日本畜産学会第125回大会

講演情報

授賞式・受賞者講演

[AS-01_04] 授賞式・受賞者講演

2019年3月28日(木) 17:00 〜 17:15 第XIV会場 (8号館百周年記念ホール)

[AS-01] 黒毛和種の枝肉形質を対象としたゲノミック予測に関する研究

小川 伸一郎 (東北大学大学院 農学研究科)

近年,ゲノムの全域にわたる一塩基多型(SNP)のジェノタイプを同時判定するSNPチップが開発され,大量のSNPマーカーを用いた個体の育種価予測,すなわちゲノミック予測(GP)が可能となった.GPの導入により,予測精度の高いゲノム育種価の情報が若い種畜候補に対して利用可能になると期待される.本研究では,黒毛和種集団における低密度のSNPチップによるジェノタイプ情報の補完の精度と有効性,ならびに代表的な枝肉形質である枝肉重量や脂肪交雑を対象としたGPの実用化の可能性について検討した.
黒毛和種集団の遺伝的変異量の推定における市販チップによる高密度SNPのジェノタイプ情報の有用性を明らかにするため,去勢肥育牛を対象に,イルミナ社ウシ50Kチップによってジェノタイプ情報が得られた約4万箇所のSNPを用いて作成したゲノム関係行列により分析を行った.その結果,この種の大量のSNPマーカーによって当該形質における相加的遺伝分散の大半が説明され得ることが明らかとなった.
SNPのタイピングコストを抑制するための手段としてのジェノタイプ補完の有効性を評価するため,等間隔配置の低密度なSNPの情報から,ジェノタイプ補完の性能について検討した.その結果,黒毛和種においては,低密度SNPの情報によるジェノタイプ補完の精度が実用的な水準にあり,全てのSNPについて真のジェノタイプ情報を用いた場合と同程度の分散成分の推定が可能であった.
血統情報に基づく従来の最良線形不偏予測法による予測育種価をもつ個体群を対象に,最大で約60万のイルミナ社ウシHDチップでジェノタイプ情報が得られるSNPマーカーを用いたGPを行い,その精度を評価したところ,特に枝肉重量について,予備選抜におけるGPの導入が有用であると判断された.また,SNPの等間隔選択によるマーカーの低密度化について検討した結果,コスト効率の向上を図るうえでのSNPの選択的利用の可能性が認められた.
以上の一連の研究は,わが国の主要な肉用牛品種である黒毛和種を対象としたSNPマーカーによるGPの実施を見据えた先駆的なものであり,極めて重要な基盤的知見を与えたものである.