11:00 AM - 11:15 AM
[S03-03] Estimation of coupling slip distributions in a subduction zone by a trans-dimensional inversion approach
地殻変動観測データを用いた断層すべり分布の推定には,一般的にすべりの平滑化条件を課した最小二乗法が行われ,その度合いを調整するハイパーパラメータをABICやLカーブ等の基準により決定する.しかし,解の直接的な拘束条件(非負拘束等)を課した最小二乗法を行う場合, ABICが解析的に正しく計算できないことや,解の事後確率分布の非ガウス性に対応できないなどの問題点に対応するため,マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法の活用が望まれる [Fukuda & Johnson, 2008].更に,従来の手法ではすべりの平滑化条件として,解析空間で一様な拘束条件を課す場合がほとんどであり,断層すべりの広がりの非一様性に対応できていない.また,観測点分布の空間的な粗密の違い等により,断層すべりのモデル誤差が空間的に大きく異なり,インバージョン結果の確からしさ・解釈が難しい [Kimura et al., 2019] といった問題点が挙げられる.
上記の問題の解決のため,我々は,Reversible-jump MCMC法 [Green, 1995] によるTrans-dimensional inversion(TDI)手法の開発に取り組んでいる [e.g., Tomita et al., 2020, JpGU-AGU].本手法では,Bodin & Sambridge [2009]と同様にVoronoi cell 空間分割により断層面を区切り,cell毎の未知パラメータ(すべり量)とcell自体の数(未知パラメータ数)を同時に探索する.これにより,観測データから求め得る空間解像度とすべり分布自体の空間スケールに合わせた空間分割がなされ,最小限の未知パラメータ数で断層すべり分布が求められるとともに,非一様な断層すべりの広がりの表現も可能となる.また,本手法はMCMC法の一種であるため,解の直接的な拘束条件を課すことや解の事後確率分布の非ガウス性を表現することも可能である.Tomita et al. [2020, JpGU-AGU] では,このTDI法を測地データを用いた沈み込み帯での巨大地震時すべりの推定に適用し,非一様な断層すべりの広がりや解の事後確率分布の非ガウス性の表現が可能であることを確かめた.
本研究では,上記のTDI法を沈み込み帯での固着分布の推定に適用した.固着分布の推定では巨大地震時すべりと比較して観測データのSN比が小さくなりがちであるため,そうした悪条件下でのTDI法の挙動を確認するとともに,従来のABICによりすべりの平滑化拘束を最適化した最小二乗法(ABIC-LSM)に基づく推定結果との比較から,固着分布の推定にTDI法が適しているかどうかを検証した.このような手法の有用性を確認するため,Syntheticデータを用いて仮定した固着分布の再現度合いの検証を行った.Syntheticデータは,均質半無限弾性媒質 [Okada, 1992] を仮定したバックスリップに対する応答として求めた.沈み込み帯プレート境界断層を模した傾斜角15度・幅300 km・長さ500 kmの矩形断層を仮定し,20 km × 20 kmの小断層を配置した.なお,TDI法では,この小断層をVoronoi cellにより空間的にグループ分けすることで未知パラメータ数を調整することになる.観測点配置は,海溝から200 kmの距離を海岸線として,①150陸上観測点+25海底観測点.②150陸上観測点のみ,の2パターンを用意し,固着分布の推定をそれぞれ行った.Syntheticデータは,円形の滑らかな固着パッチを海溝に沿って3つ並べた複雑な固着分布から計算された地表面変位に対して,実観測成果に沿った観測誤差を与えることで作成した.TDI法の実行にあたっては,初期状態として20個のVoronoi cellを配置し,すべり量の初期値は従来の最小二乗法による推定結果を元に設定することで,初期収束を早める方策をとった.また,初期値の影響を軽減し計算時間を短縮するため,複数鎖の並列計算を行い(今回は2000並列鎖で実施),合計で1×10^6サンプルのアンサンブルにより推定を行った.
ABIC-LSMによる固着分布の推定結果は,どちらの観測点分布でも仮定した固着分布よりも滑らかな分布を示した.これは,観測点分布の粗さや観測データのSN比の低さから,十分な空間解像度が得られず,強い平滑化拘束が課された結果であると考えられる.一方で,TDI法による推定結果は,ABIC-LSMの結果に比べて,全体的により仮定した固着分布に近い滑らかさの分布が得られた.特に,観測点分布が密でモデル解像度が高いと考えられる領域の滑らかさがよく再現され,逆にモデル解像度が低いと考えられる領域でやや仮定した固着分布よりも滑らかな分布が推定された.これは観測点分布の粗密による空間解像度に合わせて,Voronoi cellの広がり(平滑化度合い)が調整されたためと考えられる.こうした特徴は,空間的に一様な平滑化条件を置かないTDI法による利点であると考えられる.また,観測点分布が疎な領域では,解の事後確率分布が非ガウス性になる傾向が得られるなど,MCMC法による推定の利点も確認することができた.こういった特徴により,TDI法では観測データの持つモデルパラメータへの感度をより生かした解析が可能であると考えられる.
発表では,より詳細なSyntheticデータの解析結果の報告を行う.また,今後南海トラフでの実データを用いた解析を実施し,その結果も踏まえて報告する見込みである.
上記の問題の解決のため,我々は,Reversible-jump MCMC法 [Green, 1995] によるTrans-dimensional inversion(TDI)手法の開発に取り組んでいる [e.g., Tomita et al., 2020, JpGU-AGU].本手法では,Bodin & Sambridge [2009]と同様にVoronoi cell 空間分割により断層面を区切り,cell毎の未知パラメータ(すべり量)とcell自体の数(未知パラメータ数)を同時に探索する.これにより,観測データから求め得る空間解像度とすべり分布自体の空間スケールに合わせた空間分割がなされ,最小限の未知パラメータ数で断層すべり分布が求められるとともに,非一様な断層すべりの広がりの表現も可能となる.また,本手法はMCMC法の一種であるため,解の直接的な拘束条件を課すことや解の事後確率分布の非ガウス性を表現することも可能である.Tomita et al. [2020, JpGU-AGU] では,このTDI法を測地データを用いた沈み込み帯での巨大地震時すべりの推定に適用し,非一様な断層すべりの広がりや解の事後確率分布の非ガウス性の表現が可能であることを確かめた.
本研究では,上記のTDI法を沈み込み帯での固着分布の推定に適用した.固着分布の推定では巨大地震時すべりと比較して観測データのSN比が小さくなりがちであるため,そうした悪条件下でのTDI法の挙動を確認するとともに,従来のABICによりすべりの平滑化拘束を最適化した最小二乗法(ABIC-LSM)に基づく推定結果との比較から,固着分布の推定にTDI法が適しているかどうかを検証した.このような手法の有用性を確認するため,Syntheticデータを用いて仮定した固着分布の再現度合いの検証を行った.Syntheticデータは,均質半無限弾性媒質 [Okada, 1992] を仮定したバックスリップに対する応答として求めた.沈み込み帯プレート境界断層を模した傾斜角15度・幅300 km・長さ500 kmの矩形断層を仮定し,20 km × 20 kmの小断層を配置した.なお,TDI法では,この小断層をVoronoi cellにより空間的にグループ分けすることで未知パラメータ数を調整することになる.観測点配置は,海溝から200 kmの距離を海岸線として,①150陸上観測点+25海底観測点.②150陸上観測点のみ,の2パターンを用意し,固着分布の推定をそれぞれ行った.Syntheticデータは,円形の滑らかな固着パッチを海溝に沿って3つ並べた複雑な固着分布から計算された地表面変位に対して,実観測成果に沿った観測誤差を与えることで作成した.TDI法の実行にあたっては,初期状態として20個のVoronoi cellを配置し,すべり量の初期値は従来の最小二乗法による推定結果を元に設定することで,初期収束を早める方策をとった.また,初期値の影響を軽減し計算時間を短縮するため,複数鎖の並列計算を行い(今回は2000並列鎖で実施),合計で1×10^6サンプルのアンサンブルにより推定を行った.
ABIC-LSMによる固着分布の推定結果は,どちらの観測点分布でも仮定した固着分布よりも滑らかな分布を示した.これは,観測点分布の粗さや観測データのSN比の低さから,十分な空間解像度が得られず,強い平滑化拘束が課された結果であると考えられる.一方で,TDI法による推定結果は,ABIC-LSMの結果に比べて,全体的により仮定した固着分布に近い滑らかさの分布が得られた.特に,観測点分布が密でモデル解像度が高いと考えられる領域の滑らかさがよく再現され,逆にモデル解像度が低いと考えられる領域でやや仮定した固着分布よりも滑らかな分布が推定された.これは観測点分布の粗密による空間解像度に合わせて,Voronoi cellの広がり(平滑化度合い)が調整されたためと考えられる.こうした特徴は,空間的に一様な平滑化条件を置かないTDI法による利点であると考えられる.また,観測点分布が疎な領域では,解の事後確率分布が非ガウス性になる傾向が得られるなど,MCMC法による推定の利点も確認することができた.こういった特徴により,TDI法では観測データの持つモデルパラメータへの感度をより生かした解析が可能であると考えられる.
発表では,より詳細なSyntheticデータの解析結果の報告を行う.また,今後南海トラフでの実データを用いた解析を実施し,その結果も踏まえて報告する見込みである.