一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

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R4:地球表層・環境・生命

2023年9月15日(金) 12:00 〜 14:00 83G,H,J (杉本キャンパス)

12:00 〜 14:00

[R4P-01] アラゴナイトとカルサイトを含有する人工飼育サンゴの骨格組織観察

*甕 聡子1、波利井 佐紀2、富岡 尚敬3、伊藤 元雄3 (1. 山形大・理、2. 琉大・熱生研、3. JAMSTEC・高知コア研)

キーワード:造礁性サンゴ、バイオミネラリゼーション、アラゴナイト、カルサイト

造礁性サンゴは主に熱帯・亜熱帯の浅海で体内の褐虫藻と共生する動物であり,炭酸カルシウム(CaCO3)で構成される外骨格を持つ.これまで造礁性サンゴ骨格はアラゴナイトの多結晶集合体であると考えられてきた.しかし,近年になって,低温海域の南極海に生息し褐虫藻を持たない種や,海水の元素組成比が現在と異なる白亜紀に,カルサイトが骨格構成鉱物のサンゴがいることが報告されている(Stolarski et al., 2007; Stolarski et al., 2021).本研究では,造礁性サンゴの石灰化における多形選択の過程および骨格形成過程ついて検証するため,カルサイトの析出しやすい環境下でサンゴを飼育し,骨格の微細組織観察を行った. カルサイトを形成させるため,共生藻から隔離した造礁サンゴ幼生(Acropora sp.)をカルサイトが析出しやすいとされるMg/Caモル比2.0以下の海水中で保持した.その後,ペプチド試薬(Hym-248)の添加により稚ポリプへと変態を促し石灰化を開始させ,1~2週間飼育した.生体部は次亜塩素酸ナトリウムで除去した.得られた骨格は6回対称のセプタで形成されるコラライトと底盤を持つ典型的な造礁サンゴ骨格構造を有することを,光学顕微鏡下で確認した.骨格は樹脂包埋し,その成長方向に平行な断面を研磨した.高知コア研究所に設置されている分析走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)で骨格中の元素マッピングと,ラマン顕微鏡(RAMANtouch, Nanophoton, Osaka)による分析から,骨格のMgに乏しい領域にはアラゴナイト,Mgに富む領域にはカルサイトが分布すること確認された.集束イオンビームで骨格底盤とセプタの下部に位置するアラゴナイト–カルサイト両領域を含む薄膜を作成し,透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した. SEM-EDSによる元素マッピングとRaman分析により,サンゴ骨格の下部にあたる底盤に集中してカルサイトが分布し,上部にアラゴナイトが分布することが示された.このことから,石灰化の初期にカルサイトが析出するような環境が続き,その後アラゴナイトのみを析出するような環境に変化したと考えられる. TEM-EDSによる元素マッピングにて, Mgに富む領域とMgに乏しい領域を確認した.制限視野電子線回折像による鉱物相同定では,Mgに富む領域にカルサイト粒子,Mgに乏しい領域にアラゴナイト粒子が存在することが確かめた.組織観察から骨格底盤下部で粒径100 nm程度の粒状,底盤上部にあたるセプタ下部では数µmの粒径の粒状や針状の結晶が骨格を構成していることが示された.粒界には10 nm程度の空隙がみられる場合がある.細粒部と粗粒部の境界は,Mgの濃度境界と一致しない.よって,結晶粒径と鉱物相の変化には関連性がないと考えられる.共生藻を有するサンゴ骨格の観察から,底盤とセプタで骨格の形成方法が異なることが示唆されている(Sugiura et al., 2021).そのため,粒径の変化は底盤とセプタという骨格構造の違いに起因している可能性がある.ただし,本研究の観察試料は共生藻が排除されたサンゴ骨格であり,今後共生藻の影響を加味して検討する必要がある. Stolarski et al., 2007, Science, 318, 92–94. Stolarski et al., 2021, Proc. Natl. Acad. Sci., 118, e2013316117. Sugiura et al., 2021, CrystEngComm, 20, 3693-3700