[03心-ポ-20] サッカー審判員におけるVRトレーニングの有用性の検討
審判員は、ほとんどの競技種目で試合を行う上で必要不可欠な存在である。一方で、審判員による誤審は、その試合全体の判定に関する印象に影響を及ぼすことが指摘されている(齊藤・内田、2017)。このことから、審判員にとって、試合以外においても実践に近い環境でトレーニングを行い、状況判断能力を高めることには意義があるだろう。そこで本研究では、VRを用いて、リアリティのある環境でサッカー審判員の判定を分析し、VRトレーニングの有用性について検討することを目的とした。 実験参加者は、サッカー審判経験年数により2群に設定した。上級者群は、男性5名、女性1名(審判経験年数:4.83 ± 1.72年)であり、初級者群は、男性6名(審判経験年数:0.83 ± 0.41年)であった。実験参加者の課題は、呈示されるサッカーの接触プレーについて、ファウルと判定した場合は右手を垂直方向に、ノーファウルと判定した場合は左手を水平方向に挙げることであった。心理指標は、没入感、映像の見易さ、映像の違和感、画面酔い、および課題難易度の主観的評価の得点とし、行動指標は、課題の正答率とした。 没入感、映像の見易さ、映像の違和感、画面酔いの得点について、群による対応のない t 検定を行った結果、いずれの項目にも有意差はみられなかった。本研究では、両群とも映像への没入感や見易さにおいて高値を示しており、リアリティのある実験環境であったことが確認された。一方、課題の正答率について、群×条件の2要因分散分析を行ったところ、群の主効果が認められ、上級者群の正答率が初級者群よりも有意に高いことが示された。サッカー審判員の上級者は、周辺視野が広く、判定の手がかりを探す能力が高いことが報告されており(Moreira et al., 2020)、VRを用いた本研究においても、経験値の違いが反映されたものと推察される。以上のことから、サッカー審判員においてVRの活用は、状況判断能力を高める有効な手段であるといえる。