日本地球惑星科学連合2015年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-GM 地下圏微生物学

[B-GM22] 地球惑星科学と微生物生態学の接点

2015年5月26日(火) 09:00 〜 10:45 105 (1F)

コンビーナ:*砂村 倫成(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、木庭 啓介(東京農工大学大学院農学研究院)、濱村 奈津子(愛媛大学)、座長:布浦 拓郎(独立行政法人海洋研究開発機構海洋生命理工学研究開発センター)、砂村 倫成(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

10:15 〜 10:30

[BGM22-06] 軽希土類元素と細菌C1代謝:Bradyrhizobium属細菌のメタノールデヒドロゲナーゼ

*南澤 究1関 謙二郎1包 智華1菅原 雅之1篠田 亮1谷 明生2増田 幸子2三井 亮司3 (1.東北大学大学院生命科学研究科、2.岡山大学資源植物科学研究所、3.岡山理科大学理学部生物化学科)

キーワード:希土類元素, 細菌, C1代謝, Bradyrhizobium, メタノール, メタノールデヒドロゲナーゼ

軽希土類元素(La, Ce, Ndなど)はレアアースとも呼ばれ、宇宙存在比はケイ素の100万分の1程度と極めて低いが、土壌も含めた地殻存在度はその数十倍で、数十ppmに達する。Methylobacterium. extorquens AM1のメタノールデヒドロゲナーゼ遺伝子xoxFの産物は、Caによって活性を得るMxaFと異なり、LaやCeのような希土類元素存在下で活性を示すことが報告された (Nakagawa et al. 2012)。Bradyrhizobium属細菌には、マメ科植物の根粒菌だけでなく、非マメ科植物のイネ根などにエンドファイトとして生息している。そこで、本研究では、これらのBradyrhizobium属細菌のC1代謝系に及ぼす希土類元素の影響を検討した。Bradyrhizobium属細菌におけるxoxF, mxaFの有無を確認するために、クサネム根粒菌であるB. oligotrophicum S58, Bradyrhizobium sp. BTAi1, Bradyrhizobium sp. ORS278、イネ根から分離されたBradyrhizobium sp. RP5, Bradyrhizobium sp. RP7, Bradyrhizobium sp. WD16の6株のゲノム情報より、xoxFとmxaF (M. extorquens AM1株由来) の配列を対象としたBLASTNによる遺伝子検索を行った。その結果、対象菌株全てがxoxFを有すること、およびイネ根から分離された3株 (RP5, RP7, WD16) はxoxFとmxaFの両方を有することが予想された。供試菌のメタノール資化能に及ぼす希土類元素の影響を検討した。炭素源を除いた液体のHM培地5 mlにメタノールを0, 0.1, 1, 10% (v/v) の4段階添加し、La添加区 (30 μM) とCe添加区 (30 μM)、非添加区を設けた。6株 (S58, BTAi1, ORS278, RP5, RP7, WD16) を液体HM培地で前培養し、OD660 を24時間毎に測定した。その結果、xoxFのみを有するクサネム根粒菌3株 (S58, BTAi1, ORS278) ではLaもしくはCeを添加し且つメタノール濃度0.1% と 1%の条件で生育が観察された。xoxFとmxaFの両方を有するイネ根分離菌3株 (RP5, RP7, WD16) はLa, Ceの添加の有無に関わらずメタノール濃度0.1と1%の条件で生育が見られた。B. oligotrophicum S58株を対象に、ΔxoxF::Ω (xoxF遺伝子のΩカセット挿入変異) とΔxoxF (xoxF遺伝子のマーカーレス欠損変異) の2種類の変異株を作製し、培養実験を行った。その結果、ΔxoxF::Ω変異株では希土類元素存在下で野生株に比べ生育は低下したが、ΔxoxF変異株では逆に野生株よりも生育が促進された。野生株においてLa添加区メタノール濃度0.1%の系で、濁度の上昇と共に培養液中のメタノール濃度が減少した。一方、ΔxoxF::Ω変異株では野生株に比べメタノール濃度の減少は抑制され、ΔxoxF変異株は野生株と同様のメタノール濃度の減少が見られた。供試したクサネム根粒菌Bradyrhizobium属3株 (S58、BTAi1、ORS278) はmxaFを持たずxoxFを有し、0.1~1%のメタノールを添加したHM培養液においてLa, Ce依存的な生育を示した。一方、イネ根分離Bradyrhizobium属3株 (RP5、RP7、WD16) は、mxaFとxoxFを保有し、La, Ce非依存的な生育を示した。この結果より、xoxFのみを持つクサネム根粒菌3株がメタノール依存的な生育にLa, Ceが必要であることが明らかになった。しかし、S58株の?xoxF::Ω変異株はメタノール依存的な生育能力が低下し、ΔxoxF変異株ではメタノール資化能が失われず、かつLa, Ce依存的に生育の促進が観察された。これらのことから、S58株がxoxFとは異なる新規の希土類元素依存的メタノールデヒドロゲナーゼ遺伝子を保持していることが強く示唆された。またΔxoxF::Ω変異株の生育能力の低下は、Ωカセット挿入によってアルデヒドデヒドロゲナーゼなどのC1代謝系に関わる下流遺伝子の転写が抑制されたことによると考えられた。以上より、植物共生Bradyrhizobium属細菌には広くxoxF遺伝子が存在し、特にクサネム根粒菌は希土類元素依存的なメタノール代謝能を示すこと、および新規の希土類元素依存的メタノール資化に関わる遺伝子の存在が示唆された。本発表では、希土類元素と微生物の関係について生物地球化学視点からも議論したい。