12:00 PM - 2:00 PM
[R7P-09] Hydration of the mantle and magma genesis in the Izu–Mariana fore-arc region.
Keywords:Subduction zone, hydration, fore-arc magma genesis, peridotite, amphibole
沈み込み帯では、巨大地震や島弧火成活動が生じるなど、地球上で最も活動的なテクトニックセッティングである。また、海洋リソスフェアが地球内部に沈み込む場として汎地球規模の物質循環が進行しており、地球の進化に重要な役割を果たしている。伊豆-マリアナ前弧域に分布する蛇紋岩海山や海溝陸側斜面では、沈み込み帯マントル由来の物質を採取できるため、沈み込み帯マントルに記録された物質循環を理解する上で格好の研究対象である。本研究では、前弧域のマントルの加水作用とそれに伴うマグマ活動を総合的に理解するために、伊豆-マリアナ弧海溝陸側斜面に露出する地殻起源の岩石と上部マントルかんらん岩を用いて、岩石記載と地球化学的解析を実施した。 本研究で用いられた試料は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有している潜水船で採取された小笠原海溝、南マリアナ海溝、ヤップ海溝の海溝陸側斜面からの試料と、大気海洋研究所所有のマリアナ海溝陸側斜面から白鳳丸で採取された大気海洋研究所所有の安山岩とボニナイトである。 3 つの海溝から採取されたかんらん岩は、様々な程度に蛇紋岩化したハルツバージャイトとダナイトで、形成されている蛇紋石は低温で安定なリザーダイト/クリソタイルである。南マリアナ海溝のかんらん岩は針状~繊維状の角閃石に富む(組成としてはパーガス閃石、エデン閃石、マグネシオホルンブレンド、トレモラ閃石、カミングトン閃石)。一方で、ヤップ海溝のかんらん岩は角閃石を含まず、単斜輝石を含むことで特徴づけられる。かんらん岩に含まれるクロムスピネルの Cr#(=Cr/(Cr+Al)原子比)は南マリアナ海溝で最も高く(0.62~0.95)、直方輝石の重希土類元素濃度が枯渇した特徴を示すことから、南マリアナ海溝のかんらん岩は他の地域のものよりも枯渇していることを示す。 角閃石の微量元素組成は、鉱物種によらずBaやSrに富む一方で、トレモラ閃石のリム部とカミングトン閃石はCsやRbに富む。 角閃石を対象とした地質温度計からは、Al2O3 に富む Ca 角閃石(パーガス閃石、エデン閃石、マグネシオホルンブレンド)が 780~930℃で形成され、トレモラ閃石が 710~840℃で形成されたと見積もられる。前者は後者よりもアルカリ元素に富み、より深部で形成した可能性が示唆される。トレモラ閃石はカミングトン閃石に囲まれており、カミングトン閃石形成後にタルクが形成されていることから、角閃石は温度冷却過程に伴う加水作用によって形成されたことが推察される。 本研究では、角閃石を作る流体の特徴を明らかにするとともに、マグマ活動への示唆を議論する。現在、全岩主要元素組成及び微量元素組成分析を実施しており、それらの結果を合わせて議論を展開する。