11:45 〜 12:15
[LS1-01] NGSが切り拓く昆虫研究のフロンティア
地球上で最も多様性に富む生物群とも言われる昆虫の研究分野もこれら技術革新の恩恵を大いに享受し,新しい昆虫科学が始まりつつある.NGSで得られた情報をもとにそれぞれの昆虫特有の興味深い形態や生理などの進化を遺伝子・ゲノムレベルで明らかにする研究は,多くの昆虫種でますます盛り上がりを見せている.私は基礎生物学研究所の共同利用研究を通して,多様な昆虫のゲノムプロジェクトを展開してきた.その中から,本講演の後半では,ホタルとアブラムシを取り上げる.われわれは生物発光の進化を明らかにするため,ヘイケボタル Aquatica lateralis のゲノムを解読した.ホタルの発光については,ルシフェラーゼ酵素がルシフェリンを基質として,酸素とATPを使って光を発生することがすでに明らかにされているが,ゲノム解析により,ルシフェラーゼ遺伝子の起源は,光らない生物でも普遍的に持っているアシルCoA合成酵素と呼ばれる脂肪酸代謝酵素の遺伝子であること,この遺伝子が何度も重複を繰り返しそのひとつが発光活性を持つルシフェラーゼに進化したことが明らかになった.微生物との緊密な相互作用も多くの昆虫の特徴である.例えば,アブラムシはバクテリオサイトと呼ばれる特別な細胞の内部に,細菌ブフネラを共生させ,両者はお互い相手なしでは生存が不可能なほどの絶対的な相互依存関係にある.われわれは,エンドウヒゲナガアブラムシ Acyrthosiphon pisum とその共生バクテリア Buchnera aphidicolaの両方のゲノムを解読した.その結果,アミノ酸等栄養の生合成に関わる遺伝子セットが宿主昆虫と共生細菌の間で相補的な関係になっており,栄養のギブアンドテイクの相利共生がゲノムレベルで規定されていることを明らかにした.また,宿主昆虫は共生細菌を制御する新規遺伝子も進化させていることも見いだした.