日本地震学会2020年度秋季大会

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Room C

Regular session » S08. Earthquake physics

[S08]PM-2

Fri. Oct 30, 2020 2:30 PM - 3:30 PM ROOM C

chairperson:Naofumi Aso(Tokyo Institute of Technology)

3:00 PM - 3:15 PM

[S08-03] Physical mechanisms of the 2017 Pohang earthquake, South Korea

〇Toshiko Terakawa1, Wooseok Seo2, Kwang-Hee Kim2, Jin-Han Ree3 (1.Graduate School of Environmental Studies, Nagoya University, 2.Pusan National University, South Korea, 3.Korea University, South Korea)

浦項(ポハン)地震は,2017年11月15日に韓国南東部の浦項市を震源に発生した中規模地震(Mw5.5)である.プレート境界から数百km以上離れた韓国において,この浅い地殻内の地震は2016年慶州地震と共に韓国観測史上最大級の地震であり,韓国社会に数世紀内で最も甚大な被害を引き起こした.しかも,この最大級の地震は,韓国国家プロジェクトとして進められていた浦項地熱開発の発電所内で発生した.このため,この地震は,学界だけでなく一般社会からも大きな注目を集めている.韓国政府により地震後直ちに組織された国際調査団は,詳細な調査・研究を基に,2019年3月,この地震は地熱開発による注水(最大坑口圧:PX1: 27.2 MPa, PX2: 89.2 MPa)が原因で発生したものであると結論付けた(Korean Government Commission, 2019; Ellsworth et al., 2019).この結論の最も重要な根拠は,浦項地震が約0.5 km2という局所的な注水域内(注水井の到達深度: 4.2 ~ 4.3 km)を震源に発生したという事実である.しかし,震源域での間隙流体圧レベルや,本震に続く活発な地震活動の駆動メカニズムはよくわかっていない.

本研究では,地震のメカニズム解から応力場と間隙流体圧場を推定する2つの逆解析を通じて,この地震の発生メカニズムを考察する(Terakawa et al., 2020). まず,Kim et al. (2020) による91個の地震のメカニズム解(データ期間:2017年11月15日~2018年3月18日,前震2個,本震,余震88個)をデータに,CMTデータインバージョン法(Terakawa and Matsu’ura, 2008)により,震源域周辺域(東西:14 km,南北:11 km,深さ:7 km)の応力場のパターンを推定した.対象地域の応力場は東西圧縮の横ずれ断層型と推定され,これは浦項地震発生前のより長い期間(6~20年間)のデータを用いた応力インバージョンの結果(Chang et al., 2010; Soh et al., 2018)とよく一致する.本研究で用いたデータの大部分は余震であるが,浦項地震前後で応力場のパターンに大きな変化が見られないことは,震源域の絶対応力が応力降下量に比べて有意に大きいレベルにあることを示唆する.また,この応力場の特徴は,西南日本の応力場とよく似ており,フィリピン海プレートの沈み込み運動が海溝から数百km以上も離れた背弧の応力場を形成する原因であることを示唆し,大変興味深い.

次に,この応力場と対象領域での応力直接測定により推定された摩擦係数の値(0.4)(Hofmann et al., 2019)を基に,同じデータセットから地震メカニズムトモグラフィー法(e.g., Terakawa et al., 2010)により対象領域の平均的な間隙流体圧場を推定した.震源の近傍には,注水井の開口部付近にピークを持つ間隙流体圧の高まりがあり,最大間隙流体圧(の静水圧からの超過圧力)は8 ± 3MPaであった.これは注水による最大坑口圧の1/10程度に相当し,静水圧からの超過圧力を静岩圧と静水圧の差で規格化した無次元量(間隙流体圧係数C)ではC = 0.12となる.

浦項地震本震のメカニズム解は,走向227度,傾斜75度,すべり角143度の逆断層成分を含む右横ずれ断層タイプであった.この断層は,震源域の応力場に対する最適面の補助面に近い向きであり,十分な剪断応力を蓄積しながら,法線応力が高いために滑りにくい断層であった.簡易的に震源域での間隙流体圧の時間発展を調べたところ,前震の発生から本震の発生まで間隙流体圧レベルが増加する傾向が見られた.その後,間隙流体圧は急速に減少し,本震発生から8時間程度で静水圧に戻ることがわかった.本震の断層強度の低下量は約7 MPaと見積もられ,これは数千年間の応力蓄積量に対応する大きな値である.この結果は,注水が浦項地震の発生に重要な役割を果たしたことを支持する.浦項の南方40 kmでは,2016年に慶州地震(Mw 5.4)が発生しており,浦項にも地震を引き起こすに足る十分な応力が蓄積されていただろう.点震源で考えると,最適面とその補助面でのすべりは同じ変形を引き起こす.つまり,注水で弱くなった補助面で地震すべりが始まれば,周辺域の応力は効率よく解放され,これにより浦項地震は注水量に比べて規模の大きな地震へと成長した可能性がある.



Terakawa et al. (2020), doi:10.1029/2019GL085964