2023 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Poster presentation

R7: Petrology, Mineralogy and Economic geology (Joint Session with Society of Resource Geology)

Fri. Sep 15, 2023 12:00 PM - 2:00 PM 83G,H,J (Sugimoto Campus)

12:00 PM - 2:00 PM

[R7P-01] Fluorescence spectra and fluorescence lifetime of photoluminescent opal coming from Sikaribetu area

*Toshifumi Iimori1, Yuna Fujii2 (1. Muroran Tech. Eng., 2. Muroran Tech.)

Keywords:Opal, Hokkaidoite, Fluorescent organic molecules

北海道然別地域で産出されるオパールは、紫外線を照射すると多彩な蛍光色を示すことが知られている。この蛍光オパールについてこれまでにいくつかの調査が行われ、オパールの元素組成と蛍光色との関係についての研究などが報告されてきた。しかし、蛍光オパールの蛍光の起源については不明であった。我々のグループでは、蛍光オパールがなぜ蛍光を示すのか明らかにすることを目指し、2020年から研究に取り組んできた。本研究では、蛍光オパールの蛍光特性のキャラクタリゼーションについて報告する。
蛍光オパールを乳鉢で粉砕し、粉末状の試料を作成して蛍光スペクトルを測定した。サンプルとして用いた蛍光オパールは、黄色やオレンジ色など様々な色の蛍光を示していた。オレンジ色に発光する部分を選別して粉砕し蛍光スペクトルを測定したところ500から700 nmにかけてブロードな蛍光バンドが確認された。蛍光スペクトルの極大は約600 nmに見られた。蛍光励起スペクトルを測定したところ358, 410, 475 nmにピークが見られた。これは有機分子に特有の振動構造であると考えられる。蛍光寿命を測定したところ、3成分の蛍光減衰曲線でフィッティングできた。平均蛍光寿命(<τ>)は試料によって変化が見られたが、約8 nsであった。蛍光オパールの黄色い蛍光を示す部分を選別して測定したところ、蛍光スペクトルの極大波長は543 nm、蛍光励起スペクトルは約408, 355 nmに極大を示し、<τ> = 9 nsであった。
オレンジ色に発光する部分を粉砕してエタノールを加えると、蛍光が青白く変化することを見いだした。そこでエタノールを添加したオパールをろ過し、粉末とろ液に分離した。ろ液は紫外光照射により青白い蛍光を示した。メタノール、アセトン、トルエン、ヘキサンを用いても同様の蛍光を示したが、蛍光スペクトルの形状に変化が見られた。したがってオパールには有機溶媒に溶解しやすい蛍光物質が含まれていることが明らかになった。エタノール抽出物は400–600 nmの範囲に蛍光スペクトルを示し、422および446 nmに鋭いピークを示した。蛍光励起スペクトルを測定したところ、404および383 nmにピーク、418-420 nmにショルダーバンドが見られた。鋭いピークは有機分子に特有の振動構造であると考えられる。また励起波長が変化すると蛍光スペクトルの形状も変化した。ヘキサンで抽出した試料の蛍光および蛍光励起スペクトルは、エタノールの場合と同様の特徴を示した。トルエンで抽出した試料は409 nmに比較的強い蛍光励起ピークを示し、420 nmにショルダーバンドを示した。蛍光寿命を測定したところ2成分で蛍光減衰曲線をフィッティングでき、<τ>はおよそ8 nsであった。また抽出に用いる溶媒によって蛍光寿命は少し変化した。
以上の結果を総括すると、次のことが明らかになった:
(1)蛍光オパールの蛍光物質は有機分子であることが強く示唆される
(2)少なくとも2種類の蛍光分子が存在する
(3)溶媒によって抽出物の組成が変化する
2023年に、田中らにより新鉱物である「北海道石」が発見された。北海道石は、ベンゾ[g,h,i]ペリレンを構成成分とする鉱物であり、紫外線を照射すると黄色~黄緑色の蛍光を示すことが知られている。また鹿追町で産出する鉱物には、北海道石とともに、コロネンを構成成分とする鉱物カルパチア石が含まれているとされている。過去の文献(Aihara et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. (1970))によると、ベンゾペリレンの吸収スペクトル(溶媒ヘキサン)は405 nmに弱いピーク、383 nmに強いピークを示す。またコロネン(溶媒ベンゼン)は428, 419 nmに弱いピーク、410 nmに強いピークを示す。蛍光オパールのヘキサン抽出物の蛍光励起スペクトルは、ベンゾペリレンの吸収スペクトルと波長はほぼ一致するが、383 nmのピークの大きさが文献と比べて弱い原因は不明である。トルエン抽出物は409 nmに蛍光励起ピークを示し、コロネンの吸収スペクトルと一致した。またヘキサン中コロネンは8.0 nsの単一指数関数の蛍光寿命を示すとされており(Davenport et al., Biophys. J. (1996))、本研究で得られた<τ>と近い。したがってオレンジ色の蛍光を示すオパールにはコロネンが含まれていると考えて矛盾しない。ベンゾペリレンやコロネンなどの多環式芳香族化合物分子は、パイ-パイスタッキングの構造によって発光色が変化する可能性がある。講演では、分子結晶中の特異的な会合状態が蛍光オパールの蛍光色の起源になっている可能性等も議論する予定である。