2:15 PM - 2:30 PM
[R5-13] Survivability of presolar SiC grains in the protosolar disk: An experimental study
Keywords:Presolar grains, Silicon carbide (SiC), Evaporation/Oxidation, Kinetics, Protosolar disk
プレソーラーSiC 粒子は、原始太陽系円盤の酸化的環境下では蒸発反応を起こすため (Larimer and Bartholomay, 1979)、円盤の円盤物理化学条件 (温度、圧力等) の指標となり得る。円盤でSiCは、酸化還元状態に応じてSiO2残渣層を形成しないアクティブ酸化またはSiO2残渣層を形成しSiO2が蒸発するパッシブ酸化を経験する (e.g., Narushima et al., 1997)。Mendybaev et al. (2002) では、1気圧の酸素分圧をコントロールした様々な酸化還元環境化でSiC蒸発実験をおこなった。その結果、酸化的な環境下 (IW-03) では、SiO2残渣層の形成が確認され、一方還元的な環境下では (IW-06) ではSiO2残渣層が形成されない (または極めて薄い) ことが確認された。SiO2残渣層は円盤ガス・SiC間の直接の接触を妨げることでSiC蒸発速度を左右する。更に始原的隕石中のプレソーラーSiC粒子表面に見られる10–30 nm程度の酸化リム (Bernatowicz et al., 2006) の起源においても重要である。SiC蒸発速度やメカニズムは、ガス分圧やガス組成に関連している可能性があり、1気圧条件での反応速度を円盤環境での反応速度に直接応用できない可能性がある。そのため、本研究では、原始太陽系円盤でのプレソーラーSiC粒子の残存可能性の理解のため、円盤を模した低圧H2-H2O混合ガス環境下でのSiCの蒸発実験をおこなった。
実験出発物質には、主要なプレソーラーSiC粒子の多形であるβ-SiCのチップを用いた。加熱実験には、ガス供給系を備えた真空高温加熱縦型炉を用いて、温度1250–1450°C、H2-H2O混合ガス圧力0.5, 2.5 Paで4–110.3 hおこなった。ガス供給系では、室温でのH2Oからの蒸発ガスとガスボンベから供給されるH2ガスとが混合され、H2Oの消費量から推定したPH2Oは、全圧0.5, 2.5 Paの実験でそれぞれPH2O = 2.2 × 10–3 Pa, 6.0 × 10–3 Paであった。また全圧2.5 Paの一部の実験では、H2Oを50, 75°Cに加熱し室温での飽和水蒸気圧を作り出すことで、PH2O = 3.7 × 10–2 Paの条件での実験もおこなった。サンプル質量変化から蒸発量の推定をおこなった。いくつかのサンプルに関してFIB切片を作成し、透過型電子顕微鏡 (STEM-EDS; JEOL JEM-2800) で観察をおこなった。
STEM-EDS分析から表面に酸素を含む極めて薄い層 (~5–10 nm) の存在が確認され、パッシブ酸化を通した蒸発の可能性が示唆された。これは、プレソーラーSiC粒子表面の酸化リムが円盤でも形成可能であることを示唆する。蒸発速度k (cm s–1) は質量損失と初期サンプルサイズにより推定し (Takigawa et al., 2009)、蒸発フラックスJ (g cm–2 s–1) に変換した。Jは1350–1450°Cの高温領域では温度にほとんど依存しない一方、ガス圧・ガス組成に依存した。1300°C以下の低温領域では、Jは大きく温度に依存し、ばらつきの範囲内で異なるガス条件の結果は一致し、さらに先行研究 (Mendybaev et al., 2002) のIW-03, IW-06条件でのJと近い値を示した。高温領域においてJの小さな温度依存性は、ガス供給 (ガス供給速度に律速されたSiO2形成速度) が律速段階である可能性を示す。高温領域でのJは、PH2Oの平方根に依存したことから、表面でのH2O分子の乖離が蒸発速度に関係している可能性がある。一方低温領域では、Jがガス種に非依存、また非常に薄いSiO2残渣層であったことを考慮すると、SiC-SiO2界面反応が反応速度を律速している可能性があり、本研究で得られた活性化エネルギー (~531 kJ mol–1) が先行研究で報告しているSiC-SiO2界面反応における活性化エネルギー (~548–563 kJ mol–1; (Pultz & Hertl, 1966; Mendybaev et al., 2002)) と整合的であることも説明可能である。
本研究で得られた蒸発速度に基づくと、プレソーラーSiC粒子は溶融CAI形成をもたらした熱的イベント (~1400°C, PH2O > 0.1 Pa, 2–3日; Yamamoto et al., 2021) において完全に蒸発する可能性がある。また、プレソーラーSiC粒子は、酸素同位体交換により同位体的特徴を失うプレソーラーケイ酸塩粒子に対して高温で残存する可能性があるが、プレソーラーコランダムが円盤ガスと酸素同位体交換をする温度領域においては、プレソーラーコランダムより先に蒸発し消失する可能性があることがわかった。
実験出発物質には、主要なプレソーラーSiC粒子の多形であるβ-SiCのチップを用いた。加熱実験には、ガス供給系を備えた真空高温加熱縦型炉を用いて、温度1250–1450°C、H2-H2O混合ガス圧力0.5, 2.5 Paで4–110.3 hおこなった。ガス供給系では、室温でのH2Oからの蒸発ガスとガスボンベから供給されるH2ガスとが混合され、H2Oの消費量から推定したPH2Oは、全圧0.5, 2.5 Paの実験でそれぞれPH2O = 2.2 × 10–3 Pa, 6.0 × 10–3 Paであった。また全圧2.5 Paの一部の実験では、H2Oを50, 75°Cに加熱し室温での飽和水蒸気圧を作り出すことで、PH2O = 3.7 × 10–2 Paの条件での実験もおこなった。サンプル質量変化から蒸発量の推定をおこなった。いくつかのサンプルに関してFIB切片を作成し、透過型電子顕微鏡 (STEM-EDS; JEOL JEM-2800) で観察をおこなった。
STEM-EDS分析から表面に酸素を含む極めて薄い層 (~5–10 nm) の存在が確認され、パッシブ酸化を通した蒸発の可能性が示唆された。これは、プレソーラーSiC粒子表面の酸化リムが円盤でも形成可能であることを示唆する。蒸発速度k (cm s–1) は質量損失と初期サンプルサイズにより推定し (Takigawa et al., 2009)、蒸発フラックスJ (g cm–2 s–1) に変換した。Jは1350–1450°Cの高温領域では温度にほとんど依存しない一方、ガス圧・ガス組成に依存した。1300°C以下の低温領域では、Jは大きく温度に依存し、ばらつきの範囲内で異なるガス条件の結果は一致し、さらに先行研究 (Mendybaev et al., 2002) のIW-03, IW-06条件でのJと近い値を示した。高温領域においてJの小さな温度依存性は、ガス供給 (ガス供給速度に律速されたSiO2形成速度) が律速段階である可能性を示す。高温領域でのJは、PH2Oの平方根に依存したことから、表面でのH2O分子の乖離が蒸発速度に関係している可能性がある。一方低温領域では、Jがガス種に非依存、また非常に薄いSiO2残渣層であったことを考慮すると、SiC-SiO2界面反応が反応速度を律速している可能性があり、本研究で得られた活性化エネルギー (~531 kJ mol–1) が先行研究で報告しているSiC-SiO2界面反応における活性化エネルギー (~548–563 kJ mol–1; (Pultz & Hertl, 1966; Mendybaev et al., 2002)) と整合的であることも説明可能である。
本研究で得られた蒸発速度に基づくと、プレソーラーSiC粒子は溶融CAI形成をもたらした熱的イベント (~1400°C, PH2O > 0.1 Pa, 2–3日; Yamamoto et al., 2021) において完全に蒸発する可能性がある。また、プレソーラーSiC粒子は、酸素同位体交換により同位体的特徴を失うプレソーラーケイ酸塩粒子に対して高温で残存する可能性があるが、プレソーラーコランダムが円盤ガスと酸素同位体交換をする温度領域においては、プレソーラーコランダムより先に蒸発し消失する可能性があることがわかった。