14:45 〜 15:00
[S01-07] 連続地震動記録を用いた余震による最大振幅および閾値超過振幅数の早期予測
昨年度は、観測された連続地震動記録の統計的特徴を用いることで、地震カタログを用いることなく、余震による最大振幅の発生確率を早期に予測する手法を提案した(澤崎、2019)。今回は、任意の閾値を超える最大振幅の発生数を確率的に表現する手法について報告する。具体的には、「期間T1からT2の間に閾値z以上の振幅がn回以上観測される確率はQ%」と表される超過確率Qを、任意のT1、T2、z、nの組み合わせについて算出する。ここではnを閾値超過振幅数と呼ぶ。nを1とする場合、この超過確率は「期間T1からT2の間に観測される最大振幅がz以上である確率はQ%」と言い表すことができ、最大振幅の予測は閾値超過振幅数の予測の特殊な場合に相当する。
連続地震動記録の区間最大振幅(一定時間Tごとの最大振幅。今回はTを1分に固定)は、Frechet分布と呼ばれる極値分布の一種にしたがう。この分布は、地震活動の活発さや伝播経路特性等を反映するパラメータAと、Gutenberg-Richter式のb値等を反映するパラメータmとで特徴づけられる。地震数が大森-宇津則にしたがい時間減衰する場合、大森-宇津式のp値もパラメータとなる。加えて、地震動記録は地震以外の雑微動を含み区間最大振幅は下限を持つため、その下限xminもパラメータとなる。以上4個のパラメータを用いると、区間最大振幅がしたがうFrechet分布の累積分布関数Gは
G(z, t, t+T)=exp[-ATm-1(z-xmin)-mt-p] (1)、
確率密度関数gは
g(z, t, t+T)=ATt-pexp[-ATm-1(z-xmin)-mt-p](z-xmin)-m-1 (2)
と表される。ただし1、2式とも本震からの経過時間tがTよりも十分大きいという条件の下で成り立つ。観測された区間最大振幅に最尤法を用いてFrechet分布をあてはめ、4個のパラメータを推定する。最尤推定値θ=(A, p, m, xmin) を用いると、超過確率Qは
Qn(z, T1, T2;θ)=1-exp[-(N∞-N)]Σn'=1n(N∞-N)n'-1/(n'-1)! (3)
N∞-N=(z-xmin)-mA(T21-p-T11-p)/[m(1-p)] (4)
と表される。N∞は期間T1からT2の間に発生する全地震数を、Nはその中で最大振幅が閾値zを超えない地震数を表す。超過確率Qは、zについてFrechet分布、nについてポアソン分布にしたがう。実際の予測においては、推定値の不確定性を考慮したベイズ予測(例えば、Omi et al., 2015)を用いる。
図aは、G-R式と大森-宇津式にしたがう余震活動を乱数を用いて生成し、マグニチュードと最大振幅の関係式から算出した区間最大振幅の推移(白丸)を表す。最大振幅の閾値は10-4m/s(赤点線)に設定し、これを超える区間最大振幅は太い丸印で示している。区間最大振幅の下限Xminは10-6m/s(黒点線)に設定した。灰色の実線は評価時点以降に観測された最大振幅を表す。この疑似余震記録について、本震発生の5分後から3時間後(赤縦線)までのデータを用いてパラメータを推定し、超過確率曲線を描いた図がb(最大振幅)とc(閾値超過振幅数)である。赤丸が3時間後以降に発生した最大振幅(図b)と、閾値10-4m/sを超えた振幅の数(図c)の推移を表す。黒線は3時間後時点で評価した96時間後までの10%、50%、90%超過確率曲線を示す。最大振幅、閾値超過振幅数共に、予測の範囲で推移している。評価時点が12時間後(図a青縦線)の場合(図d、e)、使用できるデータ数が増えるためにパラメータの推定精度が上がり、特に閾値超過振幅数の予測幅はより絞り込まれる。この場合も3時間後の場合と同様に、超過確率曲線から予測される範囲内で最大振幅、閾値超過振幅数とも推移する。
異なる乱数列を用いて図b~eと同様の図を1000通り描くと、最大振幅や閾値超過振幅数が10%超過確率曲線を上回るケースと90%超過確率曲線を下回るケースはそれぞれ100ケース程となり、全ケースの10%程度となった。同様に、10%と50%超過確率曲線の間および50%と90%超過確率曲線の間を推移するケースはそれぞれ400ケース程で、全体の40%程度であった。以上の結果から、パラメータが時間変化しない理想的な状況下では、区間最大振幅を用いることで、大地震発生後数時間以内にその後の最大振幅と閾値超過振幅数を確率的に予測できることが分かった。
謝辞:本研究は科研費・若手研究B「連続地震波形記録を用いた準リアルタイム余震活動予測手法の開発」(課題番号17K14385)からの支援を受けています。
連続地震動記録の区間最大振幅(一定時間Tごとの最大振幅。今回はTを1分に固定)は、Frechet分布と呼ばれる極値分布の一種にしたがう。この分布は、地震活動の活発さや伝播経路特性等を反映するパラメータAと、Gutenberg-Richter式のb値等を反映するパラメータmとで特徴づけられる。地震数が大森-宇津則にしたがい時間減衰する場合、大森-宇津式のp値もパラメータとなる。加えて、地震動記録は地震以外の雑微動を含み区間最大振幅は下限を持つため、その下限xminもパラメータとなる。以上4個のパラメータを用いると、区間最大振幅がしたがうFrechet分布の累積分布関数Gは
G(z, t, t+T)=exp[-ATm-1(z-xmin)-mt-p] (1)、
確率密度関数gは
g(z, t, t+T)=ATt-pexp[-ATm-1(z-xmin)-mt-p](z-xmin)-m-1 (2)
と表される。ただし1、2式とも本震からの経過時間tがTよりも十分大きいという条件の下で成り立つ。観測された区間最大振幅に最尤法を用いてFrechet分布をあてはめ、4個のパラメータを推定する。最尤推定値θ=(A, p, m, xmin) を用いると、超過確率Qは
Qn(z, T1, T2;θ)=1-exp[-(N∞-N)]Σn'=1n(N∞-N)n'-1/(n'-1)! (3)
N∞-N=(z-xmin)-mA(T21-p-T11-p)/[m(1-p)] (4)
と表される。N∞は期間T1からT2の間に発生する全地震数を、Nはその中で最大振幅が閾値zを超えない地震数を表す。超過確率Qは、zについてFrechet分布、nについてポアソン分布にしたがう。実際の予測においては、推定値の不確定性を考慮したベイズ予測(例えば、Omi et al., 2015)を用いる。
図aは、G-R式と大森-宇津式にしたがう余震活動を乱数を用いて生成し、マグニチュードと最大振幅の関係式から算出した区間最大振幅の推移(白丸)を表す。最大振幅の閾値は10-4m/s(赤点線)に設定し、これを超える区間最大振幅は太い丸印で示している。区間最大振幅の下限Xminは10-6m/s(黒点線)に設定した。灰色の実線は評価時点以降に観測された最大振幅を表す。この疑似余震記録について、本震発生の5分後から3時間後(赤縦線)までのデータを用いてパラメータを推定し、超過確率曲線を描いた図がb(最大振幅)とc(閾値超過振幅数)である。赤丸が3時間後以降に発生した最大振幅(図b)と、閾値10-4m/sを超えた振幅の数(図c)の推移を表す。黒線は3時間後時点で評価した96時間後までの10%、50%、90%超過確率曲線を示す。最大振幅、閾値超過振幅数共に、予測の範囲で推移している。評価時点が12時間後(図a青縦線)の場合(図d、e)、使用できるデータ数が増えるためにパラメータの推定精度が上がり、特に閾値超過振幅数の予測幅はより絞り込まれる。この場合も3時間後の場合と同様に、超過確率曲線から予測される範囲内で最大振幅、閾値超過振幅数とも推移する。
異なる乱数列を用いて図b~eと同様の図を1000通り描くと、最大振幅や閾値超過振幅数が10%超過確率曲線を上回るケースと90%超過確率曲線を下回るケースはそれぞれ100ケース程となり、全ケースの10%程度となった。同様に、10%と50%超過確率曲線の間および50%と90%超過確率曲線の間を推移するケースはそれぞれ400ケース程で、全体の40%程度であった。以上の結果から、パラメータが時間変化しない理想的な状況下では、区間最大振幅を用いることで、大地震発生後数時間以内にその後の最大振幅と閾値超過振幅数を確率的に予測できることが分かった。
謝辞:本研究は科研費・若手研究B「連続地震波形記録を用いた準リアルタイム余震活動予測手法の開発」(課題番号17K14385)からの支援を受けています。