第67回水工学講演会

【水工学論文集】序文2022

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土木学会 水工学委員会
 
  序  
  
 第67回水工学講演会の開催(令和4年11月23日~25日)ならびに土木学会論文集B1(水工学)、Vol. 78、No. 2(水工学論文集第67巻)の発刊にあたり、ご挨拶申し上げます。新型コロナウイルス感染者数は令和4年8月に過去最大の感染者数を数えましたが、水工学委員会では、これまでの二年間の経験を生かしてハイブリッド形式あるいは対面形式で行事開催を進めて参りました。令和4年度の河川技術に関するシンポジウムでは特定課題のオーガナイズドセッションの討議を対面で実施し、それをオンライン配信するハイブリッド形式としました。水工学に関する夏期研修会では、対面講義を実施するとともに、そのときの録画映像を後日オンデマンド形式で提供する新たな方式を試みました。また、水シンポジウムは感染拡大に注意しながらすべてのプログラムを対面形式で実施し、その模様をオンライン配信しました。8月末以降、感染者数は減少に転じ、感染収束の兆しが見えつつあります。そのため、本水工学講演会も、令和元年に大宮で開催しました第64回水工学講演会以降、3年ぶりに対面形式で開催します。講演会では、昨年より実施しています分野横断型セッションを設定します。二日目の特別講演会では小松利光先生(九州大学名誉教授)に「流域治水とその先〜今考えておかなければいけない事〜」と題してご講演いただく予定です。また、三日目は「水工学の今後10年の研究課題」についてアゲールシンポジウムで議論します。
 
 ここ数年、分野を横断するテーマに多数の論文が投稿されるようになっています。「防災・減災」や「気候変動適応」に関するテーマは分野を横断する数多くの内容を含みます。これらのセッションは水理学や水文学の特定の分野に分類することが難しく、また「流域治水」を具体的に進めるための管理技術や法制度に関するセッションも必要になってきています。水工学講演会はこうした変化に対応して、その姿を変えていかねばなりません。そのために、新たな執行部を発足して以来、水工学講演会をよりよいものにするため、以下の二つのことに留意して準備を進めて参りました。
 
  1. 分野横断型セッションを設定し、同時にパラレルセッションを減らして、異なる分野の研究者および技術者が同時に議論できるようにプログラムを編成すること。
  2. 投稿論文がもっともふさわしい査読分野で査読され、かつ投稿者が希望する適切な論文テーマ(セッションテーマ)で発表できる仕組みを整えること。
 
 一つ目は、河川災害シンポジウムを水工学講演会とは別の機会に実施することによってセッション時間を確保するなどして、昨年の水工学委員会から実現を図りました。二つ目を実現するために、今回から投稿・査読システムを一新しEditorial Managerを利用するシステムに移行しました。その中で投稿方法を変更し、査読を希望する「査読テーマ」と講演会での発表を希望する「論文テーマ」のそれぞれで投稿者がキーワードを選択できるように変更しました。これによって、投稿論文がふさわしい分野で査読がなされた上で、投稿者の希望する分野横断的なセッションで発表できる仕組みを整えました。また、同じ年度内に水工学論文賞および論文奨励賞の審査を終え受賞者に速やかに結果をお伝えするとともに、水工学委員会ホームページに受賞情報を掲載するようにしました。Best International Paper Awardについても今回から水工学論文賞と同じスケジュールで審査を実施します。これらに合わせて投稿要領の改訂や表彰規定の一部変更を実施し、水工学論文集投稿要領と水工学論文集査読要領内規を改正するとともに、「水工学論文集投稿の手引」を廃止しました。これらの大変更を昨年の水工学講演会以降に実施し今回、すぐに適用しましたが、大きな混乱もなく水工学論文集第67巻の発刊に至ることができました。会員の皆様のご理解とご協力に感謝申し上げます。
 
 もうひとつ、水工学委員会で力を入れてきましたのは、「水工学の今後10年の研究課題」に関する議論です。気候変動による降水強度等の変化に対応するため、2021年5月に流域治水関連法が公布、11月に施行され、今後の治水政策の枠組みが大きく転換しました。水工学の分野でも気候変動影響評価に関する研究成果が多数出され、研究領域が拡大しています。新たな課題に加えて従来から未解決となっている課題や今の延長上では解決できないと考えられる問題、水工学以外の分野との連携なしには解決できない課題もあります。科学として何がわかっていて何がわかっていないのか、目標とする現象理解や技術への到達を阻むボトルネックは何か、ボトルネックを解消するために何に着手すべきか、優先的に実施すべきことは何か、すぐには解決できなくても将来の発展性が期待できることは何か、こうしたことを議論することは、水工学の広がりや水工学の進展を相互に理解するために有効であり、若い研究者にこの分野の魅力を示すためにも重要と考えます。次に企画される水理公式集には、未解決の課題に対する水工学の進展を記載し、合わせて流域治水や気候変動影響評価に資する内容を反映させて社会の要請に応えることが水工学委員会の使命と考えます。
 そのため、今後10年間、さらにその先を見据えて水工学が取り組むべき研究課題を議論することが重要と考え、この一年間、以下のように議論を進め、議論した結果を文書として取りまとめる作業を実施してきました。
 
  1. 水工学に関する研究者、技術者の誰もが参加して今後10年の研究課題について議論するため、8月5日と10月7日の二回、オンラインの意見交換会を実施しました。
  2. オンラインの意見交換会に合わせて、水工学の今後10年の研究課題に関する内容をまとめた文書を作成しました。意見交換会やメールなどでいただいたご意見を反映させ、現在の文書は第3次改訂版です。
  3. 研究のボトルネックを見出すためには、グローカル気候変動適応研究推進小委員会で実施されている研究テーマの連関表が有効です。連関表作成と協力して、水工学の未解決問題と解決を阻むボトルネックをあぶり出すことを意図しました。
 
 これらの内容を、水工学講演会三日目に開催予定のアゲールシンポジウムで議論しますので、ぜひ議論に加わっていただきますようお願いします。日本学術会議が公募中の「学術の中長期研究戦略」を、これらの議論を通じて得た内容をもとに水工学委員会として取りまとめ、土木学会から応募する予定です。こうした活動が、2028年頃(2018年版発刊から10年)の発刊を目指して企画が進められると思われる次の水理公式集の出版の参考となるとよいと考えています。
 
 水工学講演会では優秀な研究成果の顕彰と若い研究者を奨励する目的で水工学論文賞と論文奨励賞ならびにBest International Paper Awardを設けています。令和3年の水工学論文集第66巻に掲載された論文の中から水工学論文賞と論文奨励賞、Best International Paper Awardとして、以下の方々に賞が授与されることになりました。
 
【令和3年 水工学論文集 第66巻 水工学論文賞】
題目:全球水循環モデルH08による都市の取排水システムを考慮した流域の水需給の評価
受賞者:松村明子(日本公営)・光橋尚司(国際建設技術協会)・須賀可人(国土交通省)・寺島明央(農林水産省)・金山拓広(建設技術研究所)・小川田大吉(日本公営)・矢野伸二郎(サントリープロダクツ)・花崎直太(国立環境研究所)・沖大幹(東京大学)
 
【令和3年 水工学論文集 第66巻 水工学論文奨励賞】
題目:河川・湖沼を結合した水熱動態モデルによる全球水資源量評価に向けて
受賞者:徳田大輔(東京大学)
共著者:金 炯俊(東京大学)・山崎 大(東京大学)・沖 大幹(東京大学)
 
題目:大量アンサンブルデータを用いた急流河川の侵食危険度の評価
受賞者:川井 翼(室蘭工業大学)
共著者:中津川 誠(室蘭工業大学)・関 洵哉(室蘭工業大学)
 
題目:二重偏波フェーズドアレイ気象レーダの観測特性とその洪水予測への適用に関する研究
受賞者:小島彩織(中央大学)
共著者:干場希乃(中央大学)・清水啓太(北海道大学)・小山直紀(中央大学)・寺井しおり(中央大学)・山田 正(中央大学)
 
題目:U-Netを用いた河川スカム連続検出手法の改良
受賞者:懸樋洸大(大阪大学)
共著者:中谷祐介(大阪大学)
 
【令和3年 水工学論文集 第66巻 Best International Paper Award】
題目:ADVANCES IN THE QUANTITATIVE RISK PREDICTION FOR IMPROVING THE ACCURACY ON THE GUERRILLA HEAVY RAINFALL
受賞者:Hwayeon KIM (Kyoto University)
共著者:Eiichi NAKAKITA (Kyoto University)
 
 また、2022年度河川技術に関するシンポジウムでは、2021年河川技術論文賞が以下の方々に授与されました。
 
【令和3年度 河川技術論文賞】
題目:中小河川を対象とした洪水時におけるリアルタイム水位予測システムの開発に向けた研究
受賞者:柿沼太貴(ICHARM)・沼田慎吾(ICHARM)・望月貴文(ICHARM)・大沼克弘(ICHARM)・伊藤弘之(ICHARM)・安川雅紀(東京大学)・根本利弘(東京大学)・小池俊雄(ICHARM)・池内幸司(東京大学)
 
 受賞された方々にお祝いを申し上げますとともに、今後のご活躍を祈念申し上げます。
 
 本年度の水工学委員会の活動についてご報告申し上げます。2022年度河川技術に関するシンポジウムが2022年6月16日、17日にハイブリッド形式で開催されました。参加者数は649名であり、多くの方々に参加いただきました。東京大学で開催された第57回水工学に関する夏期研修会もハイブリッド開催となりました。対面講義を実施するとともに、そのときの録画映像を後日オンデマンド形式で提供する新たな方式を試みました。対面での参加者数は58名、オンデマンド講義は全国からの参加を容易とし121名の方々が参加されました。運営に尽力された関東地区の皆様に感謝申し上げます。
 水シンポジウムは、7月21日に山形市の山形テルサにて対面形式で実施し、その模様を全国にオンラインで配信しました。また、翌日は、最上川流域を対象とする現地見学会が実施されました。「未来へ引き継ぐ母なる川最上川~地球的視野に立ち流域全体で環境・文化・暮らしを守る~」をメインテーマとして二つの分科会が開催され、会場での参加者数は207名、オンライン参加者数は251名であり、合計458名の方々が参加されました。現地見学会は39名の参加者がありました。最上川は令和元年10月の東日本台風では水位が観測史上1位を記録し、令和2年7月豪雨では山形県の風水害としては過去最大規模の施設被害を受けました。それらに対応するために流域治水の実践が始まっています。活発な議論が行われ、「未来を拓く地域のブランディング」、「人を活かし、水への関心、水がもたらす環境、文化を地域の活性化に生かす」などを総括メッセージとして「水シンポジウム2022 in やまがた」を成功裏に終えることができました。来年は佐賀県での開催となります。
 昨年度開始された水工学オンライン連続講演会も継続して実施し、各部会に企画をお願いして進めてきました。2022年に入って以降、宮村 忠名誉教授(関東学院大学)、小槻峻司教授(千葉大学)、島谷幸宏特別教授(熊本県立大学)、藤田一郎名誉教授(神戸大学)にご講演いただきました。
 
 水工学委員会の活動は極めて多様で活発に運営されています。新型コロナウイルスの感染状況の推移が読めない中で、運営に尽力くださった皆様方に心よりお礼を申し上げます。この度の第67回水工学講演会の開催にあたりましては、愛媛大学の森脇 亮先生をはじめとする実行委員会の皆様方に準備をお進めいただきました。通常とは異なる状況で開催準備を整えてくださったこと、当日の運営でも大変お世話になりますことに心より御礼を申し上げます。新型コロナウイルスの感染拡大に注意しつつ、三年ぶりとなる対面形式での本講演会がこれまでになく活発なものとなりますよう、皆様方のご協力をよろしくお願いいたします。
 
令和4年11月      
土木学会 水工学委員会
委員長 立川康人
 
 
 
水工学委員会(2021年度~2022年度)
 
【顧問】
中川 一                (京大防災研)
寶  馨                (京大防災研)
道奥 康治            (法政大)
中北 英一          (京大防災研)、河川懇談会座長、グローカル小委員会顧問
清水 康行            (北海道大学)
 
【専門委員】17名(定員17名)◎:執行部、◯:幹事、△:オブザーバー
◎立川 康人(京大)        水工学委員長、流域管理と地域計画の連携方策研究委員会座長、COMMON MP技術部会長
◎矢野 真一郎(九州大)               幹事長、グローカル小委員会顧問
◎溝口 敦子(名城大/東北大災害研)          編集幹事長
◯二瓶 泰雄(理科大)    前幹事長、河川懇談会幹事長、インフラ体力診断小委員会幹事
◯鼎 信次郎(東工大)    水文部会部会長、前編集幹事長
田中 規夫(埼玉大)    基礎水理部会部会長、河道管理研究小委員会委員長、IAHR Japan chapter副支部長
◯竹林 洋史(京大防災研)           環境水理部会部会長
泉 典洋(北大)           水理公式集例題集編集小委員会委員長
◯大石 哲(神戸大)        水害対策小委員会委員長
椿 涼太(名古屋大)    河川観測高度化研究小委員会委員長
手計 太一(中央大)    2021年度水工学講演会担当、水理公式集例題集編集小委員会幹事
森脇 亮(愛媛大)       2022年度水工学講演会担当/2021年度夏期研修会担当
◯内田 龍彦(広島大)    土木学会論文集電子化小委員会副委員長
◯風間 聡(東北大)        COMMON MP幹事長/水シンポ2022山形担当/B編集小委員長
田中 賢治(京大)       水シンポ2021担当
山上 路生(京大)
◯佐山 敬洋(京大防災研)
 
【海岸工学委員会との交換委員】1名(定員外)
△山城 賢            (九州大)
 
【地区委員】33名 (定員33名)(◯印:水工学委員会幹事で20名以内)
<北海道 2名>
 山田 朋人 (北大)
◯岩崎 理樹 (北大)水工オンライン小委員会幹事(2021年5月まで)、水工ML担当、2023年度夏期研修会担当
<東北 2名>
 梅田 信(日本大)        水工学ML担当
◯川越 清樹(福島大)    水シンポ2022山形担当 
<関東 15名>
 宮本 仁志(芝浦工大)               出版委員会委員
◯芳村 圭(東大)            水シンポ2021群馬担当
 知花 武佳(東大)
◯小田 僚子(千葉工業大)           2022年度夏期研修会担当
 平林 由希子(芝浦工業大)
 田端 幸輔(中央大)    地盤工学委員会 堤防研究小委員会委員会 委員
 石川 博基(国交省)
◯諏訪 義雄(国総研)    河川部会長
 柿沼 太貴(土木研究所(ICHARM))
 佐藤 隆宏(電中研)
 陰山 健太郎(日本工営)
 荒木 千博(建設技術研究所)
 堀合 孝博(パシフィックコンサルタンツ)
 大澤 範一(東京建設コンサルタント)
 鈴木 良徳(エイト日本技術開発)
 <中部 3名>
◯戸田 祐嗣(名大)        河道管理研究小委員会幹事長、インフラメンテナンス総合委員会・健康診断小委員会幹事、同委員会・知の体系化小委員会委員
 谷口 健司(金沢大)    水工オンライン小委員会委員長
 武田 誠(中部大)        水工オンライン小委員会副委員長
<関西 6名>
◯中山 恵介(神戸大)    グローカル小委員会委員長 
 山口 弘誠(京大防災研)
◯入江 政安(大阪大)    海岸工学委員会交換委員、水工オンライン小委員会委員長(2021年5月まで)、2023年度水工学講演会担当
 市川 温(京都大)        流域管理と地域計画の連携方策研究委員会幹事
◯川池 健司(京大防災研)           IAHR Japan chapter幹事長
 小林 健一郎(神戸大)               沿岸域における気候変動適応策に関する研究会委員、IAHR Technical Committee on Climate change 委員
<中国 2名>
 赤松 良久(山口大)    環境水理部会副部会長
◯三輪 浩(鳥取大)
 <四国 1名>
◯田村 隆雄(徳島大)    2021年度夏季研修会担当/2022年度水工学講演会担当
<西部 2名>
◯杉原 裕司(九州大)
 重枝 未玲(九工大)    HP担当
<オブザーバー 1名>
◯大槻 順朗(山梨大学)               水害対策小委員会幹事長