12:30 〜 14:00
[R5-P-02] 低圧環境下でのコンドリュールメルト-水蒸気間の酸素同位体交換実験
キーワード:コンドリュールメルト、低圧水蒸気、酸素同位体交換、速度論、原始太陽系円盤
ミリメートルサイズのケイ酸塩球状粒子「コンドリュール」は、コンドライト隕石の主要構成物であり、原始太陽系円盤中で、前駆物質が加熱され溶融・冷却し形成したものである。コンドリュールは非質量依存の酸素同位体分別を示し、溶融時のコンドリュールメルトと円盤ガス (e.g., H2O) との同位体交換に起因する可能性が指摘されている (e.g., Tenner et al., 2018)。コンドリュールメルトの同位体交換反応の機構や時間スケールは、単一のコンドリュール内部における酸素同位体組成の均質性 (e.g., Ushikubo et al., 2012) の解釈や、コンドリュール加熱機構やその材料物質の同位体組成 (e.g., Williams et al., 2020) を制約する上で重要である。先行研究によって、円盤環境よりも明らかに高圧のH2Oガス (PH2O ~ 0.01–0.5 bar) とコンドリュールメルトの酸素同位体交換実験がおこなわれた (e.g., Yu et al., 1995; Di Rocco and Pack, 2015). しかしそのような高圧条件の結果を、円盤の低圧環境に応用する際には大きな不確定性が伴う。例えば、低圧条件ではメルト内部の酸素同位体拡散ではなく、ガスの供給量が全体の反応速度を律速する可能性がある (e.g., Yamamoto et al., 2021)。本研究では、コンドリュールの酸素同位体組成分布の定量的解釈に向けて、円盤を模した低圧H2Oガス環境下でのコンドリュールメルト-H2O間の酸素同位体交換反応実験を実施した。
実験の出発物質には、Feを含まないCa-Mg-Al-Si-Ti-Mn系で、Feに乏しくAlに富むコンドリュール (Bischoff and Keil, 1984) に類似した組成のものを用いた。この出発物質は、大気中において白金線ループ上で、上記組成のリキダスよりも高温 (1480°C) で加熱・急冷し作成したものであり、結晶を含まない球形ガラスである。同位体交換実験には、H2Oガス供給機構を備えた真空高温加熱炉を用い、低温で保持したH218O (~97% 18O) からの低圧水蒸気存在下 (PH2O = 5 × 10–7 bar) で、出発物質を1480および1520°Cで0.5–5 h 加熱後、急冷した。加熱後物質は、電子顕微鏡での観察および元素組成の分析後に、酸素同位体組成の二次元分布を二次イオン質量分析計 (Cameca ims-1280HR @北海道大学) で測定した。
同位体交換後の実験サンプル中の18O/16O比は、メルト内部でおおよそ一定であった。このことは、同位体交換反応速度が、メルト表面での同位体交換プロセスに律速されていることを示す。反応率から推定されるメルト表面での同位体交換率は、1480, 1520°Cでどちらも~0.1であり、これはメルト表面に衝突するH2O分子のうち約10%が同位体交換を起こすことを示している。
上記の速度データに基づき、1500°Cにおいて直径1 mmのコンドリュールメルトが周囲のH2Oガスと90%同位体交換をする時間スケール (t0.9)を計算した。H2Oガス供給律速時のt0.9は、加熱時のPH2Oに依存し、例えばPH2O = 1 × 10–7 barでは~343 h、PH2O = 1 × 10–5 bar では~3.4 hであった。一方で、高圧条件ではメルト内部の拡散プロセスが同位体交換速度を律速する可能性がある (e.g., Yamamoto et al., 2021)。Liang et al. (1996) から見積もられる酸素同位体拡散速度を考慮すると、PH2O > ~1 × 10–4 barの高水蒸気圧条件では、t0.9はPH2Oに依存せずメルト内部の酸素同位体拡散律速になり、コンドリュールメルトとH2Oガスとが~15分で90%同位体を交換することになる。炭素質コンドライト隕石に含まれる個々のコンドリュール中の斑晶鉱物は、僅かな溶け残り部分を除いて均質な酸素同位体組成を持つことがを報告されている (e.g., Tenner et al., 2018 and references therein)。もしこの単一コンドリュール中の同位体的均質性が、コンドリュールメルト-円盤ガス間での同位体平衡の達成に起因していた場合、原始太陽系円盤の全圧 ( ~10–5 bar; e.g., Mendybaev et al., 2006; Kamibayashi et al., 2021) 及びコンドリュール酸化還元状態 (IW–2から–1程度; Grossman et al., 2012) から推定されるPH2O ~ (1–3) × 10–6 barを仮定すると、コンドリュールは1500–1600°Cで~11–35 h以上加熱される必要があることが推定される。今後はFeを含む系での同位体交換実験を実施し、コンドリュールメルトの酸素同位体分布の起源の定量的解明を目指す。
実験の出発物質には、Feを含まないCa-Mg-Al-Si-Ti-Mn系で、Feに乏しくAlに富むコンドリュール (Bischoff and Keil, 1984) に類似した組成のものを用いた。この出発物質は、大気中において白金線ループ上で、上記組成のリキダスよりも高温 (1480°C) で加熱・急冷し作成したものであり、結晶を含まない球形ガラスである。同位体交換実験には、H2Oガス供給機構を備えた真空高温加熱炉を用い、低温で保持したH218O (~97% 18O) からの低圧水蒸気存在下 (PH2O = 5 × 10–7 bar) で、出発物質を1480および1520°Cで0.5–5 h 加熱後、急冷した。加熱後物質は、電子顕微鏡での観察および元素組成の分析後に、酸素同位体組成の二次元分布を二次イオン質量分析計 (Cameca ims-1280HR @北海道大学) で測定した。
同位体交換後の実験サンプル中の18O/16O比は、メルト内部でおおよそ一定であった。このことは、同位体交換反応速度が、メルト表面での同位体交換プロセスに律速されていることを示す。反応率から推定されるメルト表面での同位体交換率は、1480, 1520°Cでどちらも~0.1であり、これはメルト表面に衝突するH2O分子のうち約10%が同位体交換を起こすことを示している。
上記の速度データに基づき、1500°Cにおいて直径1 mmのコンドリュールメルトが周囲のH2Oガスと90%同位体交換をする時間スケール (t0.9)を計算した。H2Oガス供給律速時のt0.9は、加熱時のPH2Oに依存し、例えばPH2O = 1 × 10–7 barでは~343 h、PH2O = 1 × 10–5 bar では~3.4 hであった。一方で、高圧条件ではメルト内部の拡散プロセスが同位体交換速度を律速する可能性がある (e.g., Yamamoto et al., 2021)。Liang et al. (1996) から見積もられる酸素同位体拡散速度を考慮すると、PH2O > ~1 × 10–4 barの高水蒸気圧条件では、t0.9はPH2Oに依存せずメルト内部の酸素同位体拡散律速になり、コンドリュールメルトとH2Oガスとが~15分で90%同位体を交換することになる。炭素質コンドライト隕石に含まれる個々のコンドリュール中の斑晶鉱物は、僅かな溶け残り部分を除いて均質な酸素同位体組成を持つことがを報告されている (e.g., Tenner et al., 2018 and references therein)。もしこの単一コンドリュール中の同位体的均質性が、コンドリュールメルト-円盤ガス間での同位体平衡の達成に起因していた場合、原始太陽系円盤の全圧 ( ~10–5 bar; e.g., Mendybaev et al., 2006; Kamibayashi et al., 2021) 及びコンドリュール酸化還元状態 (IW–2から–1程度; Grossman et al., 2012) から推定されるPH2O ~ (1–3) × 10–6 barを仮定すると、コンドリュールは1500–1600°Cで~11–35 h以上加熱される必要があることが推定される。今後はFeを含む系での同位体交換実験を実施し、コンドリュールメルトの酸素同位体分布の起源の定量的解明を目指す。