15:00 〜 15:30
[SA1-02] 新規塩味受容分子TMC4の同定と塩味増強剤開発への応用
キーワード:塩味、クロライドチャネル、TMC4、アミロライド非感受性
【講演者の紹介】
成川 真隆(なるかわ まさたか):京都女子大学家政学部・准教授
略歴:京都大学大学院農学研究科博士課程修了.博士(農学).静岡県立大学食品栄養科学部・助教,German Institute of Human Nutrition・ポスドクを経て,東京大学大学院農学生命科学研究科・特任助教,同助教.2020年より京都女子大学家政学部・准教授,現在に至る.主な受賞歴:日本農芸化学会奨励賞(2017年),日本食品科学工学会奨励賞(2020年),日本味と匂学会研究奨励賞(2023年)
塩味は基本味の一つで,代表的な塩味物質は食塩(NaCl)である.塩味は食物中に含まれるミネラルの存在を示すシグナルであると考えられている.ミネラルは骨や歯の形成,細胞の浸透圧の維持や神経伝達など生体が正常に機能するために必要な栄養素であるため,我々は適度な塩味を好ましく感じる.一方,過剰な塩分摂取は高血圧や循環器疾患など様々な疾病の原因となる.特に我が国の食塩摂取量は高く,減塩を如何に促進させるかが喫緊の課題といえる.広く利用されている減塩法として,少しずつ食塩量を減らし,薄味に慣れさせる,あるいは他の味(うま味,辛味)を加えることで食品全体の呈味性を維持させるといった方法が知られている.しかし,これらの方法の効果は限界に近づいており,さらに減塩すると“美味しくない”食品となり,食事の摂取量までが減少してしまう.そのため,塩味増強物質のような呈味性を維持したまま減塩を促進するための画期的な解決策が切望されている.
口腔内に入った味物質は味蕾によって受容される.味蕾は数十個の味細胞から構成され,その先端部に味を感じるセンサーである味覚受容体が存在する.食べ物の味は5つの基本味(甘味,うま味,苦味,酸味,塩味)に分類されるが,各基本味を受容する味覚受容体が同定されている:甘味,うま味,苦味受容体として,それぞれT1R2+T1R3,T1R1+T1R3とT2Rsが,酸味受容体としてOTOP1が機能する.一方,塩味受容体については不明な点が多い.
塩味の受容は利尿剤アミロライドに対する感受性の違いから,アミロライド感受性(Amiloride Sensitive: AS)と,アミロライド非感受性(Amiloride Insensitive: AI)経路に分けられる.塩味に対する嗜好性は濃度により分かれ,低濃度の食塩溶液は嗜好される一方で,高濃度の食塩溶液は忌避される.このうち,ASが低濃度,AIが高濃度の塩応答に関与すると考えられる.アミロライドは上皮性ナトリウムチャネルENaCの阻害剤であることから,AS経路はENaCによって媒介されると考えられている.しかし一方で,AI経路に関わる分子は不明であった.興味深いことに,ヒトの塩味感覚ではASよりもAIの占める割合が高い.つまり,AIを媒介する分子の同定はヒトの塩味受容メカニズムを解明する上で鍵になると考えられた.
このような背景のもと,我々はAI受容に関わる分子の同定を進め,膜タンパク質Transmembrane channel-like 4(TMC4)がAI受容に関わる電位依存性クロライドチャネルであることを見いだした1).本発表では,塩味受容におけるTMC4の役割と塩味増強剤探索におけるTMC4の有用性について紹介する.
参考文献1)Kasahara Y†, Narukawa M†, Ishimaru Y, Kanda S, Umatani C, Takayama Y, Tominaga M, Oka Y, Kondo K, Kondo T, Takeuchi A, Misaka T, Abe K*, Asakura T*. TMC4 is a novel chloride channel involved in high-concentration salt taste sensation. J. Physiol. Sci., 71, 23 (2021)
成川 真隆(なるかわ まさたか):京都女子大学家政学部・准教授
略歴:京都大学大学院農学研究科博士課程修了.博士(農学).静岡県立大学食品栄養科学部・助教,German Institute of Human Nutrition・ポスドクを経て,東京大学大学院農学生命科学研究科・特任助教,同助教.2020年より京都女子大学家政学部・准教授,現在に至る.主な受賞歴:日本農芸化学会奨励賞(2017年),日本食品科学工学会奨励賞(2020年),日本味と匂学会研究奨励賞(2023年)
塩味は基本味の一つで,代表的な塩味物質は食塩(NaCl)である.塩味は食物中に含まれるミネラルの存在を示すシグナルであると考えられている.ミネラルは骨や歯の形成,細胞の浸透圧の維持や神経伝達など生体が正常に機能するために必要な栄養素であるため,我々は適度な塩味を好ましく感じる.一方,過剰な塩分摂取は高血圧や循環器疾患など様々な疾病の原因となる.特に我が国の食塩摂取量は高く,減塩を如何に促進させるかが喫緊の課題といえる.広く利用されている減塩法として,少しずつ食塩量を減らし,薄味に慣れさせる,あるいは他の味(うま味,辛味)を加えることで食品全体の呈味性を維持させるといった方法が知られている.しかし,これらの方法の効果は限界に近づいており,さらに減塩すると“美味しくない”食品となり,食事の摂取量までが減少してしまう.そのため,塩味増強物質のような呈味性を維持したまま減塩を促進するための画期的な解決策が切望されている.
口腔内に入った味物質は味蕾によって受容される.味蕾は数十個の味細胞から構成され,その先端部に味を感じるセンサーである味覚受容体が存在する.食べ物の味は5つの基本味(甘味,うま味,苦味,酸味,塩味)に分類されるが,各基本味を受容する味覚受容体が同定されている:甘味,うま味,苦味受容体として,それぞれT1R2+T1R3,T1R1+T1R3とT2Rsが,酸味受容体としてOTOP1が機能する.一方,塩味受容体については不明な点が多い.
塩味の受容は利尿剤アミロライドに対する感受性の違いから,アミロライド感受性(Amiloride Sensitive: AS)と,アミロライド非感受性(Amiloride Insensitive: AI)経路に分けられる.塩味に対する嗜好性は濃度により分かれ,低濃度の食塩溶液は嗜好される一方で,高濃度の食塩溶液は忌避される.このうち,ASが低濃度,AIが高濃度の塩応答に関与すると考えられる.アミロライドは上皮性ナトリウムチャネルENaCの阻害剤であることから,AS経路はENaCによって媒介されると考えられている.しかし一方で,AI経路に関わる分子は不明であった.興味深いことに,ヒトの塩味感覚ではASよりもAIの占める割合が高い.つまり,AIを媒介する分子の同定はヒトの塩味受容メカニズムを解明する上で鍵になると考えられた.
このような背景のもと,我々はAI受容に関わる分子の同定を進め,膜タンパク質Transmembrane channel-like 4(TMC4)がAI受容に関わる電位依存性クロライドチャネルであることを見いだした1).本発表では,塩味受容におけるTMC4の役割と塩味増強剤探索におけるTMC4の有用性について紹介する.
参考文献1)Kasahara Y†, Narukawa M†, Ishimaru Y, Kanda S, Umatani C, Takayama Y, Tominaga M, Oka Y, Kondo K, Kondo T, Takeuchi A, Misaka T, Abe K*, Asakura T*. TMC4 is a novel chloride channel involved in high-concentration salt taste sensation. J. Physiol. Sci., 71, 23 (2021)