日本畜産学会第125回大会

講演情報

授賞式・受賞者講演

[AS-01_04] 授賞式・受賞者講演

2019年3月28日(木) 17:00 〜 17:15 第XIV会場 (8号館百周年記念ホール)

[AS-04] 粗飼料中フィトールの反芻家畜生産への利用に関する研究

呂 仁龍 (中国熱帯農業科学院 熱帯作物品質資源研究所)

植物中クロロフィルのフィチル基(フィトール部分)からルーメン内微生物の作用によって生じるフィタン酸は,脂質代謝に対する調節作用を有することが知られている.そのため,乳・肉中のフィタン酸含量を高めることで,人に健康をもたらす高付加価値の畜産物を得られる可能性がある.しかし,飼料中や反芻家畜体内でのフィトールおよびフィタン酸の動向については明らかにされていない.本研究は,牧草中フィトール含量,反芻胃内でのフィタン酸生成程度,牛乳へのフィタン酸の移行程度などの変動要因について明らかにすることを目的とした.
まず,粗飼料中フィトール含量の変動要因を明らかにするために,イタリアンライグラスの施肥条件と生育期が生草およびサイレージのクロロフィル関連物質およびフィトール含量に及ぼす影響について検討した.窒素施肥を高めたり,早期の刈取りをすることによって生草やサイレージ中のクロロフィル関連物質とフィトール含量が増加した.サイレージ調製によって,クロロフィル含量は低下したが,フィトール含量は変化しないことが明らかとなった.サイレージ中では遊離フィトールの存在量がわずかであったことから,サイレージ中のフィトールは再エステル化して存在するとみられた.また,乳酸菌添加によってサイレージpHを低くしても,フィトール含量は変化しなかった.
次いで,インビトロの反芻胃内発酵試験によって,反芻胃内におけるフィタン酸の生成に及ぼす飼料の影響を検討した.施肥条件や生育時期の異なる生草やサイレージを反芻胃液とともに培養した場合,フィタン酸生成率は低いものの,飼料中のフィトール含量に比例してフィタン酸生成量が増加することが明らかとなった.
さらに,飼料中フィトール含量の違いが乳中のフィタン酸含量に及ぼす影響を検討した.乳牛に対して,フィトール含量の高いイタリアンライグラスサイレージ主体飼料を給与した方が,トウモロコシサイレージ主体飼料を給与した場合に比べて,乳中フィタン酸含量が高くなることを明らかにした.
以上のことから,牧草中のフィトール含量は栽培方法や生育時期によって変動すること,サイレージ調製に伴うフィトール含量の変化は小さいこと,飼料中のフィトール含量に応じて反芻胃内でのフィタン酸生成量や乳中のフィタン酸含量が変化することが示された.