[S3-01] 牛白血病の防疫対策
BLVの伝播様式は不明な点が多いが,垂直,水平の両伝播様式が考えられる.卵や精子がBLVに感染しているという報告はなく,精液を介しての垂直伝播や感染牛から得た受精卵を介してのBLV伝播は,感染白血球の混入がない限り考えられない.また,BLV感染牛から得た卵を用いた体外受精胚移植は,借り腹牛がBLV陰性であれば必ずBLV陰性牛が誕生すると報告されている.従って,遺伝的に優良なBLV感染牛は,BLV陰性牛を仮腹牛に使用して受精卵移植で子孫を残し,BLV感染牛から生まれた仔牛はすみやかに親から離し,凍結した陽性牛の初乳を与え,通常乳は陰性牛のものを与えて飼育することが推奨される.
以前は,輸血や,直腸検査,除角,汚染注射針の使用や,小型ピロプラズムの発病防御のための輸血が本疾病の伝播要因となったことは否定できないが,家畜衛生教育の徹底によりこの様な人為的感染はなくなっている.従って現時点におけるBLVの主な水平感染は,アブなどの吸血昆虫による機械的伝播と考えられる.牛白血病のワクチンは開発されていないため,BLV感染の機会をなくしていくことで本疾病の防除をしなくてはならない.フリーストールによる飼育の普及が白血病発症牛の増加に関連していることより,この飼育形態がBLVの水平感染を拡大したことは明らかだと思うが,飼育の効率化や経済性を考えると中止することはできない.BLVはリンパ球中に遺伝子の状態で存続するため,感染初期の短期間は通常の伝染病と同様な水平感染が起こる可能性があるが,抗体上昇後の感染は感染リンパ球の伝播による.つまり感染が成立するのは血液が乾燥する前のリンパ球が生存している間だけであり,節足動物内で増殖するアルボウイルスと比較して伝播力は弱い.従って水平感染を防ぐには,定期的に全頭の血液検査を実行してBLV感染牛を検出し,特に末梢血白血球中にBLV感染リンパ球を高率に保有する牛を摘発する必要がある.この種の感染牛の検出には遺伝子量を定量できるReal time PCRが使用できる.感染源となりやすい牛は優先的に淘汰するとともに,陽性牛が少ない農場は淘汰を,多い場合は陰性牛と分離し,両者が接触する機会をなくし,感染牛の増加を防ぐ方策を実施する.そして「新生仔牛をBLV感染牛にしない」という方針で,世代交代により徐々に清浄化を進めて行く方法が現実的である.BLVの水平感染は未知の様式が存在すると思われ,現時点では水平感染を完全に制御する対策はない.しかし現在わかっていることを最大限に活用することで,BLVの汚染拡大は制御できると思う.