日本畜産学会第125回大会

講演情報

授賞式・受賞者講演

[AS-01_04] 授賞式・受賞者講演

2019年3月28日(木) 17:00 〜 17:15 第XIV会場 (8号館百周年記念ホール)

[AS-03] 食肉の官能特性,特に味の評価と制御に関する研究

渡邊 源哉 (国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門)

近年,科学的エビデンスに基づいた食肉の差別化が国内外で多く試みられている.食肉の嗜好性は,味,香り,食感など感覚要素や外観など様々な因子が寄与して形成される.遊離グルタミン酸(Glu)は鶏肉の主要な呈味成分であり「うま味」を増強する.そこでまず,「味」による食肉の新たな差別化技術の開発を目的として,栄養制御による鶏肉中のGlu量の改善を試みた.
Gluの代謝的制御の可能性を有する栄養成分としてリジン(Lys)に注目した.Lysは穀物主体飼料により肥育される畜産動物にとって,第一もしくは第二制限アミノ酸であるため,Lys塩酸塩および硫酸塩の飼料添加が認可されている.よって,Lys給与量の調節は技術面,法令面の双方から容易であり,活用しやすい技術となりうる.
まず,Lys含量をNRC飼養標準の定める要求量に対して150%とした飼料と90%とした飼料を10日間給与する試験をそれぞれ行い, Lysを要求量の100%とした飼料を給与した場合に対してLys150%区とLys90%区の筋肉中の遊離Glu量がどちらも有意に増加することを明らかとした.続いて,Glu量の増加メカニズムを解析し,Lys150%区においてはメタボローム解析により,Lys多給によって筋肉に蓄積した遊離Lysが分解され,その生成物としてGluが合成されることが,筋肉中の遊離Glu量の増加メカニズムであると考えられた.Lys90%区においてGluが増加したメカニズムは解析中である.さらに,分析型官能評価において,Lys90%区の肉スープの「うま味」,「コク」および「味強度」がLys100%区に対して有意に強いことを明らかにした.
また,鶏肉の味以外の品質評価にも取り組んできた.豚肉において保水性は消費者の嗜好性や購入意欲に直結する重要な品質特性である.そこで,国産豚肉において保水性と様々な品質特性との関係を解析した結果pHが最も強くドリップロスに影響し,筋肉内脂肪含量の影響は小さいことを明らかにした.
さらに,複数の感覚要素の相対的な重要度を経時的に評価できる官能評価手法であるTemporal Dominance of Sensations法を用いて,和牛肉の官能特性に重要性の高い感覚要素を明らかにした.
これら一連の研究により得られた食肉の品質,特に味の評価,制御およびメカニズムに関する研究成果を基盤に,今後,食肉の高品質化技術としての実用化や新たな差別化指標の確立に向けて取り組んでいく.