日本地震学会2020年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

S01P

2020年10月30日(金) 16:00 〜 17:30 P会場

16:00 〜 17:30

[S01P-05] 変位成分と歪み成分での合成波形記録の比較:震源放射特性と地表面での入射角依存性

〇蓬田 清1、伊藤 俊哉2 (1.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門・地球惑星ダイナミクス分野、2.北海道大学理学部地球惑星科学科)

光ファイバの不純物による散乱光を利用したDistributed Acoustic Sensing (DAS)は、従来の機械式地震計とは全く異なる観測原理・システムである。物理探査では既にこの革命が始まり(Hartog, 2017; Zhang, 2019)、地震学でも試験運用が急速に普及しつつある。従来の3成分の速度記録などと異なり、DASは光ファイバに沿っての歪み速度テンソル成分を計測する(螺旋状のファイバで、歪みの全成分を計測する技術も開発されつつある)。これまでの研究ではDASの歪み記録を従来の速度波形記録などへ変換する前処理を行なってきたが、大容量データの蓄積が今後見込まれる状況では非効率である。記録される歪み波形そのものの特徴を生かした解析により、震源や構造の研究を進めていく方が適当であろう。そこで本研究では、歪み成分での波形記録を合成し、従来の変位などの地震記録の特徴と比較することで、DASで得られる波形記録の特徴を考察する。ここでは、標準的な教科書で必ず取り上げられる断層運動(ダブルカップル点震源)の放射特性と、平面波の地表面入射における反射係数と地表面観測点での振幅を取り上げる。このような基本的な歪み成分での考察は、全く行われてこなかった。

 ダブルカップル点震源のP波の変位の放射特性は全方位球を直交する2つの平面(節)で分ける4象限型である。歪みの対角成分(errなどの伸縮成分)はこれと同じだが、歪み成分(非対角成分)は変位の放射特性の方位による変動が大きな節面で最大となるため、変位や対角成分の特性の節面と最大領域が入れ替わった形となる。一方、S波の変位はある点のみでゼロとなるが、歪みの場合にはP波のように節面が現れるので、震源過程の推定に有効となる可能性がある。

 次に、2つのラメ定数が同じ半無限一様媒質において、平面波が入射した際の地表面での変位と歪み成分が入射角(theta)によってどう変化するかを考える(鉛直方向をz軸、進行する水平方向をx軸とする)。SH波の場合、変位は地表面で入射波の振幅の2倍と一定に対して、ゼロでない歪み成分であるexyはsin(theta)に比例、つまり鉛直入射ではゼロとなる。P波とSV波入射の結果については、図1と2に示す。変位では鉛直入射ではSH波と同じく2倍となり、入射角の増加とともに減少し、水平入射でゼロとなる。P波入射ではどの歪み成分でも、鉛直と水平入射のどちらもゼロで、斜め入射で最大値を取る。一方、SV波入射ではP波が水平方向に反射する臨界角で変位は鋭いピークを持つことは知られていたが、伸縮歪みは鉛直・水平の両成分でも類似の特徴を示す。歪みの水平成分は鉛直成分よりも卓越しているが、変位ほど大きな比ではない。また、臨界角より大きな角度では表面波的な伝搬となり、歪みの振幅はいったん小さくなるが、さらに入射角が大きくなると別の極大を取り、変位の特徴とは大きく異なる。地面に水平に設置したDASは水平伸縮の歪みを記録するので、入射角が小さい遠地地震ではP波もS波も小さく、ローカルの地震の方が強調されることが予想される。また、柔らかい堆積層がある場合、入射角が小さくなるので記録される振幅は小さくなる。また、臨界角より大きなSV波入射のように、表面波成分は強調されることも示唆される。