ゲールクレーター堆積物においてゲーサイトが認められていない原因を明らかにすることを目的として、pHとイオン強度を変化させた系における、フェリハイドライトの変質挙動を検討した。
フェリハイドライトはFeCl3溶液にNaOH溶液を加えて合成し、遠心洗浄によりフェリハイドライト懸濁液の脱塩を行った。懸濁液を4バッチに等しく分け、3つのバッチには、イオン強度が0.01, 0.1および1となるようにそれぞれNaClを加え、もう1つのバッチは塩を加えない条件とした。各イオン強度の懸濁液を3本のボトルに分け、pHが4, 6, 8となるように、HCl溶液もしくはNaOH溶液を用いて調整した。これらの懸濁液を振盪させながら、70℃で10日間反応させた。同様にして、MgCl2を添加した条件も行った。10日間反応後、固相を遠心洗浄し、凍結乾燥させた。乾燥後、粉末状にした固相に対し、粉末X線回折分析(XRD)とX線吸収分光分析(XAFS)を行い、フェリハイドライトの変質挙動を調べた。
XRDよりヘマタイトは、pHが中性付近でイオン強度によらず優勢であることが認められた。また、中性pH条件では、NaCl溶液よりもMgCl2溶液において、ヘマタイトが顕著に優勢となる結果が得られた。これは、2価の陽イオンによってヘマタイト形成が促進されることを示唆している。一方、酸性条件では、イオン強度が低いとゲーサイトが優勢であったが、イオン強度の増加とともにヘマタイトの割合が増加した。XAFSによる結果は、XRDによって得られた結果と調和的であった。これらの結果は、酸性条件でもイオン強度が高いためにゲーサイト形成が抑制されることを示唆しており、ゲールクレーターの堆積物にゲーサイトがほぼ見つかっておらず、ヘマタイトばかり認められていることを説明できるかもしれない。さらに、ゲーサイトが形成される水質条件は限定的であり、ゲールクレーターでゲーサイトが見つかった場合、それは過去の水質復元の一助となる可能性が示唆される。
フェリハイドライトはFeCl3溶液にNaOH溶液を加えて合成し、遠心洗浄によりフェリハイドライト懸濁液の脱塩を行った。懸濁液を4バッチに等しく分け、3つのバッチには、イオン強度が0.01, 0.1および1となるようにそれぞれNaClを加え、もう1つのバッチは塩を加えない条件とした。各イオン強度の懸濁液を3本のボトルに分け、pHが4, 6, 8となるように、HCl溶液もしくはNaOH溶液を用いて調整した。これらの懸濁液を振盪させながら、70℃で10日間反応させた。同様にして、MgCl2を添加した条件も行った。10日間反応後、固相を遠心洗浄し、凍結乾燥させた。乾燥後、粉末状にした固相に対し、粉末X線回折分析(XRD)とX線吸収分光分析(XAFS)を行い、フェリハイドライトの変質挙動を調べた。
XRDよりヘマタイトは、pHが中性付近でイオン強度によらず優勢であることが認められた。また、中性pH条件では、NaCl溶液よりもMgCl2溶液において、ヘマタイトが顕著に優勢となる結果が得られた。これは、2価の陽イオンによってヘマタイト形成が促進されることを示唆している。一方、酸性条件では、イオン強度が低いとゲーサイトが優勢であったが、イオン強度の増加とともにヘマタイトの割合が増加した。XAFSによる結果は、XRDによって得られた結果と調和的であった。これらの結果は、酸性条件でもイオン強度が高いためにゲーサイト形成が抑制されることを示唆しており、ゲールクレーターの堆積物にゲーサイトがほぼ見つかっておらず、ヘマタイトばかり認められていることを説明できるかもしれない。さらに、ゲーサイトが形成される水質条件は限定的であり、ゲールクレーターでゲーサイトが見つかった場合、それは過去の水質復元の一助となる可能性が示唆される。