一般社団法人日本鉱物科学会2023年年会・総会

講演情報

口頭講演

S1: 火成作用のダイナミクス (スペシャルセッション)

2023年9月16日(土) 09:00 〜 10:00 820 (杉本キャンパス)

座長:浜田 盛久(海洋研究開発機構)、吉村 俊平(北海道大学)

09:45 〜 10:00

[S1-04] 流紋岩質溶岩に含まれるスフェルライトとクリスタライトの再現実験

*菅原 維1、吉村 俊平1 (1. 北大・院自然)

キーワード:結晶化、流紋岩、スフェルライト、クリスタライト

はじめに
 流紋岩溶岩のガラス質の石基には、長さ数10㎛のマイクロライト(斜長石、輝石、磁鉄鉱など)に加え、棒状や毛状の不透明鉱物からなるクリスタライト(晶子)や針状あるいは長柱状の結晶が一点から放射状に広がり形成される球状結晶であるスフェルライト(球顆)などの形状が異なる結晶が存在していることが知られている。これらのうち、クリスタライトやスフェルライトは、必ずしも岩石の中で空間的に均質に分布するわけではなく、しばしば偏って存在することが知られている(例えばFink & Manley, 1987; Stasiuk et al., 1989; Gardner et al., 2016; Bullock et al. 2017; 中村 2022)。しかし、クリスタライトやスフェルライトがどのような条件で晶出するかについて詳しくは分かっていない。そこで本研究では流紋岩質溶岩の定置後の条件を再現する実験を行い、これらの結晶がどのような条件で形成されるかを調べた。

実験手法
 出発物質には,静岡県カワゴ平火山の溶岩流(ガラス質の部分)を用いた。これを角柱状の整形し、石英ガラス管に水と共に封入し、1000℃~650℃、>386時間の条件で実験を行った。水の量は、ガラス管の内圧が約100気圧になるよう調節した。実験後、試料の両面研磨薄片を作製し、結晶組織の透過観察、SEM-EDSを用いた観察および化学組成分析、顕微FT-IRを用いた含水量測定を行った。

結果
 実験温度750℃を境に、結晶組織は大きく異なっていた。750℃よりも高温の実験では、ガラス中に褐色で球形のスフェルライトが形成された。化学組成の分析から、スフェルライトは斜長石およびシリカ鉱物の集合体と推定される。スフェルライトの量は、各温度で時間とともに増加した。ただし、増加の速度は温度とともに増加するのではなく、900℃でピークをもち、それより高温、または低温では速度は低下した。また、試料の発泡度は時間とともに増加した。これは、スフェルライト形成が進行することでメルトにH2O成分が濃集し、過飽和となり発泡したものと考えられる(二次沸騰)。一方、750℃よりも低温では、黒色不透明で針状または毛状のクリスタライトが形成された。その量は時間とともに増加し、試料は真っ黒になった。この鉱物は磁鉄鉱と推定されるが、現在調査中である。また、この条件下でスフェルライトは形成されなかった。

考察
 クリスタライトやスフェルライトの形成条件は、温度の違い(過冷却度の違い)によるものと考えられる。溶岩内部で結晶の種類にバリエーションがあることは、溶岩の冷却履歴が局所的に異なることを反映している可能性がある。