09:05 〜 09:30
[SB2-01] 香川県産オリーブからの醸造用酵母の探索と商品開発支援
キーワード:オリーブ、清酒酵母、香川県
【講演者の紹介】
大西 茂彦(おおにし しげひこ) 香川県産業技術センター 食品研究所 部門長・博士(農学)・主席研究員
略歴:1996年岡山大学大学院自然科学研究科(博士課程後期)単位取得退学,同年香川県に入庁(食品試験場).2005年博士(農学)取得,2024年より現職.
清酒の消費量が漸減を続ける中,香川県内の清酒製造業者数は平成9年の19社から現在6社まで減少している.県内酒造産業の振興のために,特徴のある清酒の開発が急務となっている.香川県では明治41年にオリーブの栽培が開始され,県花・県木に指定されている.香川県のオリーブは県内外で高いブランド力を有しており,オリーブから酵母を分離して清酒を醸造することにより「香川県らしさ」をアピールする新製品の開発が可能となる.本研究および商品開発支援は,オリーブから清酒醸造に利用可能な酵母を探索し,独自性の高い清酒を商品化することを目的として,香川県酒造組合の要請を受けて実施した.
オリーブの花,果実または葉を麹汁培地に加えて集積培養した.2,3,5-Triphenyltetrazoliumchlo-ride(TTC)染色法で赤色を示すコロニーを分離し,二酸化炭素産生能で発酵性を評価して酵母様微生物6株を分離した.このうちオリーブの実から分離され,リボゾームDNA(ITS領域)のシークエンス情報からSaccharomyces cerevisiaeと同定された2株(OY-4,OY-5)は,15℃におけるアルコール生産能を有していたので清酒醸造に利用可能と考えられた.この2株を使用して総米100 gの小仕込み試験を実施したところ,清酒のアルコールはOY-4 15.6%,OY-5 13.0%と,きょうかい9号(19.0%)と比較して発酵性が低かった.研究開始当初の香川県酒造組合との協議では,分離した酵母のアルコール生産性が低くても低アルコール商品に使用できるとの認識であった.しかし,アルコール生産性の低い酵母の使用は,発酵初期に乳酸菌等の生育が優勢となり腐造の原因となる恐れがあるとの懸念が生じた.これにより,OY-4およびOY-5を使用した清酒醸造は困難との結論となった.アルコール生産性の高い酵母を得る方法として,改めてオリーブから酵母を分離することが考えられる.その場合,研究期間は1〜数年延長することになるうえに,希望する能力を持つ株が分離できる保証もない.そこで,保有しているOY-4およびOY-5からアルコール耐性株を育種および選抜することにした.こうじ汁培地で培養したOY-4あるいはOY-5を12%エタノール含有寒天培地上に植菌し,生育してコロニーを形成した株を同様の操作に供した.寒天培地中のエタノール濃度を15%,17%と上昇させた結果,17%エタノール含有寒天培地上でも生育可能な5株が得られた.そのうち4株(OY-4-1~4)が総米200 gの小仕込み試験において18%以上のアルコールを生産した.官能検査等により酒質を検討した結果,最も優れていると判断したOY-04-2を香川県酒造組合に提供した.
酵母OY-04-2は「さぬきオリーブ酵母」と命名され,令和2年4月より同酵母で醸造した清酒が販売開始されている(令和6年4月末現在37種類).「さぬきオリーブ酵母」で醸造した清酒は,「おだやかな果実様の香りと爽やかでトロピカルな酸味」が特徴であると評価されている.令和2年の発売開始から販売額が毎年増加しており,本県独自の地酒として,特に東京など大都市圏において認知度が高まっている.また,白ワインに似た風味であることからEU諸国の清酒コンテストで上位入賞するなど高い評価を受けており,県内清酒の輸出額増加に貢献することが期待されている.
大西 茂彦(おおにし しげひこ) 香川県産業技術センター 食品研究所 部門長・博士(農学)・主席研究員
略歴:1996年岡山大学大学院自然科学研究科(博士課程後期)単位取得退学,同年香川県に入庁(食品試験場).2005年博士(農学)取得,2024年より現職.
清酒の消費量が漸減を続ける中,香川県内の清酒製造業者数は平成9年の19社から現在6社まで減少している.県内酒造産業の振興のために,特徴のある清酒の開発が急務となっている.香川県では明治41年にオリーブの栽培が開始され,県花・県木に指定されている.香川県のオリーブは県内外で高いブランド力を有しており,オリーブから酵母を分離して清酒を醸造することにより「香川県らしさ」をアピールする新製品の開発が可能となる.本研究および商品開発支援は,オリーブから清酒醸造に利用可能な酵母を探索し,独自性の高い清酒を商品化することを目的として,香川県酒造組合の要請を受けて実施した.
オリーブの花,果実または葉を麹汁培地に加えて集積培養した.2,3,5-Triphenyltetrazoliumchlo-ride(TTC)染色法で赤色を示すコロニーを分離し,二酸化炭素産生能で発酵性を評価して酵母様微生物6株を分離した.このうちオリーブの実から分離され,リボゾームDNA(ITS領域)のシークエンス情報からSaccharomyces cerevisiaeと同定された2株(OY-4,OY-5)は,15℃におけるアルコール生産能を有していたので清酒醸造に利用可能と考えられた.この2株を使用して総米100 gの小仕込み試験を実施したところ,清酒のアルコールはOY-4 15.6%,OY-5 13.0%と,きょうかい9号(19.0%)と比較して発酵性が低かった.研究開始当初の香川県酒造組合との協議では,分離した酵母のアルコール生産性が低くても低アルコール商品に使用できるとの認識であった.しかし,アルコール生産性の低い酵母の使用は,発酵初期に乳酸菌等の生育が優勢となり腐造の原因となる恐れがあるとの懸念が生じた.これにより,OY-4およびOY-5を使用した清酒醸造は困難との結論となった.アルコール生産性の高い酵母を得る方法として,改めてオリーブから酵母を分離することが考えられる.その場合,研究期間は1〜数年延長することになるうえに,希望する能力を持つ株が分離できる保証もない.そこで,保有しているOY-4およびOY-5からアルコール耐性株を育種および選抜することにした.こうじ汁培地で培養したOY-4あるいはOY-5を12%エタノール含有寒天培地上に植菌し,生育してコロニーを形成した株を同様の操作に供した.寒天培地中のエタノール濃度を15%,17%と上昇させた結果,17%エタノール含有寒天培地上でも生育可能な5株が得られた.そのうち4株(OY-4-1~4)が総米200 gの小仕込み試験において18%以上のアルコールを生産した.官能検査等により酒質を検討した結果,最も優れていると判断したOY-04-2を香川県酒造組合に提供した.
酵母OY-04-2は「さぬきオリーブ酵母」と命名され,令和2年4月より同酵母で醸造した清酒が販売開始されている(令和6年4月末現在37種類).「さぬきオリーブ酵母」で醸造した清酒は,「おだやかな果実様の香りと爽やかでトロピカルな酸味」が特徴であると評価されている.令和2年の発売開始から販売額が毎年増加しており,本県独自の地酒として,特に東京など大都市圏において認知度が高まっている.また,白ワインに似た風味であることからEU諸国の清酒コンテストで上位入賞するなど高い評価を受けており,県内清酒の輸出額増加に貢献することが期待されている.