[S3-02] Reverse vaccinology手法を用いた新規牛白血病ワクチンの開発
EBLは,牛白血病ウイルス(BLV)により誘発されるウシの悪性Bリンパ腫である.EBLには有効な治療法はなく,一度発症すると必ず死の転帰をとることから畜産界に与える打撃は深刻である.さらに,BLV感染により乳房炎発症率の上昇,乳量・産肉および繁殖能力の著しい低下,空胎期間の延長,長命性の減少といった深刻な経済被害がもたらされていることが明らかとなった.平成21~23年度に行われた全国調査によると,抗体陽性率は6ヶ月齢以上の乳用牛で40.9%,肉用繁殖牛で28.7%に達し,BLVの感染および発症率は全国的に上昇の一途をたどっており被害は拡大する一方である.しかしながら,牛白血病の清浄化対策として最も有効な方法である,感染牛の“摘発・淘汰”を,我が国で実施した場合,費用が膨大になるだけでなく経済的損失は極めて大きい.そこで,ワクチンによる感染予防や発症抑制等が強く望まれており,これまでに不活化ワクチン,サブユニットワクチン,組換えワクシニアウイルスワクチン,ペプチドワクチン,DNAワクチン,弱毒化ワクチンなど様々な観点から牛白血病ワクチンの作製が試みられてきたが,個体差が問題となり,未だ実用化されていない.
そこで,我々は牛白血病の疾患感受性の個体差が生じる原因遺伝子を長年解析してきた結果,主要組織適合遺伝子(MHC)クラスIIのアリルが強く病態進行と相関する事を突き止め,BLV体内ウイルス量を上昇させ,白血病発症を促進する「感受性アリル」と,逆の効果を持つ「抵抗性アリル」を見出した.これらのMHCクラスIIアリルがコードしているMHCクラスII分子は,プロセシングされた外来抗原由来ペプチドをペプチド収容溝に結合し,CD4陽性T細胞に提示することで液性免疫や細胞性免疫を惹起する機能を有している,免疫誘導のトリガーとなる分子である.このクラスII分子のペプチド収容溝は極めて高い多型性を有しており,個体によって結合しやすいペプチドの種類や結合親和力が異なる事が免疫応答の個体差を誘発している.
我々はこの,特定のMHCクラスII分子を有するBLV感受性個体に最適なワクチン抗原を設計することで,最も牛白血病感染の被害を強く被る感受性牛に効果のあるワクチンを開発するために,in silicoモデリング技術やナノ粒子による,ドラッグデリバリーシステムなどを駆使した新世代のワクチン開発に挑戦し,感受性牛の体内ウイルス量の上昇が抑制効果および病態進行抑制効果を有するペプチドワクチンの開発に成功した.さらに,国際的視野を取り入れた,DIVAシステムによる感染牛とワクチン牛を識別する戦略,より強力な免疫誘導が期待されるウイルス様粒子(VLP)ワクチンの開発に着手し,牛白血病の世界初のワクチン開発に向けて日々挑戦を続けている.