12:30 〜 14:30
[SP3_2] 《講演2》日本の親のあいまいな養育態度は子どもにとってどのような意味があるのか?
《講演3》他者の心を読み違えるメカニズム:マインドリーディングにおける手がかり利用に注目して
受賞論文情報
《講演2》風間みどり, 平林秀美, & 唐澤真弓. (2013). 日本の母親のあいまいな養育態度と 4 歳の子どもの他者理解: 日米比較からの検討. 発達心理学研究, 24(2), 126-138.
《講演3》佐藤賢輔, & 実藤和佳子. (2013). 非合理的事象は幼児の誤信念理解を促進するか: 自己の驚きを手がかりとした心的状態の推論. 発達心理学研究, 24(3), 348-357.
講演時間
《講演2》12:30-13:30
《講演3》13:30-14:30
【講演2の概要】
親の養育態度について、これまで多くの日米比較研究が行われてきた(e.g.,東・柏木・Hess, 1981)。そこでは、日本の子育ての特徴として、「気持ち主義」(東,1994)と「言語的はたらきかけが少ないこと」(e.g., Bornstein et al., 1990)があげられてきた。この背後には、言われなくても行動できる子ども、思いやりをもつ子どもに育って欲しいという発達期待があり、子どもの自主的問題解決力を期待する見守る態度(Tobin et al.,2009)を重視する文化的志向があると考えられる。ところが、この見守る態度は、親や保育者の言語的指示が少なく、子どもから見ると養育者の意図がわかりにくい態度でもある。著者等は、こうした日本の養育者の特徴をあいまいな養育態度とした。日本の子どもがそこからどのように学習し、またそれが、日本の子どもの認知、感情、行動を発達させるのかは必ずしも明らかではない。例えば、心の理論の発達が言語的はたらきかけの頻度と正の関連がある(e.g.,Dunn et al, 1991)ことから推察すると、日本の子どもの心の理論の獲得が欧米に比べて遅いこと(e.g.,Wellman et al., 2001)は、あいまいな養育態度が関連している可能性がある。
受賞論文では、あいまいな養育態度と、認知的他者理解(心の理論課題)と感情的他者理解(他者感情理解課題)の2つの課題との関連を検討した。日本では、あいまいな養育態度と子どもの心の理論との間に負の相関、あいまいな養育態度と子どもの他者感情理解との間に負の相関が示されたが、アメリカでは、あいまいな養育態度と子どもの他者理解との間に関連は示されなかった。日本でしばしば用いられるあいまいな養育態度は、4歳の子どもの他者理解との間に関連を示したものの、他者理解の発達を促進し難い可能性が示唆されたのである。しかしこれだけで、なぜ、日本の親があいまいな養育態度を維持し続けてきたかを説明することは難しい。そこで、親のあいまいな養育態度と対人葛藤課題における子どもの生理的ストレス反応との関連について最新のデータも紹介し、あいまいな養育態度の意味を総合的に討論する。
【講演3の概要】
誤信念課題における自己中心的なエラーに代表されるように、子どもはマインドリーディングにおいて、自己の心的状態を、それを共有しない他者にまで帰属してしまいがちである。この現象は、他者の心的状態を表象する概念の未獲得や、実行機能の未発達と結び付けられて議論されてきた。しかし、近年の研究では、定型発達の大人も子どもと類似の心の読み違えをすることが明らかになってきている。子どもと大人の心の読み違えのメカニズム、その共通性や差異を解明するためには、従来とは異なる観点からの検証が必要である。本講演では、社会心理学における社会的推論のバイアスに関する知見などを足がかりに、マインドリーディングにおける手がかり利用という新たな観点から行った一連の実験を紹介する。
先行研究から、マインドリーディングにおける推論過程では、自他の視点の差異を示す手がかりとなりうる文脈情報を十分に吟味しないまま、他者のメンタルモデルが素早く構築され、それが推論の係留点として機能することが示唆されている。このデフォルトのメンタルモデルが、より精緻な手がかりの分析によって調整されるというプロセスを仮定し、心の読み違えの生起と推論における手がかり利用との関連について、幼児と大人を対象とした実験によって検証した。
大人(大学生)を対象とした実験では、複数の利用な可能な手がかりが存在するマインドリーディングの状況を設定し、それら手がかりの利用と心の読み違えの関連について検討した。結果、心の読み違えは、手がかりの精緻な分析に先行して生起していることが示唆された。幼児を対象とした実験では、標準的な誤信念課題をベース課題として、推論手がかりの追加がパフォーマンスに与える影響について検討した。結果、いくつかの手がかりが幼児の心の読み違えを抑制することが示唆された。これらの結果に基づき、他者の心を読み、時に読み違えるマインドリーディングのメカニズムとその発達について考察したい。
親の養育態度について、これまで多くの日米比較研究が行われてきた(e.g.,東・柏木・Hess, 1981)。そこでは、日本の子育ての特徴として、「気持ち主義」(東,1994)と「言語的はたらきかけが少ないこと」(e.g., Bornstein et al., 1990)があげられてきた。この背後には、言われなくても行動できる子ども、思いやりをもつ子どもに育って欲しいという発達期待があり、子どもの自主的問題解決力を期待する見守る態度(Tobin et al.,2009)を重視する文化的志向があると考えられる。ところが、この見守る態度は、親や保育者の言語的指示が少なく、子どもから見ると養育者の意図がわかりにくい態度でもある。著者等は、こうした日本の養育者の特徴をあいまいな養育態度とした。日本の子どもがそこからどのように学習し、またそれが、日本の子どもの認知、感情、行動を発達させるのかは必ずしも明らかではない。例えば、心の理論の発達が言語的はたらきかけの頻度と正の関連がある(e.g.,Dunn et al, 1991)ことから推察すると、日本の子どもの心の理論の獲得が欧米に比べて遅いこと(e.g.,Wellman et al., 2001)は、あいまいな養育態度が関連している可能性がある。
受賞論文では、あいまいな養育態度と、認知的他者理解(心の理論課題)と感情的他者理解(他者感情理解課題)の2つの課題との関連を検討した。日本では、あいまいな養育態度と子どもの心の理論との間に負の相関、あいまいな養育態度と子どもの他者感情理解との間に負の相関が示されたが、アメリカでは、あいまいな養育態度と子どもの他者理解との間に関連は示されなかった。日本でしばしば用いられるあいまいな養育態度は、4歳の子どもの他者理解との間に関連を示したものの、他者理解の発達を促進し難い可能性が示唆されたのである。しかしこれだけで、なぜ、日本の親があいまいな養育態度を維持し続けてきたかを説明することは難しい。そこで、親のあいまいな養育態度と対人葛藤課題における子どもの生理的ストレス反応との関連について最新のデータも紹介し、あいまいな養育態度の意味を総合的に討論する。
【講演3の概要】
誤信念課題における自己中心的なエラーに代表されるように、子どもはマインドリーディングにおいて、自己の心的状態を、それを共有しない他者にまで帰属してしまいがちである。この現象は、他者の心的状態を表象する概念の未獲得や、実行機能の未発達と結び付けられて議論されてきた。しかし、近年の研究では、定型発達の大人も子どもと類似の心の読み違えをすることが明らかになってきている。子どもと大人の心の読み違えのメカニズム、その共通性や差異を解明するためには、従来とは異なる観点からの検証が必要である。本講演では、社会心理学における社会的推論のバイアスに関する知見などを足がかりに、マインドリーディングにおける手がかり利用という新たな観点から行った一連の実験を紹介する。
先行研究から、マインドリーディングにおける推論過程では、自他の視点の差異を示す手がかりとなりうる文脈情報を十分に吟味しないまま、他者のメンタルモデルが素早く構築され、それが推論の係留点として機能することが示唆されている。このデフォルトのメンタルモデルが、より精緻な手がかりの分析によって調整されるというプロセスを仮定し、心の読み違えの生起と推論における手がかり利用との関連について、幼児と大人を対象とした実験によって検証した。
大人(大学生)を対象とした実験では、複数の利用な可能な手がかりが存在するマインドリーディングの状況を設定し、それら手がかりの利用と心の読み違えの関連について検討した。結果、心の読み違えは、手がかりの精緻な分析に先行して生起していることが示唆された。幼児を対象とした実験では、標準的な誤信念課題をベース課題として、推論手がかりの追加がパフォーマンスに与える影響について検討した。結果、いくつかの手がかりが幼児の心の読み違えを抑制することが示唆された。これらの結果に基づき、他者の心を読み、時に読み違えるマインドリーディングのメカニズムとその発達について考察したい。