日本畜産学会第125回大会

講演情報

授賞式・受賞者講演

[AK-01_02] 授賞式・受賞者講演

2019年3月28日(木) 16:45 〜 17:00 第XIV会場 (8号館百周年記念ホール)

16:45 〜 16:52

[AK-01] 黒毛和種繁殖雌牛の泌乳能力の改良に関する研究推進と後進の育成

島田 和宏 (農研機構 生物系特定産業技術研究支援センター)

1980年3月北海道大学農学部畜産学科を卒業後,同年4月に農林水産省畜産試験場(現農研機構畜産研究部門)に採用された.同年8月から1996年9月まで中国農業試験場に勤務し,同年10月に現畜産研究部門に異動以後,2017年3月に畜産研究部門を最後に退職するまで,一貫して農林水産省所管の研究機関で試験研究を行うとともに研究の企画,調整,管理および後進の育成に貢献した.この間,主として黒毛和種の泌乳能力と子牛発育の関係,母性遺伝効果,生産効率向上に関する研究を実施し,1990年9月に農学博士の学位を取得した.
学会関連の活動としては日本畜産学会の常務理事(2003~2006年度),監事(2011~2014年度),理事(2015~2016年度)を務め,特に,2004年度に「大会のあり方ワーキンググループ」委員兼事務局として答申を取りまとめ,その提言に沿って「優秀発表賞」及び「若手企画活動支援」を軌道に乗せた.また,2014年3月に開催された第118回大会では,大会副会長を務めるとともに90周年記念シンポジウム「大学・試験研究機関発の畜産物ブランドの確立に向けて」の企画立案,当日運営等を担当した.関連学会では,肉用牛研究会の評議員(2000~2005年度),副会長(2006~2011年度)を務めた.
社会的貢献としては黒毛和種雌牛のBCSに関する研究成果をもとに,全国和牛登録協会の登録審査へのBCS導入に貢献した.これにより黒毛和種の適正な栄養度を評価(過肥は減点)する仕組みが構築され,わが国の肉用牛生産効率向上に寄与した.また,著作した乳牛・肉用牛の養分要求量推定プログラムや飼料設計支援プログラムは,日本飼養標準に付属され,畜産農家における日常の飼養管理に生かされた.さらに,多年にわたり公立試験場の外部評価委員を務めるなど地域の畜産研究の推進に貢献した.
後進者の指導育成としては現畜産研究部門において,研究室長,研究領域長,企画管理部長,部門長として後進の研究者の指導,育成およびその研究環境の整備に尽力した.また,研修生の指導や公設試験研究機関との共同研究等を通じて,都道府県および民間の家畜育種繁殖関係から畜産環境関係まで幅広い分野の人材育成と研究成果の普及に努めるとともに,中央畜産技術研修(農林水産省生産局畜産部)において公設試験研究機関の若手研究者に家畜繁殖・飼養試験の設計と統計分析を教授するなど多数の畜産関係研究者を育成した.現在は農研機構生研支援センターにおいてプロジェクト研究の進行管理等を行っている.
 主な研究業績を概説すると以下の通りである.
① 黒毛和種繁殖雌牛の産乳・哺育に関する研究
わが国の主要肉用品種である黒毛和種の乳量は分娩直後からほぼ直線的に減少し,そのため,子牛の1日増体量は出生後1ヵ月前後で最低になる.一方で,乳量の個体間差は大きく,一部に優れた母牛系統が存在することを明らかにした.子牛の発育改善には分娩後2ヵ月までの乳量の改良に重点をおく必要があるものの,乳量の測定には多大な労力を要するため,子牛の生後2ヵ月までの1日増体量は母牛の乳量と非常に相関が高く,優れた乳量の指標となることを明らかにした.さらに,体重差法による乳量測定値の反復性は非常に高く,乳量の遺伝率は0.60と高いことを明らかにした.乳量と吸乳行動,母牛の繁殖性の関係では,母牛の乳量が増加すると子牛の吸乳回数が減少し,母牛の子宮修復を抑制することなどを明らかにした.
② 黒毛和種の子牛の発育に対する母性遺伝効果に関する研究
子牛の体重に対する母性遺伝効果の遺伝率が大きいことを明らかにした.体重以外では体長,胸囲,寛幅の母性遺伝効果の遺伝率が比較的大きかった.ただし,母性遺伝効果の遺伝率の大きい時期は部位により異なった.子牛の体重に対する母性遺伝効果の育種価と泌乳能力の関係を検討したところ,6ヵ月齢体重でも有意な関係が認められ,離乳時体重から個体の泌乳能力が推定できる可能性を示唆した.また,島根県内の子牛市場出荷時体重の母性遺伝効果の遺伝率は0.06と低いものの,種雄牛について推定された母性遺伝効果の育種価は泌乳能力の改良に利用できる可能性を示唆した.さらに,島根県の牛群においては子牛市場出荷時体重と枝肉重量の母性遺伝効果の育種価間に相関があることを明らかにした.
③ 乳牛,肉用牛の飼料給与適性化による環境負荷低減に関する研究
家畜生産における環境負荷物質排出量を低減するためには,家畜に必要以上の飼料を与えないよう生産農家において養分要求量を把握する必要がある.そこで肉用牛を例として過去の肥育牛の成長曲線をデータベース化し,それを参照して肥育素牛の成長を予測し,養分要求量を計算するソフトウエアを開発した.また,算出した養分要求量に対して可能な限り充足率を100%に近い飼料配合設計を支援するソフトウエアを開発し,関連ソフトウエアを日本飼養標準添付CD-ROM用として提供した.