日本畜産学会第125回大会

講演情報

シンポジウム

[S1-01_05] 日本畜産学会主催・公開シンポジウム(日本学術会議食料科学委員会畜産学分科会・日本畜産学アカデミー共催)「スマート畜産:IoT・人工知能およびロボット技術の利活用」

2019年3月28日(木) 13:00 〜 16:30 第XIV会場 (8号館百周年記念ホール)

座長:小澤 壯行(日獣生科大)

(公社)日本畜産学会 主催 
公開シンポジウム
「スマート畜産: IoT・人工知能およびロボット技術の利活用」

日  時:2019年3月28日(木)13:00~16:30
場  所:第XIV会場 8号館7階百周年記念ホール 
主  催:公益社団法人 日本畜産学会
共  催:日本学術会議食料科学委員会畜産学分科会・日本畜産学アカデミー
参 加 費:無料

開催趣旨:
本公開シンポジウムでは,「スマート畜産:IoT・人工知能およびロボット技術の利活用」を主題として,研究者および生産者からの事例報告を中心に,昨今注目を浴びている新たな畜産物生産システムを俯瞰する.とりわけAI・IoT技術の援用による畜産管理システムの現状を踏まえたうえで,これを有効利用している畜産経営主から生産現場の声をくみ上げることにより,指導者や生産者への各種技術の改善に寄与することが期待できる.一方,本公開シンポジウムが企図している「スマート畜産」による生産システムは,畜産物価格のコスト上昇につながることが懸念されている.当該増加コスト分は販売価格に上乗せ転嫁されることになるため,消費者の理解醸成が必須である.そこで(公社)日本畜産学会および日本学術会議が有する公益性を踏まえ,本公開シンポジウムでは一般市民も対象として,本邦畜産の広報活動を促進することにより,畜産に対する関心と理解を深めることを目指す.

プログラム:
司会進行 柏崎直巳(日本学術会議連携会員・麻布大学教授)
13:00~13:05 
開会の挨拶 寺田文典 ((公社)日本畜産学会理事長,東北大学 教授)
 13:05~ 基調講演
座長 小澤壯行(日本学術会議連携会員,日本獣医生命科学大学 教授)
13:05~13:40
S1-01 「畜産ビックデータの処理・活用による新しい畜産生産管理システムの展望」
大和田勇人(東京理科大学 教授)
13:40~14:15
S1-02 「放牧型畜産への利活用:IT技術を活用した高度放牧管理システム」
後藤貴文(鹿児島大学 教授)
14:15~14:50
S1-03 「ロボット搾乳・ハードナビゲータシステム導入による生産性の向上」
松下 寛(株式会社松下牧場 代表取締役)
14:50~15:25
S1-04 「日本型豚舎洗浄ロボットの開発」
松野更和(農研機構 農業技術革新工学研究センター)
15:25~16:00
S1-05 「MIJ-カメラを活用した牛肉質自動解析システムの開発」
    口田圭吾(帯広畜産大学 教授)
16:00~16:25 
総合討論
座長 眞鍋 昇(日本学術会議第二部会員,大阪国際大学学長補佐 教授)
16:25~16:30 
閉会の挨拶 渡邉誠喜(日本畜産学アカデミー会長)

なお,本公開シンポジウムは伊藤記念財団の助成を受けております.

[S1-01] 畜産ビックデータの処理・活用による新しい畜産生産管理システムの展望

大和田 勇人 (東京理科大学)

1.はじめに
軽労化と生産性向上を目指して,ロボットやAIを導入することが至る所で注目されている.そうした中,様々なセンサーを導入して畜種の活動や環境を把握することはスマート畜産におけるデジタル化の第一歩であるが,これにロボットを組み合わせるとアクティブなセンシングが可能となり,データ収集が加速され,ビッグデータが構築される.さらに,それをAIで解析して,効率的な繁殖管理や早期疾病予測が実現できれば,畜産経営に役立つことが期待される.ここで重要なポイントは,人間の代行としてAIが畜種を常時監視し,ビッグデータを活用することで指導者と同等以上のアドバイスを提示し,本格的なスマート畜産が実現できるかにある.ここでは,工学的な視点からAIの現状とスマート畜産への貢献を展望する.

2.カメラによる個体識別と行動監視
加速度センサー等を用いた行動推定,繁殖管理,早期疾病予測は最近のITの進歩により,畜産でも広く運用されている.しかしながら,そこから得られる情報は基本的には時系列データであり,ある種のアルゴリズムによって,理解可能な形式で情報提供される.たとえば,乳牛の反芻行動は加速度センサーや音センサーから得られる時系列データで識別可能であり,酪農家が乳牛を直接監視しなくてもITシステムがそうした行動を特定してくれる.しかしながら,現状のITが通知してくれる情報をそのまま信用するのは難しく,カメラからの画像を通じて納得してもらう必要があろう.センサーデータの変換による情報とカメラ情報との一致が現場に携わる人には重要なことになる.
現在,ディープラーニングが機械学習の大本命として注目されており,カメラ画像による畜種の個体識別や行動監視は昨今の自動運転技術を鑑みれば十分実現可能なものと言える.たとえば,乳牛の紋様は個体識別に有効であることは想像に難くなく,また個体ごとのトラッキングもオープンソースの画像処理ライブラリで十分実現可能である.ただし,機械学習では画像に中のどの部分が当該の個体であるかを教える必要があるため,センサーによる個体識別と連動させることが必要である.我々はARマーカー(ARは拡張現実のこと)と呼ばれる2次元バーコード風の画像をネックバンドに取り付け,カメラによる個体識別を行いながら,乳牛の行動を追跡するシステムを開発している.通常のセンサーと違い,カメラ画像は複数の乳牛の行動を同時に捉えることができる点に特徴があり,それらの社会的行動を監視することが可能となる.さらに,乳牛の特異的な行動だけに着目すれば,動画のダイジェスト版を自動で作成することも可能で,遡行的な監視を効率化することも可能である.こうした機能は畜種経営主にとっても有用なものと言える.

3.AIによるアドバイス提示
 スマート畜産ではデータに基づく合理的な判断が要求されるが,何が合理的かはどのような結果を良しとするかによる.それは繁殖成績や畜産経営的な側面で判断されるものであろう.AIはそうした判断基準の良し悪しを教師データとして,良い結果となる根拠を過去の事例から提示できるものでなければならない.そういう点で見ると,ディープラーニングは適切とは言えず,説明可能な判断基準,すなわち明示的なルールで示される学習モデルが必須である.我々は,帰納論理プログラミングと呼ばれる機械学習アルゴリズムで乳牛において人工授精が成功(受胎)する条件をルール化することを試み,そのルールを提示することで酪農家への意思決定を支援するシステムを開発している.酪農家や獣医師の見立てをデジタル化することは難しいが,搾乳ロボットや生乳分析器から得られる情報,さらには画像や加速度センサーから得られる情報に基づいて,どのような状況下であれば受胎の可能性が高まるか否かを明示的なルールで通知することが可能である.AIによる支援が酪農家にどの程度受け入れられるかは今後の研究課題であるが,センサーデータと過去の事例から適切なアドバイスを提供することは畜産経営主のカンを上回る妥当は判断材料になるものと期待している.

略歴:1983年東京理科大学理工学部経営工学科卒業,1988年東京理科大学大学院理工学研究科経営工学専攻博士後期課程修了.工学博士(1988年取得).1988年東京理科大学理工学部経営工学科助手,その後同大学専任講師,助教授を経て,2005年同大学教授.現在に至る.