2:00 PM - 2:15 PM
[R5-12] Chemical Composition of Circumstellar Amorphous Silicate Dust: Condensation Experiments in the Na-Mg-Al-Si-Ca-Fe-Ni-O System
Keywords:circumstellar dust, amorphous silicate, experiment
中小質量星が進化した漸近巨星分枝(AGB)星周ダストは,多くのプレソーラー粒子の起源であることが知られており[1],AGB星からの質量放出風のような高温ガスの急冷場は,彗星塵の主要物質GEMS(Glass with embedded metal and sulfides)の組織を再現できる環境としても重要である[2].
酸素が豊富なAGB星の赤外分光観測では,10 µmと18 µmに,それぞれ非晶質ケイ酸塩のSiO4四面体中のSi-O伸縮とO-Si-O変角に由来するピークが確認されている.しかし,化学組成,温度,構造,サイズなどの複数の要素が縮退した観測スペクトルのみから特に非晶質ダストの性質を一意に定めることは困難である.これまで様々なMg/Si比やMg/Fe比を持つ非晶質ケイ酸塩ダスト模擬物質が合成されてきたが[3, 4],限られた組成範囲でしか実験は行われておらず,観測される多様なダストの化学組成や構造の決定には至っていない.
そこで本研究では,CIコンドライト組成を基準にNa-Mg-Al-Si-Ca-Fe-Ni-O系で組成を系統的に変化させて気相凝縮実験を行った.組成の変化と生成物の赤外スペクトルの対応を調べ,観測スペクトルと比較してAGB星周ダストの化学組成の制約を試みる.
凝縮実験は誘導熱プラズマ(induction thermal plasma: ITP)装置(TP-40020NPS, JEOL [2])を用いて行った.この装置では,粉末状の出発試料を~104 Kのプラズマ炎に投入し即座に気化させ,急冷(104-5 K/s)させることでナノ粒子が凝縮する.出発物質は,Na2SiO3,MgO,Al,CaCO3,Fe,Ni,SiO2のミクロンサイズの粉末試薬(Kojundo Chemical Lab. Co., Ltd.)の混合物である.出発物質の組成を変え,8回の実験を実施した(表1).
生成物を粉末X線回折(XRD; Rigaku Rint-2100),電界放出型電子線マイクロアナライザー(FE-EPMA; JEOL JXA-8530F),透過型電子顕微鏡(FE-STEM; JEOL JSM-2800)で分析し,KBrペレットに埋め込んでフーリエ変換赤外分光法(FT-IR; FT/IR-4200 JASCO)により赤外スペクトルを測定した.
TEM観察により,凝縮物は20–80 nm程度の大きさの非晶質ケイ酸塩粒子であることがわかった.XRDでは出発物質の蒸発残渣とみられるピークが確認されたが,EPMAとTEM分析の結果,凝縮した非晶質ケイ酸塩粒子のバルク組成は出発物質とほぼ変わらず,蒸発残渣による化学組成変化の影響は無視できる程度に小さいことがわかった.
得られた赤外スペクトルの比較から,以下(1)–(5)が示された.(1) 非晶質ケイ酸塩内部の金属粒子は12 µm以降の強度をやや増加させるが,スペクトルに大きな影響を与えない.(2) Al含有量の増加に伴い,10,18 µmのケイ酸塩ピークは長波長へシフトするとともに,11,14 µmにそれぞれAlO4四面体結合中のAl–O-Al振動,孤立したAlO4四面体またはAlO5六面体中のAl–O伸縮に由来するピークが現れる.(3) Ca含有量の増加に伴い,10,18 µmのケイ酸塩ピークは長波長へシフトする.(4) CIコンドライト組成のもとでのCa,Naの有無は,ペクトルに大きな影響を与えない.(5)ITPを用いた先行研究[5]の非晶質MgSiO3と,本実験Al8Si100Mg103との比較から,Alの存在により20 µm以降のスペクトルは上に凸のブロードフィーチャーを示す.
Al/Si比を様々に変えた実験生成物の赤外スペクトルとAGB星Z Cygの観測[6]との比較から,AGB星周ダストはCIコンドライト組成[7]よりもAlに富んでおり,Al/Siは0.08~ 0.75であると考えられる.しかし,AGB星起源とされる非晶質ケイ酸塩プレソーラー粒子の多くはAlに乏しい(<~1 at%)ことから[8],AGB星周非晶質ケイ酸塩ダストはAlに富んだものと,Alに乏しいものの混合物である可能性がある.
[1] Nguyen A. N. et al. (2016) ApJ, 818, 51. [2] Kim T. H. et al. (2021) A&A, 656, A42. [3] Jäger C. et al. (2003) A&A,408,193. [4] Dorschner J. et al. (1995) A&A, 300, 503. [5] Imai (2012) Ph.D. thesis. [6] Onaka T. et al. (2002) A&A, 388, 573. [7] Lodders K. et al. (2009) Landolt-Börnstein (Springer) [8] Vollmer C. et al., (2009) ApJ, 700, 774.
酸素が豊富なAGB星の赤外分光観測では,10 µmと18 µmに,それぞれ非晶質ケイ酸塩のSiO4四面体中のSi-O伸縮とO-Si-O変角に由来するピークが確認されている.しかし,化学組成,温度,構造,サイズなどの複数の要素が縮退した観測スペクトルのみから特に非晶質ダストの性質を一意に定めることは困難である.これまで様々なMg/Si比やMg/Fe比を持つ非晶質ケイ酸塩ダスト模擬物質が合成されてきたが[3, 4],限られた組成範囲でしか実験は行われておらず,観測される多様なダストの化学組成や構造の決定には至っていない.
そこで本研究では,CIコンドライト組成を基準にNa-Mg-Al-Si-Ca-Fe-Ni-O系で組成を系統的に変化させて気相凝縮実験を行った.組成の変化と生成物の赤外スペクトルの対応を調べ,観測スペクトルと比較してAGB星周ダストの化学組成の制約を試みる.
凝縮実験は誘導熱プラズマ(induction thermal plasma: ITP)装置(TP-40020NPS, JEOL [2])を用いて行った.この装置では,粉末状の出発試料を~104 Kのプラズマ炎に投入し即座に気化させ,急冷(104-5 K/s)させることでナノ粒子が凝縮する.出発物質は,Na2SiO3,MgO,Al,CaCO3,Fe,Ni,SiO2のミクロンサイズの粉末試薬(Kojundo Chemical Lab. Co., Ltd.)の混合物である.出発物質の組成を変え,8回の実験を実施した(表1).
生成物を粉末X線回折(XRD; Rigaku Rint-2100),電界放出型電子線マイクロアナライザー(FE-EPMA; JEOL JXA-8530F),透過型電子顕微鏡(FE-STEM; JEOL JSM-2800)で分析し,KBrペレットに埋め込んでフーリエ変換赤外分光法(FT-IR; FT/IR-4200 JASCO)により赤外スペクトルを測定した.
TEM観察により,凝縮物は20–80 nm程度の大きさの非晶質ケイ酸塩粒子であることがわかった.XRDでは出発物質の蒸発残渣とみられるピークが確認されたが,EPMAとTEM分析の結果,凝縮した非晶質ケイ酸塩粒子のバルク組成は出発物質とほぼ変わらず,蒸発残渣による化学組成変化の影響は無視できる程度に小さいことがわかった.
得られた赤外スペクトルの比較から,以下(1)–(5)が示された.(1) 非晶質ケイ酸塩内部の金属粒子は12 µm以降の強度をやや増加させるが,スペクトルに大きな影響を与えない.(2) Al含有量の増加に伴い,10,18 µmのケイ酸塩ピークは長波長へシフトするとともに,11,14 µmにそれぞれAlO4四面体結合中のAl–O-Al振動,孤立したAlO4四面体またはAlO5六面体中のAl–O伸縮に由来するピークが現れる.(3) Ca含有量の増加に伴い,10,18 µmのケイ酸塩ピークは長波長へシフトする.(4) CIコンドライト組成のもとでのCa,Naの有無は,ペクトルに大きな影響を与えない.(5)ITPを用いた先行研究[5]の非晶質MgSiO3と,本実験Al8Si100Mg103との比較から,Alの存在により20 µm以降のスペクトルは上に凸のブロードフィーチャーを示す.
Al/Si比を様々に変えた実験生成物の赤外スペクトルとAGB星Z Cygの観測[6]との比較から,AGB星周ダストはCIコンドライト組成[7]よりもAlに富んでおり,Al/Siは0.08~ 0.75であると考えられる.しかし,AGB星起源とされる非晶質ケイ酸塩プレソーラー粒子の多くはAlに乏しい(<~1 at%)ことから[8],AGB星周非晶質ケイ酸塩ダストはAlに富んだものと,Alに乏しいものの混合物である可能性がある.
[1] Nguyen A. N. et al. (2016) ApJ, 818, 51. [2] Kim T. H. et al. (2021) A&A, 656, A42. [3] Jäger C. et al. (2003) A&A,408,193. [4] Dorschner J. et al. (1995) A&A, 300, 503. [5] Imai (2012) Ph.D. thesis. [6] Onaka T. et al. (2002) A&A, 388, 573. [7] Lodders K. et al. (2009) Landolt-Börnstein (Springer) [8] Vollmer C. et al., (2009) ApJ, 700, 774.