日本地震学会2020年度秋季大会

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Room C

Regular session » S08. Earthquake physics

[S08]PM-1

Sat. Oct 31, 2020 1:00 PM - 2:15 PM ROOM C

chairperson:Shiro Hirano(Ritsumeikan Univ.), chairperson:Takehito Suzuki(Aoyama Gakuin University)

1:15 PM - 1:30 PM

[S08-16] Two forms of the slip fronts and analyzing their propagation velocities by Linear Marginal Stability Hypothesis

〇Takehito Suzuki1 (1.Aoyama Gakuin University)

2つの媒質間の滑りの伝播は理学的・工学的に重要な問題であり、特にその伝播端の伝播速度の決定機構は長く興味を集めてきた。これにはもちろん断層面上の滑りの伝播速度の理解も含まれる。著者も基板上に置いた無限に長い粘弾性ブロックを端から押すというモデルにおいて、滑り速度に非線形に依存する摩擦則の仮定の下、定常状態の滑り端の伝播速度の下限を得ている(Suzuki and Matsukawa, 2019)。本発表ではこの結果を拡張し、滑りにも依存する摩擦力を導入して、滑り端の伝播速度について解析的に考察する。

解析には線形臨界安定性解析(Linear Marginal Stability Hypothesis, LMSH)を用いる。これは伝播速度を求める際に、支配方程式系を伝播端の近傍で線形化してしまうというものである。ここで伝播端にはintruding frontとextruding frontの二通りがあることに注意する(Suzuki and Matsukawa, 2019)。1次元系を考え、ある物理量sの伝播を考える。sがゼロと正の定常状態があるとし、一方が安定、もう一方が不安定であるとする。この時、s=0が不安定でs>0の領域が侵入していく場合をintruding front, s>0が不安定でs=0の領域が侵入していく場合をextruding frontと呼ぶ。sの時間発展方程式において、拡散に相当する項が存在すると、これらのフロントは対称性を失い、異なった伝播速度を生じる。

伝播端ではu~exp( \pm i (kx-omega t) )の平面波を考え(uは変位、k, omegaはそれぞれ複素波数と複素周波数、また複号は上がextruding front, 下がintruding frontである)、kの実部k_r, 虚部k_i, omegaの実部omega_r, 虚部omega_iの4つの未知数を求めることになる。そしてこのためには分散関係の実部・虚部、そして伝播・成長の安定性条件という4つの関係式が必要となる。求めるべき伝播速度はomega_i/k_iであり、k_iとomega_iは正の実数でなければならないことに注意する。

LMSHの考え方に基づき、摩擦力の滑り・滑り速度に対する非線形な依存性を、-C1 u+C2 \dot{u}と線形化する。ここでC1とC2は定数であり、ここでは両者をまとめて摩擦パラメータと呼ぶ。このように符号を定義することで、C1>0かつC2>0の場合がそれぞれMyers and Langer (1993)やSuzuki and Matsukawa (2019)と対応することになる。なお、今回は弱化・強化のあらゆるパターンを考えるため、摩擦パラメータには正負どちらの値も許すことにする。

LMSHに従った結果、omega_iが3次方程式を満たすことが分かった。各項の係数には摩擦パラメータが現れ、それによって正の実数解の個数を分類することができた。特に摩擦パラメータ空間で解の挙動が12個の空間に分類されることが明らかになったのが重要である。これに加えてk_iの解空間も求め、伝播端の速度を統一的に理解するのが将来的な目標となる。伝播の速い地震とゆっくりな地震が摩擦パラメータの観点から統一的に説明されることが期待される。