日本畜産学会第129回大会

講演情報

メインシンポジウム

「畜産学のレジリエンスと進化」
Resilience and Evolution of Animal Science (REAS)

2021年9月14日(火) 14:30 〜 18:00 メインシンポジウム (オンライン)

座長:米山 裕(東北大学・大学院農学研究科)、北澤 春樹(東北大院農)、深澤 充(東北大院農)、原 健士朗(東北大学・大学院農学研究科)、加藤 健太郎(東北大学大学院農学研究科)、盧 尚建(東北大学・大学院農学研究科)

14:30 〜 15:00

[MS-01] 【大会長特別提言】
健全畜産シナジー強化の創出

*北澤 春樹1,2 (1. 東北大院農、2. CFAI)

近年畜産領域におけるグローバル化とAIやゲノム編集の技術革新により、畜産業の進化が進みつつある。一方で、ヒトにおけるSARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)等の新興感染症と同様に、畜産動物においても常在感染症と共にその予防対策は世界的課題となっている。人類が生存するために必要な動物性食品の供給を支える畜産業の将来は、その基礎となる畜産学のさらなる発展にかかっている。そのためには、多様な畜産研究領域の融合から「しなやかな強さ(レリジエンス)」を持った畜産学の進化が必要不可欠である。本シンポジウム「畜産学のレジリエンスと進化」では、畜産業の展望に関する基調講演と畜産学の将来を担う若手研究者による融合研究紹介により、畜産学の将来について考えたい。  家畜の中で豚を例に考えると、豚流行性下痢(Porcine Epidemic Diarrhea)や豚熱(Classical swine fever, 豚コレラから名称変更)の発生は記憶に新しく、さらにアフリカ豚熱(African swine fever)の近隣諸国における流行拡大から豚肉の生産性低下と価格高騰が懸念される。それらはまたウイルスを原因とする疾患であり、ロタウイルスなどによる常在疾病も含め、ウイルス感染症の予防は細菌や原虫との複合感染と共に克服すべき重要課題と位置付けられる。これらの対応策として、飼養衛生管理の他、ワクチンや薬剤が使用されるが、それらの開発には労力と時間がかかり、さらに薬剤耐性菌出現による健康危害リスクの激増から、2050年には薬剤耐性菌を死因とする死者数がガンを抜いて第1位となることが予想されている。これらのことから、薬剤のみに頼らない第3のアプローチとなる低コストでかつ幅広い感染症に有効な新たな方策が求められている。  一方、プロバイオティクスの生理機能性研究が動物やヒトにおいて飛躍的に進み、その研究領域は益々拡大し続けている。我々は、宮城大、宮城県、アルゼンチン乳酸菌研究所や企業と共同で、プロバイオティクスの中でも、特に粘膜免疫を介して生体に有益な効果をもたらすイムノバイオティクスに着目し、腸管におけるパターン認識受容体を介する粘膜免疫増強によるウイルス等の病原体に対する免疫防御を基盤とした、家畜における選抜・評価系の構築と機構解明を推進している。また、農研機構と岐阜県の研究グループでは、豚におけるパターン認識受容体の多型に着目し、それらと感染抵抗性との関連性について勢力的に追究し、新たな抗病性育種の基盤構築を目指している。そこで、畜産領域におけるこれら2つの異分野を融合することにより、優れた第3のアプローチが提案可能との発想に至った。本講では、一例として我々の取り組みについて紹介し、畜産学のレリジエンスを生かした融合研究の加速と畜産学のさらなる進化に貢献できれば幸いである。
【謝辞】本講演内容は、農研機構生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」(基礎研究ステージNo.01002A)、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(A) No.19H00965)の支援を受けて推進した成果を含む。

【略歴】 1988年 4月 東北大学農学部助手、准教授、2015年4月 東北大学大学院農学研究科附属 食と農免疫国際教育研究センター 副センター長(兼務)、2019年4月 東北大学大学院農学研究科 教授、2020年4月 東北大学大学院農学研究科附属 食と農免疫国際教育研究センター センター長(兼務)。その間、1994年10月〜1996年4月 日本学術振興会海外特別研究員 [米国国立ガン研究所(NCI/NIH)] 、2006年 9月〜12月 文部科学省海外先進研究実践支援派遣研究員[米国国立ガン研究所(NCI/NIH)]。主な著書としてProbiotics: Immunobiotics and Immunogenics (CRC Press)。これまでに日本畜産学会奨励賞(1994年)、 日本畜産学会賞(2006年)、「世界の発酵乳」論文賞(2008年)、日本食品免疫学会賞(2012年)、森永奉仕会賞(2013年)などを受賞