日本発達心理学会 第26回大会

講演情報

学会賞受賞者による小講演

《講演1》前言語期乳児のネガティブ情動表出に対する母親の調律的応答

2015年3月22日(日) 10:00 〜 11:00 講義室31 (工学部3号館)

講演者:蒲谷慎介 (東京大学大学院, 日本学術振興会)
司会:篠原郁子(国立教育政策研究所)

10:00 〜 11:00

[SP3_1] 《講演1》前言語期乳児のネガティブ情動表出に対する母親の調律的応答

蒲谷慎介1,2 (1. 東京大学大学院, 2. 日本学術振興会)

受賞論文情報
《講演1》蒲谷槙介. (2013). 前言語期乳児のネガティブ情動表出に対する母親の調律的応答: 母親の内的作業モデルおよび乳児の気質との関連. 発達心理学研究, 24(4), 507-517.

【講演1の概要】
赤ちゃんが泣いたりむずかったりしたとき、周囲の大人は思わずそれにつられて悲しい顔をしたり、あるいは共感するように声をかけたりする。このように、赤ちゃんの情動に養育者が合わせるように応じることは調律(attunement)として着目され、子どもの社会情緒的発達において重要な役割を担うと指摘されている。特にアタッチメント理論の枠組みでは、安定型の作業モデルをもつ養育者(以下、母親)は子どものネガティブな情動に対して調律的に応答しやすく、子どもはそのような応答に晒される経験を通じて、情動理解や共感性の発達が促されるということが想定される。しかし、そもそも実際に母親がいかなる調律的応答を行うのかという点については、実証的知見が希薄である。そこで本研究では、前言語期の乳児とその母親を対象とした相互作用場面の観察を実施し、母親が実際にどのような調律的応答を行うのかを検証した。

分析の結果、作業モデルが安定傾向の母親は乳児のネガティブ情動表出に対し「笑顔を伴った心境言及(乳児の泣きやむずかりに対して、自身は笑顔を浮かべたまま「悲しいね」などと語りかける)」を行いやすい一方、不安定傾向の母親は心境言及を行わない、もしくは心境言及を含まない応答(「無表情のままの相槌」、「単に笑顔を浮かべる」)をしやすいことが明らかとなった。

これらの結果からは、安定型の作業モデルを持つ母親が、乳児のネガティブ情動表出に対し、心境言及という形で調律を行うことが示唆される。母親によるこのような「子どもの気持ちに合わせる態度」が、子どもの社会情緒的発達にいかなる影響を及ぼすのか、筆者は縦断研究を通して検証中である。当日は、これまでに得られた新たな分析結果を交えつつ、本テーマについて、今後の展望を議論したい。