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[S1-02] 弾性変形による流体包有物の密度変化:流体包有物地質圧力計への影響とその補正法
キーワード:流体包有物、地質圧力計、状態方程式、弾性変形、ラマン分光法
ホスト鉱物の弾性変形による流体包有物密度(ρinc)の変化は,流体包有地質圧力計の系統誤差の原因となることが長い間認識されてきたが(e.g., Ermakov 1950),状態方程式の非線形性や弾性緩和の影響を考慮に入れてその影響を評価するのは困難であった.しかし,最近の弾性地質圧力計理論(e.g., Angel et al. 2014; 2017)やホスト鉱物の状態方程式(e.g., Angel et al. 2018; Hagiwara et al. 2022)の改良により,弾性変形が流体包有地質圧力計にもたらす不確定性を正確に評価できるようになった.本研究では,流体包有物地質圧力計によるかんらん岩の由来深度推定を例にその影響を評価し補正法を提案する.
試料として極東ロシアEnnokentievのマントル捕獲岩 (spinel-lherzolite)(e.g., Yamamoto et al. 2012)中のスピネル,直方輝石,単斜輝石,かんらん石に含まれるpure CO2流体包有物を利用した.CO2の密度は,CO2のラマンスペクトルの2つの大きなピークの波数差(Δ in cm-1)から推定した.先行研究によって異なるρinc-Δ関係式が報告されている問題については,標準CO2流体包有物を用いてHagiwara et al. (2020)の手順に従い対処した.また,レーザー加熱により密度の過小評価してしまう問題は,Hagiwara et al. (2021a)のρinc-Δ式の温度依存性と,Hagiwara et al. (2021b)の単位レーザーパワー当たりの各鉱物中の流体包有物の温度上昇量を利用し補正した.
計算の結果,spinel-lherzoliteの典型的な由来P-T条件下でトラップされた流体包有物の密度(ρinc)(つまり,研究室での分析値)は,トラップされたP-T条件下での密度(ρtrap)よりも弾性変形により約0-3%大きくなることが示された.これは,流体包有物地質圧力計により推定した圧力は,トラップ圧力の下限値であるというこれまでの考えを覆すものである.従って,弾性変形の影響を補正しない限り,ρincから推定したトラップ圧力は過大評価されることになる.また,Hagiwara et al. (2022)によるとspinelの陽イオンの秩序化もトラップ圧力の過大評価に繋がる可能性があり,実際に鉱物包有物地質圧力計では系統誤差の要因になることが示されている.しかし,流体包有物の場合,流体の圧縮性の高さによりこの影響は無視できることが明らかになった.また,かんらん岩で広く報告されている流体密度の鉱物種依存性(スピネル > 直方輝石 ~ 単斜輝石 > かんらん石)には,ホスト鉱物の弾性特性の違いは全く関与していないことが示された.更に,レーザー加熱による見かけ上の流体密度低下(Hagiwara et al. 2021a; 2021b)では,この鉱物種依存性は説明できないことも示された.弾性変形や陽イオンの秩序化以外にρincを上昇させる機構は考えづらいため,直方輝石,単斜輝石,かんらん石中の流体包有物のρincは弾性変形以外の要因で減少している可能性が高い.したがって,spinel中のFIを用いたPtrapの推定値は,直方輝石,単斜輝石,かんらん石中の流体包有物から得られる推定値よりも,真のトラップ圧力に近いはずである.
References Angel et al. (2014) Am Mineral, 99, 2146-2149; Angel et al. (2017) Am Mineral, 102, 1957-1960; Angel et al. (2018) Phys Chem Miner, 45, 95-113; Ermakov (1950) University of Kharkov Press, 460 pp.; Hagiwara et al. (2020) J. Raman Spectros. 51, 1003–1018; Hagiwara et al. (2021a) J. Raman Spectros. 52, 1744–1757; Hagiwara et al. (2021b) Chem. Geol. 559, 119928; Hagiwara et al. (2022) Contrib. Min. Petrol. 177, 108; Yamamoto et al. (2012) Tectnophysics. 554-557, 74-78
試料として極東ロシアEnnokentievのマントル捕獲岩 (spinel-lherzolite)(e.g., Yamamoto et al. 2012)中のスピネル,直方輝石,単斜輝石,かんらん石に含まれるpure CO2流体包有物を利用した.CO2の密度は,CO2のラマンスペクトルの2つの大きなピークの波数差(Δ in cm-1)から推定した.先行研究によって異なるρinc-Δ関係式が報告されている問題については,標準CO2流体包有物を用いてHagiwara et al. (2020)の手順に従い対処した.また,レーザー加熱により密度の過小評価してしまう問題は,Hagiwara et al. (2021a)のρinc-Δ式の温度依存性と,Hagiwara et al. (2021b)の単位レーザーパワー当たりの各鉱物中の流体包有物の温度上昇量を利用し補正した.
計算の結果,spinel-lherzoliteの典型的な由来P-T条件下でトラップされた流体包有物の密度(ρinc)(つまり,研究室での分析値)は,トラップされたP-T条件下での密度(ρtrap)よりも弾性変形により約0-3%大きくなることが示された.これは,流体包有物地質圧力計により推定した圧力は,トラップ圧力の下限値であるというこれまでの考えを覆すものである.従って,弾性変形の影響を補正しない限り,ρincから推定したトラップ圧力は過大評価されることになる.また,Hagiwara et al. (2022)によるとspinelの陽イオンの秩序化もトラップ圧力の過大評価に繋がる可能性があり,実際に鉱物包有物地質圧力計では系統誤差の要因になることが示されている.しかし,流体包有物の場合,流体の圧縮性の高さによりこの影響は無視できることが明らかになった.また,かんらん岩で広く報告されている流体密度の鉱物種依存性(スピネル > 直方輝石 ~ 単斜輝石 > かんらん石)には,ホスト鉱物の弾性特性の違いは全く関与していないことが示された.更に,レーザー加熱による見かけ上の流体密度低下(Hagiwara et al. 2021a; 2021b)では,この鉱物種依存性は説明できないことも示された.弾性変形や陽イオンの秩序化以外にρincを上昇させる機構は考えづらいため,直方輝石,単斜輝石,かんらん石中の流体包有物のρincは弾性変形以外の要因で減少している可能性が高い.したがって,spinel中のFIを用いたPtrapの推定値は,直方輝石,単斜輝石,かんらん石中の流体包有物から得られる推定値よりも,真のトラップ圧力に近いはずである.
References Angel et al. (2014) Am Mineral, 99, 2146-2149; Angel et al. (2017) Am Mineral, 102, 1957-1960; Angel et al. (2018) Phys Chem Miner, 45, 95-113; Ermakov (1950) University of Kharkov Press, 460 pp.; Hagiwara et al. (2020) J. Raman Spectros. 51, 1003–1018; Hagiwara et al. (2021a) J. Raman Spectros. 52, 1744–1757; Hagiwara et al. (2021b) Chem. Geol. 559, 119928; Hagiwara et al. (2022) Contrib. Min. Petrol. 177, 108; Yamamoto et al. (2012) Tectnophysics. 554-557, 74-78