第18回日本感性工学会春季大会・ISASE2023

大会概要

第18回春季は大会の運営をいささかならず変えてみました。ひとつは、会員諸氏にご登壇いただくセッションを選択肢の中からお選び頂くこと、そのセッションでのプログラムの作成や進行をセッションを担当する実行委員にお任せしたこと、今後、なるべく多くの会員の方がセッション担当をご経験いただきたい・・・、と考えました。当番校の大会プログラム委員長の仕事を分散させた次第であります。
これについては、もうひとつの期待があります。新しいテーマが出現して、あたらしいセッションが生まれてほしいことです。本学会のルーツは、往年の日本学術会議の第5部で、課題別研究連絡委員会を構成した感性工学専門委員会にあります。当時は安全工学や人間工学とならんで工学としては新味のある領域とされましたが、創設以来25年を経過、この辺で、つぎの息吹となるようなテーマを積極的に取り込んでいきたいと存じます。
この期待を強調したいあまりに、「Fashion and Kansei Tech」ということばにハマりました。新しい様式のつもりでFashionと言いたかったのです。カタカナのファッションは華やかなショーを連想させますが、fashionとなるとさらに奥が深く、サンスクリット語dadhati(”puts, places;”)がともかく、14世紀仏語fasounで「フォーム、形状; 外観」、15世紀で、メイク、ドレス、マナー、習慣、時代に合った服装、1630年当りで 社会に合わせる、そしていまでは、格好好い、流行を含むことばになりました。一方、fashionの語源はfactionに相通じ、それはPartei(Party/政党・分派)にもたどり着きます。
西周はscienceを科学と訳しましたが、まさに分かれて議論すればこそ学問にもなりますので、今回のセッションもそういう意味を込めて設定させていただきました。どこにもあてはまらなければ「新分野・その他」を選択され、あるいはあたらしいパルタイの立ち上げを目論んでいただければ幸甚の至りであります。
今回幹事校となります信州大学繊維学部のルーツは、第24回帝国議会で可決され、明治43年に設立された上田蚕糸専門学校(英語名Ueda Imperial College of Sericulture and Silk Industry )であります。その後、京都や東京にも設置されますが、要すれば、繭を増産して生糸を量産するための技術を開発普及し、往時の最大輸出品、絹製品を盤石にするための学校でした。高度成長期のニューヨークのOLさんが、好んで感性訴求の生糸製ストッキングを愛用していただいたお陰ですが、その後、1935年、あのデュポンの技術者のカロザース(Wallace H. Carothers)が「石炭と水と空気」からナイロンを発明するに及び、生糸は不動の地位から蹴落とされました。その後、1943年ごろ、J. R. Whinfield と J. T. Dickson が製法を発明し(特許公開1946年)、英ICIが繊維化に成功してポリエステルと名付け、天下を取って70年近くを経過しています。カーボンニュートラルの実現が求められる現在、そのポリエステルに代わる何かの発明に係わりができれば、この常田キャンパスも22世紀まで安泰に推移するでしょう。
こうした1世紀以上の移ろいもまた「流行」であり、予測がつきものでありますが、それはあたらしい技術が生まれる契機にもなります。このような「祈念」を含めまして、第18回春季の大会テーマを「Fashion and Kansei Tech」とさせていただきました。衣料品やファッション製品に限らず、fashionを幅広くご認識いただき、議論をお進めくださいますよう、よろしくお願い申しあげます。

実行委員長 高寺政行(信州大学)