The 71th Annual Meeting of JSFST

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Symposia

シンポジウムA

[SA3] シンポジウムA3

Thu. Aug 29, 2024 2:30 PM - 5:15 PM Room S4 (3F N301)

世話人:安藤 聡(愛知淑徳大学)

2:30 PM - 3:10 PM

[SA3-01] Food production and distribution systems and food loss and waste reduction

*Tomio Kobayashi1 (1. Japan Women's University)

Keywords:food loss and waste, distribution system, food supply-demand adjustment, food bank, food security

    【講演者の紹介】
    氏名:小林富雄(こばやしとみお)略歴:日本女子大学家政学部教授,大阪大学産業先導的学際研究機構招へい教授2003年名古屋大学大学院生命農学研究科博士後期課程修了.2015年名古屋市立大学大学院経済学研究科博士後期課程(短期履修コース)修了.博士(農学)名古屋大学,博士(経済学)名古屋市立大学.専門分野は,フードシステム論,マーケティング論.商社,シンクタンク,大学勤務等を経て,2022年より現職.食品流通で発生する食品ロスについて専門的に研究し,消費者庁,農林水産省,環境省,経済産業省等の委員を歴任.

    2019年に施行された「食品ロス削減推進法」は,コロナ禍を経て新たな局面を迎えている.2001年施行の「食品リサイクル法」では対象外だった家庭や農業を含むフードチェーン,さらに行政までを巻き込む「国民運動」が展開される一方,食品廃棄物のうちのまだ食べられる「可食部」に的を絞ったReduce(発生抑制)を中心に取り組みが進んだ.民間単独の取り組みでも自動発注の普及が進み,センシングとAIを駆使した需給調整の高度化が進展している.その結果,推進法施行後の食品ロス発生量は,ダウントレンドにあるようにみえる.しかし周知のとおり,2020年以降はコロナ禍による飲食店やホテル業の営業自粛などにより前年比91.6%と大幅な減少をみせたにすぎない.食品ロス発生量は経済活動と相関するため,この減少が社会的に歓迎されるべきものかは慎重に受け止める必要がある.一方で,2020年度(前年比94.5%)以降の家庭系食品ロスの減少は注目に値する.コロナ禍による外食産業の売り上げ減少分は主に家庭での食事に移転したとみられ,そのなかで家庭系食品ロスが減少しているからである.海外では,コロナ禍にあっても食事に対しては対面であることが好まれ食品廃棄物を避ける行動が認められたり,買い物リストの使用が普及(52.3%)したり36%の世帯が食品廃棄物を発生させていないという報告がある(Zacharatos,2020).
    国連ではフードシステム全体に視野を広げることで食品ロス問題が相対化され,食料問題を解決する1つの手段として捉えられているが,縦割り社会の日本では難しいかもしれない.例えば,これまでの日本における食料安全保障の取り組みは,予算配分などを見る限り農業部門への支援と食料自給率の向上に偏っていた.しかし,少子高齢化が進んでいるとはいえ1億2000万人の人口を擁する日本を養うには,自給率向上と同様に食料輸入量の確保も重要である.円安基調での「買い負け」は,微力かもしれないが輸出による外貨獲得で少しでも克服しなければならない.過剰な食料を福祉に活用するフードバンクのような取り組みも,環境対策としては量的削減のインパクトはあまりに少ないが,食料再配分のシステムととらえれば,ラストワンマイルの食料安全保障に資する取り組みになり得る.
    2024年を迎え,ようやく日本でもこのような廃棄物問題一辺倒の取り組みから脱却できそうである.諸外国では一般的になりつつある企業等からフードバンクへの「善意の寄付事故の免責」を制度化する動きがあり,いわゆる骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針2023)において,食品の寄付や食べ残しの持ち帰りを含む食品ロス削減に向けた施策パッケージの年末までの策定が明記された.2023年12月には省庁連携でパッケージ内容と施策の方向性が示され,2024年より食品ロスをめぐる複数の協議会や検討会が立ち上がった.これは生産部門だけでなく,流通,消費部門を含むサプライチェーン型の食料安全保障の構築が必要であり,過不足なく需給調整を柔軟に,かつ素早く需給調整を行うことを目指す構造改革を促すことになるだろう.