一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

R4:地球表層・環境・生命

2023年9月15日(金) 09:00 〜 11:30 822 (杉本キャンパス)

座長:宇都宮 聡(九州大学)、横山 正(広島大学)、川野 潤(北海道大学)

09:30 〜 09:45

[R4-03] 地球表層環境における鉄酸化物のバンド構造の検討

*井上 紗綾子1、樽谷 直紀2 (1. 愛媛大学・GRC、2. 広島大学・院先進理工)

キーワード:鉄酸化物鉱物、バンド構造、酸化還元反応

ナノスケールの鉄酸化物鉱物は河川や土壌中に広く産する。これらの鉱物表面への溶存物質の濃集は水環境中での溶存物質の循環と深く関係している。さらに鉄酸化物鉱物は半導体としての性質を持つことから、溶存遷移元素の酸化還元反応を促進する特性を持つことが実験的に示されている。鉄酸化物の半導体としての性質と水環境中での触媒としての効果の関係については、概念的な理解に止まっており、鉄酸化物鉱物のバンド構造評価と鉱物表面での酸化還元反応の評価を合わせて行うことで、水環境中での鉄酸化物鉱物の役割のより厳密な理解が可能になると期待される。本発表では、地球表層環境で一般的にみられる鉄酸化物鉱物である赤鉄鉱(α-Fe2O3)と針鉄鉱(α-FeOOH)のバンド構造の測定を行い、地球表層環境での鉄酸化物の特性を理解するのに最適な測定方法の検討を行う。また、鉄酸化物バンド構造が水中における酸化還元反応に与える影響を、マンガン酸化反応を例に議論する。測定には合成赤鉄鉱と針鉄鉱を使用した。赤鉄鉱については、平均粒径7 nmと38 nmを持つ2種類の試料を用いた。光学的バンドギャップの測定は紫外可視分光法(UV-Vis)により行い、同一の試料について、分散液を乾燥した粉体の拡散反射法による測定と分散液の透過法による測定を行なった。分散液の濃度は100 mg/L, 50 mg/L, 20 mg/Lで測定した。また同様の鉄酸化物について、マンガン酸化実験のために、反応容器中で20 mg の鉄酸化物とpH 7.5 ・濃度1 mMのMn2+水溶液50mLを2週間混合した。粉体の拡散反射法測定により得られたバンドギャップは、1.96 eV (平均粒径7 nm 赤鉄鉱)、1.97 eV (平均粒径38nm 赤鉄鉱)、2.27 eV(針鉄鉱)であった。測定結果は先行研究で報告されている赤鉄鉱と針鉄鉱のバルク結晶のバンドギャップと調和的な値である。赤鉄鉱について、粒径とバンドギャップの相関はみられなかった。同様の試料を水中で測定した結果、粉体の状態での測定結果に比べてバンドギャップが大きく算定された。Chernyshova et al. (2011)では、本研究と同様の方法で合成された赤鉄鉱のバンドギャップを分散液を用いたUV-Vis測定にて決定し、粒径が小さくなるにつれてバンドギャップが広大化することを報告している。本研究においても、分散液での測定結果をChernyshova et al. (2011)と同様の方法で算定すると7 nm赤鉄鉱のバンドギャップの方が38nm赤鉄鉱のバンドギャップよりも大きくなり、先行研究の結果と調和的な傾向が見られた。一方で、分散液の測定では、分散液の濃度やTaucプロットの変曲点の選択がバンドギャップの算定結果に大きな影響を与えることが確認でき、鉄酸化物の電子構造を踏まえて最適な測定方法の慎重な検討が必要と考えられる。真空中と水中での測定結果の違いは、バンドギャップと表面構造の関係を示唆しており、地球表層における鉄酸化物鉱物の電気化学的特性の理解のためには、地球表層に近い環境で測定を行う必要がある。発表では、測定により得られた赤鉄鉱、針鉄鉱のバンド構造とマンガン酸化実験の結果を比較し、鉄酸化物の半導体としての特性がマンガン酸化物の生成に与える影響について議論する。